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しおりを挟むフレディから返信を貰い、次の日。
「んー、どうしようか」
エリオットは身支度をしていた。
軽く朝食を済ました後、少しの間のんびり書に耽り、そして今は出掛けるにあたってどのような服を着るべきなのかと悩んでいた。
普通の人ならばここまで悩むことはないだろうが、この不格好な頭に似合う服がなかなかない。
だからここまで悩んでいた。
どれを着るべきかと様々な服を手に取ると、これじゃない方がいいのではと逡巡する。
「……一先ず、無難にパーカーでいいかな」
ため息混じりに、クローゼットの中から一枚の灰色パーカーを手に取る。
前に買った服でもよかったのだが、この見た目では確実に似合わないだろう。
部屋着を脱ぎ、パーカーに手を通すと髪の毛……ではなくカツラを整え丸眼鏡を掛ける。
机の上から手鏡を取り顔を映すと、ドヤっとキメ顔をしたが。……うん、この見た目じゃ気持ち悪いだけだな。
心做しか軽く傷付いた気もするが、手鏡を机の上に戻す。
身支度は終了したがフレディが迎えに来るので、エリオットは絶賛自宅待機中である。
約束の時間は十一時。約束の時間までは後、数分しかない。
そろそろ来るだろうと思っているとチャイムが鳴り響く。
エリオットは荷物を持つと玄関の扉を開けた。
「おはよう、エル」
扉の向こうには、何処か照れくさそうに微笑を浮かべているフレディが立っていた。
そのフレディの服装は、ネイビー色のコーチシャツにボーダーTシャツ、黒のスキニーパンツ。
……イケメンは似合う服装に身を包むと、イケメン度が爆上がりするらしい。
イケメンという名の神々しい光に、思わず目を背けてしまう。
「…………エル、どうかしたの? もしかして、具合でも悪い?」
「い、いやっ! 大丈夫。それより、早く行こう!!」
「…………? うん」
きょとんとしているフレディに気付くことがなく、玄関を施錠すると二人でエレベーターへ乗り込んだ。
「そういえば、今日何処に行く予定なの?」
「んー、王都で買い物でもと思ったけど……よく良く考えれば明確に行く場所を決めていなかったなぁ」
ここは王都であり、様々な店が立ち並んでいるのだが学園の生徒の大多数は既に何度も散策をしたり買い物をしている。
中には大体の店の位置の把握に加えて、何処に何を売っているのかも分かる人もいるだとか。
…………もし、フレもそれなりと買い物をしているとなれば……昨日の内に考えなかった自分が悪いが列車に乗って遠出した方が良かったのかもしれない。
幸い、王都の周りの街もそれなりと大きい。
完全安全だと言われているこの王都に比べれば多少何かしらの危険は伴うかもしれないが、一駅くらいならまだ大丈夫だろうか。
エリオットが黙考に耽っている最中、フレディが口を開く。
「行くところがないなら、最近出来たショッピングモールでも行く?」
「…………え? そんなの、いつ出来たんだ?」
聞いたことのない言葉に、エリオットは首を傾げた。
「んーと、先月の終わりだったかなぁ」
いつの間にっ!?
学園内でそんなことを話している人なんていなかったぞっ、と心の中で叫んだが……考えてみれば自分はフレディ以外の生徒とは関わろうとしていないことに気が付く。
そう、エリオットと世間話をする者はフレディ以外存在していない。
なお、度々行動を共にするアリスティアやセドリックは除外とする。
エレベーターを降りる。
「で、どうする? 僕はまだ行ったことないけれど、もしかしてエルは行ったことある?」
「いやいや、俺も行ったことはない。だが、行くとしてもそれは何処にあるんだ?」
「えーと、八区だったかな。だから少し歩くけど……」
記憶が合っていれば、この王都は十区まで存在している。
門が西南の二つにあり、南の門が一区で西の門は六区。
この学園は丁度中心街の方に存在しているから五区で、城の方は一番奥にあるので十区となる。
復学する前に買い物した場所は、学園から近かったので五区にあたるだろう。
五区から八区までとなると……三十分程度で着くだろうか。
「別に歩くことなら大丈夫。じゃあ、今日はそこに行こうか」
「うんっ」
寮を出て門へ向かうと門番の人に門を開いてもらい、二人は街の方へ足を進めた。
学園の外に出ると、がらりと雰囲気が変わる。
豊かな緑の自然の中に、目を引く赤色の屋根が道沿いに連なっていた。
その風景を眺めながら歩いていくが、王都であるためか人がごった返していた。
行商人が荷馬車を引いていく光景や、様々な民族衣装や自分たちのような衣服を身に纏っている者たちを見ると、今自分がいる時代はあの日々からかなり先の未来なんだと実感するのと同時に何処か落ち着かない。
六区、七区と歩き、そして遂に目的地であるショッピングモールが建っているという八区に到着した。
流石五区に比べて富裕層が暮らしている八区だからか、光を放つ宝石類の露店や、季節外れではあるが毛皮のコートなどの高級品が売られている。
それに気の所為だと思うが、この場にいる人々はお高そうな衣服に身を包んでいるような、そんな気がした。
「ここがショッピングモールだよ」
「……大きいな」
目の前には白くて大きな建物が聳えていた。
イメージでは少し小さめな邸のサイズ感であったが、城の中庭に余裕で匹敵する大きさである。
……よくこんなのが建てられる土地があったな。
にしても、この四階建てのショッピングモールという建物は周辺の住居とは何だか違う造りだ。
一体何処の地域の建築様式なのだろうか。
だが、ここで考えに耽っていても仕方がないと、エリオットとフレディはショッピングモールへ足を進める。
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