だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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「エル。本当に、何ともないの?」
「ああ、大丈夫だって」

 現在、学園内のホールに集まっていた。
 沢山の円卓テーブルに色とりどりな食べ物が置かれており、それを自由に取るというバイキング形式だ。
 あの後、生徒会長の計らいで中止せずに執り行われていた宝探しゲーム。
 食堂の料理一年間無料は獲得することは出来なかったが、こうして様々な料理を口にすることによってどうでもよくなっていた。

「でも、本当エリオット様にお怪我なくて良かったです」
「ほんまやで。聞いた時は、心臓止まるかと思たで」
「…………」

 てか、何故自然にこの二人がいるんだよ!!
 頭の中お花畑の握力ゴリラアリスティアに、関わりたくない風紀委員の厨二病セドリックは、知らない間にごく自然にこの場に馴染んでいた。
 俺とフレのほのぼのお食事タイムを邪魔しやがって……。
 睥睨へいげい目を向けると、セドリックが口を開いた。

「そういえばアリスティアは、ゲームの方はどうやった?」
「え、わたくしですか?」
「せや、自分は見回りしてたさかい。けどなアリスティアの姿は見いひんかったな」

 風紀委員は見回りしていたのか……なら、あの時生徒会長が現れたのも見回りだったのか。
 見回りしていたセドリックがアリスティアに気が付かなかったということは、何一つ問題を起こさなかったのだろうか。
 ……俺は確実に問題を起こすと思っていたが。

「えっと……わたくしは」

 すると、アリスティアは制服のポケットから一枚の紙切れを取り出した。

「運良く、あたりを引き当てることが出来ましたわ!!」
「おぉっ凄いなぁアリスティアは」

 照れくさそうに笑っているアリスティアは、見た目だけでは本当お人形の様な美しい女の子。
 だというのに、自らヒロインという頭の中お花畑という詐欺。
 メルヘンチックとは何処か違う言動だが、俺以外の生徒はそれに気付いているのだろうか。

「おめでとう、アリスティア。凄いね」
「えへへ、ありがとうございます。フレディ様」

 けっ、フレに褒められ嬉しそうに照れているが、俺は妨害してやるからな。
 二人の間に割って入ろうとした時、アリスティアは言葉を発した。

「それではわたくし、アラン様にご挨拶をしてきますね!!」

 そう言い残し、アリスティアは走り去った。

「……アラン……様?」

 誰だ? アリスティアに目を付けられた可哀想な奴は。

「知らへんの? この学園の生徒会長やで」
「……そうだったのか」

 あの時はお互い自己紹介する雰囲気ではなかったし、そもそもこれ以上関わる気がないから名前なんて知らなくてもいいだろう。
 今一度関わってしまった者達を整理しようと、エリオットは黙考を始める。
 関わってしまった者は、風紀委員長のディランに、風紀委員のセドリック。
 セドリックはまだしも、風紀委員長のディランとはあれから関わってはいない。
 他の風紀委員も同じく関わっていない。
 生徒会ではクライヴにエドワード、そして先ほど判明した生徒会長のアランだ。
 この三人とは、セドリックに比べれば多少関わってしまっただけである。
 他の役員は名前さえも耳にしておらず、このままそれをキープし続けることが出来ればいいが……。
 こう考えてみると、それほど風紀委員と生徒会に出くわしていない気もするが、これ以上関わりたくはないというのが本音だ。
 頷きながら左手で持っていた皿から小さなケーキをフォークで取ると、口に含む。
 そんな時、思いもしなかった人物が現れた。

「あら、あなたは……」
「ブッ!!」
「え、エルっ!? 大丈夫?」
「あらあら、大丈夫ですか?」

 突然目の前に現れた、この金髪碧目の男子生徒は……確か。

「ん? おやおや、これは生徒会副会長のクライヴや。どないしたん?」
「セドリック……。あなた、少しは敬語を使ったらどうですか?」
「あー、すまへんな。自分、敬語苦手ねん」
「……そういう問題じゃないでしょう。将来、困りますよ」

 俺は敬語以前に、現在進行形で困っているけどな。
 吹き出しそうになったケーキを飲み込むと、エリオットはフレディの後ろへ隠れる。

「エル?」

 首を傾げているフレディの後ろに隠れたエリオットを見て、クライヴは言葉を吐いた。

「あら、どうかしましたか? 私と一緒にお茶をした仲というのに」
「えっ! そうなん!? 自分だってエリオットとお茶したいで。ずるいわぁ」

 それは生徒会役員だと、気付かなかったからだよ!!
 心の中で抗議しつつ、フレディの後ろから様子を伺う。
 まさか、関わりたくないと思っていた矢先に……俺は別にフラグ回収したいわけではないんだからな!!

