上 下
15 / 75

15

しおりを挟む

「…………は?」

 思わず声が漏れてしまうほど、目の前で起こっている出来事が信じられなかった。

「お邪魔するで」
「ご一緒させて頂きますわ」

 授業終了後、エリオットは食堂でフレディを待っていたのだが、現れたフレディは一人ではなく、あの関西弁厨二病なセドリックに、自らのことをヒロインと言っていた頭の中お花畑のアリスティアと共に現れた。
 ……絶対に関わりたくない二人と来るなんて、一体どういう経緯でそうなったんだよ!!

「ごめんね、エル。断ろうとしたんだけど……上手く断れなくて……」

 フレディは申し訳なさそうに、コソッと耳元で言葉を発した。
 ……まあ、フレはお人好しな一面もあるからなぁ。
 これは仕方がないかと、エリオットは割り切ることにした。
 それでもフレディは罪悪感を感じているようで、エリオットに言葉を掛ける。

「今日のデザートの苺プリンあげるから。エル、好きだったでしょ?」
「え……いや、流石に悪いよ」

 ……フレが悪いわけじゃないというのに。
 けれど、フレディは一切引かなかった。

「ううん、僕があげたいんだ。だから、受け取って欲しいな」
「そ、そうか……そこまで言うなら貰うよ」
「うん!」
「……あの~お二人さん? 二人っきりの世界に入らんといてや」

 おずおずと口角に手を添え、セドリックはそう言うと、それに続くかのようにアリスティアが言葉を発した。

「そうですわ。わたくしは御二方と仲良くしたいというのに……仲間外れは嫌ですわ」

 別に俺は仲良くしたくないけどな!!
 もしお前がフレのことが好きだったとしても、影から妨害してやる。
 まるで嫉妬をしている彼女かのように、エリオットはプクッと頬を膨らませた。

「せやけどな、アリスティア。エリオットは人見知りするんやて。こら仲良くなるのに時間が掛かるで」
「あら、そうでしたの? でもわたくし……どうしても仲良くなりたいので、これからはこうしてたまにでもご一緒に食事をしたいですわ」
「え?」

 タッチパネルを操作し終わったフレディは、吃驚した様子で目を見開いた。
 まあ、その反応はするよな。
 俺だって、軽く素で叫びそうになったからな。

「もしかして……ご迷惑ですか?」
「……え、その……」

 フレディはどうしようと、助けを求めるかのようにエリオットへ目線だけで助けを求めた。
 かくいうエリオットも、どうすればいいのか分からずにいた。
 本音は断りたいが……真正面から断ってしまうと確実に面倒なことになるだろう。
 例えばセドリックが「何でや!? お二人さん自分らこと嫌いなん!? そんなの酷いわぁ」と言ったり。
 逆にアリスティアは「どうしてそんなことを言うんですか。……わたくしはただ、御二方と仲良くなりたいだけだというのに……」と、泣く可能性がある。
 まぁ、その涙が虚偽である可能性も否めないけどな。
 それからこの転校生は性格上何かしら問題を起こすだろうし、それに加え了承してしまうと必然的にこの風紀委員であるセドリックとも共に食事をする羽目になってしまう。
 ただ食事をするだけならば、なんとか耐えてみせよう。
 だが少しでも交流を深めてしまうと、確実にこの二人は学校内や敷地内にいる限りは目の前に現れるだろう。
 断っても地獄、了承しても地獄だな。
 額に皺を寄せ、どうすればいいのか当惑していると、意外にもセドリックが口を開いた。

「こらこら、アリスティア。流石にいきなり二人の間に入るのはあかんで? せめて、お邪魔するのは週に二日にすべきやで?」

 まあ、まだ連日のように来られるよりはマシか……って、なに俺は頷いているんだっ!!

「そうですか……」
「せや。それに、自分も風紀委員の仕事もあるさかいしな」
「風紀委員は委員会の中だと、生徒会の次に忙しいからね」

 そういえば、フレも委員会に入っていたんだっけ?
 一体どの委員会に所属しているのかは知らないが、関わりたくない生徒会と風紀委員以外だと……学園内でのニュースを新聞にしたり、パンフレット作成などを手掛けている広報委員会。
 体育祭で企画実行を担当する体育委員会。
 庭園での花の手入れや水やりをする、緑化委員会。
 怪我をした場合の治療や怪我人を運ぶ、保健委員会。
 確か他の委員会はこの四つだろう。
 生徒会や風紀委員に所属していない特待生約三名ずつが他の委員会に所属しているが、それだけでは人数が足りないため立候補者や推薦された者が数名抜擢されていたはず。
 ……これを踏まえると俺以外の特待生は全員、何かしらの委員会に所属していることになる。
 ……何故、俺は委員会所属を免れているのだろうか。
 何らかの理由で、特別に免除されているのか?
 黙考に耽っていると、注文した料理が運ばれてくる。
 各自料理に手を付けると、アリスティアが口を開く。