「あ、クライヴ。何してるの?」

 そんな中、一人の女子生徒が向かってくる。
 ピンク色のツインテールに目の色は緑色で、身長は145センチメートル程の小柄な可愛い女子生徒。
 だが、忘れてはならないことがある。
 生徒会は白を基調とした軍服のような衣装を羽織っており、風紀委員は黒いロングコートに紅い腕章を付けている。
 この、女子生徒は……。

「どうしたんですか? ディアナ」
「んー、ボクはクライヴが珍しく風紀の人といたから見に来ただけだよ」

 白を基調とした軍服を羽織っている……こいつも生徒会役員だっ!!
 何故俺の所に集まってくるんだっ!!
 ガルルル……と内心威嚇していると、ディアナが前触れもなく指を指した。

「あっ、エリオット・オズヴェルグがいるっ!!」
「は?」

 な、名指し!? というか、何故フルネームなんだよ!!
 突然の名指し……しかもフルネームを発せられたエリオットは、吃驚する。
 唖然とディアナのことを凝視しているエリオットに対し、フレディが問い掛ける。

「……エル、顔見知りなの?」
「いや、あのクライヴという人は確かに顔見知りだが、あの子は知らないっ」
「ボクのことを知らないの? ボクはこの学園で、一番キュートな女子生徒なのに」

 ……なんだ、この人もアリスティアと同じで頭の中お花畑なのか……。
 思わず冷めた視線を送ってしまう。

「まあ、いいけど。ボクの名前はディアナ・アルノルト。生徒会では会計の仕事を任されているの」

 腰に手を当て、胸元に右手を当て自己紹介するディアナ。
 それを見たクライヴは、同じように胸元に手を当て自己紹介を始めた。

「では、私も改めまして。名は、クライヴ・バラティエと申します。生徒会では副会長を任されております」
「…………え?」

 なっ、なんていうことだ。
 生徒会の一番レア度が高い生徒会長ではなく、その次にレア度が高い副会長まで関わっていたとは……。
 エリオットは、顔を青白くすると微かに体が震えた。

「……エル、大丈夫?」
「え、あ、だ、大丈夫……」

 本当は大丈夫じゃないんだけどな!!

「ん? これは自己紹介の流れなん? なら、自分もーー」
「お前はしなくていい」
「何でや!? 自分だって、やってみたいねん!! この流れに乗りたいねん!!」

 セドリックは、体を大きく使いながら抗議をする。

「ざ~んねんっ! セドリック、案外嫌われているんじゃないの?」

 ふふっと笑うディアナに対し、セドリックは大声をだした。

「なっなんやと!? エリオット、んなわけないやろ!? そうだと言ってくれや!!」
「ちょっ、やめろよ!!」

 エリオットの両肩を掴み、セドリックは真剣な眼差しでそう言葉を発する。
 ……本音は、嫌いという前に関わりたくないのだが……それを言えば確実に面倒臭いことが起きる。
 「何でや、何でそんなこと言うんやっ!!」と、泣き喚くセドリックが脳裏に浮かぶ。
 だからといい、嫌いじゃないと言うと調子に乗るだろう。
 剣呑していると、救世主が現れる。

「セドリック。エルは人見知りするんだから、ほら離れて」
「うぅ、仕方ないなぁ」

 フレディにそう諭されたことにより、セドリックはエリオットから離れた。
 エリオットはホッと安堵の息を吐く。
 ありがとうとフレディに会釈すると、フレディは微笑を浮かべた。
 ……にしても、何故俺の周りにはこうも関わりたくない奴らが集まってくるんだよ。
 俺はただ、フレと共に平穏な日常を過ごしたいというというのに。
 行き場のない心苦しさが胸中を支配すると、エリオットはため息をついたのであった。

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