「あの、フレディ様の好きな食べ物は何ですか?」
「え、僕? ……そうだね。僕は肉類全般が好きだよ」
「肉類、ですか?」

 そういえばフレ。また生姜焼きを食べているな。
 肉料理の中でも、生姜焼きが一番の好物なのだろうか。

「では、セドリック様は?」
「自分? そりゃたこ焼きやで」

 セドリックは鼻を鳴らすと、皿に大量に盛り付けられているたこ焼きを箸で掴むと、口内に投げ入れる。

「それなら、エリオット様は?」
「……俺、か……」

 まあ、この流れ的に自分の番が回ってくるとは思っていたが……問われると案外浮かばないものである。
 なら、最近食べて美味しかったものは……。

「……強いて言うなら、オムライスと甘いものかな」

 この間食べたオムライス、凄く美味しかったなぁ。
 今日は新規開拓として肉じゃが定食だが、これもなかなかいける味だ。

「そうですか。……訊いた感じ、好きな食べ物はゲームとは変わっていないようね。なら、他の情報もきっと……」

 アリスティアは一人何か呟いていたようだが、エリオット達は気にとめることもなく食事を進めていく。
 意外にも食事中は問題が起こることもなく無事に終わり、午後の授業も平和に受けることが出来た。
 魔法の授業も今回は出力を調整し、目立つこともなく終えると、フレディと共に寮へ帰る。
 自室へ帰宅するとカツラと丸眼鏡を取り、部屋着へ着替える。
 台所へ行き、ペットボトルの飲料水を取り出すとソファーへ腰を下ろす。

「遂に明日か……新入生歓迎会」

 エリオットは危惧していた。
 何かしらの問題が起こるのではないかと。特にあのアリスティアの周りで。
 それに巻き込まれることだけは避けなくては。
 だが、明日の新入生歓迎会は一年のみではなく全校生徒が参加する行事だ。
 なら、その人混みにフレディと共に紛れ込んでしまえばいい。
 流石のアリスティアも、全校生徒の中から俺らを探し出すことは不可能であろう。
 エリオットは飲料水を飲み干すとゴミ箱に捨て、お風呂場へ向かったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロインどこですか?

おるか
BL
妹のためにポスターを買いに行く途中、車に轢かれて死亡した俺。 妹がプレイしていた乙女ゲーム《サークレット オブ ラブ〜変わらない愛の証〜》通称《サクラ》の世界に転生したけど、攻略キャラじゃないみたいだし、前世の記憶持ってても妹がハマってただけで俺ゲームプレイしたことないしよくわからん! だけどヒロインちゃんが超絶可愛いらしいし、魔法とかあるみたいだから頑張ってみようかな。 …そう思ってたんだけど 「キョウは僕の大切な人です」 「キョウスケは俺とずっといるんだろ?」 「キョウスケは俺のもんだ」 「キョウセンパイは渡しませんっ!」 「キョウスケくんは可愛いなぁ」 「キョウ、俺以外と話すな」 …あれ、攻略キャラの様子がおかしいぞ? …あれ、乙女ゲーム史上もっとも性格が良くて超絶美少女と噂のヒロインが見つからないぞ? …あれ、乙女ゲームってこんな感じだっけ…?? 【中世をモチーフにした乙女ゲーム転生系BL小説】 ※ざまあ要素もあり。 ※基本的になんでもあり。 ※作者これが初作品になります。温かい目で見守っていて貰えるとありがたいです! ※厳しいアドバイス・感想お待ちしております。

嫌われ者だった俺が転生したら愛されまくったんですが

夏向りん
BL
小さな頃から目つきも悪く無愛想だった篤樹(あつき)は事故に遭って転生した途端美形王子様のレンに溺愛される!

隠し攻略対象者に転生したので恋愛相談に乗ってみた。~『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けないでください‼~

黒雨
BL
罰ゲームでやっていた乙女ゲーム『君と出会えた奇跡に感謝を』の隠し攻略対象者に転生してしまった⁉ 攻略対象者ではなくモブとして平凡平穏に生きたい...でも、無理そうなんでサポートキャラとして生きていきたいと思います! ………ちょっ、なんでヒロインや攻略対象、モブの恋のサポートをしたら『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けるんですか⁈ これは、暇つぶしをかねてヒロインや攻略対象の恋愛相談に乗っていたら『愛の女神』などと不本意な称号を付けられた主人公の話です。 ◆注意◆ 本作品はムーンライトノベルズさん、エブリスタさんにも投稿しております。同一の作者なのでご了承ください。アルファポリスさんが先行投稿です。 少し題名をわかりやすいように変更しました。無駄に長くてすいませんね(笑) それから、これは処女作です。つたない文章で申し訳ないですが、ゆっくり投稿していこうと思います。間違いや感想、アドバイスなどお待ちしております。ではではお楽しみくださいませ。

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

転生したら乙女ゲームの世界で攻略キャラを虜にしちゃいました?!

まかろに(仮)
BL
事故で死んで転生した事を思い出したらここは乙女ゲームの世界で、しかも自分は攻略キャラの暗い過去の原因のモブの男!? まぁ原因を作らなきゃ大丈夫やろと思って普通に暮らそうとするが…? ※r18は"今のところ"ありません

処理中です...