上 下
13 / 75

13

しおりを挟む

 風紀委員室で一人、書類作成を行っているディラン。
 デスクの上に置いてある珈琲を口に含んだ時、扉が開き、一人の女子生徒が室内に足を踏み入れた。

「委員長~見回り終わったよ」
「そうか、ご苦労。レティシア」

 レティシアと呼ばれた紫色の髪を持つ女子生徒は緑色のソファーに身を沈めると、数秒後足をばたつかせた。

「委員会~。妾、やることないよ。暇だぞ~」
「それなら書類整理をしてくれ」
「はいは~い」

 レティシアはソファーから立ち上がると、テーブルに積まれた書類を番号順に整頓し始めた。
 デスクに座っている風紀委員長であるディランは書類を書き、レティシアは書類整理。
 そんな静かな空間の中に、突如爆弾が落とされた。

「ディランさん!! おれ、仕事終えました!! 是非ご褒美として踏み付けてください!!」
「だ、ダメだよ。ディランさんはお仕事で忙しいんです! 邪魔したらダメです!」

 勢い良く扉を開け放した緑色の髪に藤色の瞳を持つ男子生徒……ダニエルは、両腕を上げ大音声を上げる。
 共にやってきたシェリーはダニエルを静かにさせようと試みるが上手くいかず、ダニエルは一目散にディランの元へ行くとスライディング土下座をした。

「ディランさん、お願いします!! 是非罵って踏み付けて蹴飛ばしてください!!」

 あまりの真剣な面持ちで頼み込むダニエルのことを見たレティシアは、「また始まったぞ」と呆れ気味に息を吐いた。
 ディランはペンを置くと、ダニエルに対して口を開いた。

「すまないな。生憎忙しいし、俺には人を痛ぶる趣味はないんだ」
「そうだよ。委員長は相手しなくていいよ。あんなマゾヒストなんて」

 そう、ダニエル……ダニエル・ゴードンはマゾヒストだ。
 それに加えて、風紀委員長であるディランを崇め倒している。
 気分屋で同性好きであるダニエルは、ディランに対して恋愛感情を少しばかりかは抱いているのかしつこく付きまとっているのだ。
 下心という名の嬲りをディランに求めているのだが、求められているディランは軽く受け流している。
 「あぁ、そんなディランさんも素敵」と、デレデレな視線を向けた。

「ダニエルさん。……その、今日の報告を書かないと……ダメです」
「え~、おれ今はディランさんを眺めている仕事してるから後にする~」
「……そ、そうですか」

 この少しおどおどしている女子生徒、シェリー・スティレール。
 天然でほわほわしている子だがネガティブな性格で、すぐ自分を責めてしまう。
 そして無類なお菓子好きで、よくマフィンを作っては風紀委員メンバーに差し入れをしている。
 緩い三つ編みをしているクリーム色の髪に、蜂蜜色の大きな瞳。
 風紀委員の証である黒いロングコートには猫耳フードが付いている特注品で、生徒会のエドワードと同じく黒猫のようだ。

「そういえば、ジェラール副委員長とクロードとセドリックはいないんだ」
「セドリックなら、仕事を終えてすぐに報告書を書いて教室に戻ったな」
「……あの関西弁厨二病は、仕事だけは早いね」

 レティシアは書類整理を終えると、棚に閉まっていき、全て仕舞い終わるとくるりと方向転換する。

「まあ、セドリックは喧嘩がそれなりと強いし、何かあったとしても一人で大丈夫でしょ。でも、逆にシェリーは一人に出来ないね」
「え、わたしですか!?」

 報告書を書いていたシェリーは、突然の名指しに顔を上げた。

「確かに。すぐドジするし」

 ディランの足にしがみついているダニエルはそう言う。
 その言葉に釣られてか、ディランも口を開く。

「そうだな。シェリーは絡まれることが多いからな。流石の俺も、一人にはしたくない」
「でぃ、ディランさんまで……」

 恥ずかしさのあまり、シェリーは顔を手で覆い隠した。
 そんな最中、扉が開かれた。

「おまんら、集まっちゅーのか?」
「あ、ジェラール副委員長」

 扉を開けた人物は、副委員長であるジェラール・アディンセル。
 青髪に紫色の瞳で、かなりの菜食主義者である。
 毎日暇さえあれば野菜スティックをボリボリ噛んでいるくらい、野菜好きだ。
 ジェラールは持っていたダンボールを床に置くと、開き始めた。

「なんですか? それ」
「おまんには分からんのか? もう今の時期は、その格好あっつろう。これは夏服ぜよ」

 そう言い取り出されたのは、現在身に纏っている黒いロングコートと同じデザインで、尚且つ半袖になった衣服だ。

「そうか、もうそんな時期か」
「そうぜよ。この服は少々生地が厚いやろ? やき、衣替えの季節ちや」
「ちゃんと、わたしの服……猫耳ついてる」
「それは当たり前ぜよ」

 シェリーは自身の服に猫耳が付いているのが大層嬉しいのか、服を抱きしめるとはにかんだ。
 一方レティシアは、夏服を手に持つとくるりと回った。

「じゃあ、妾達は一足先に夏服にしよう! 生徒会に比べると、外に出て動くことが多いしね」

 室内で書類作成をしている生徒会とは違い、風紀委員は主に外で活動している。
 その活動内容は主に校内、または敷地内での見回りだ。
 この学園は、特に親衛隊が不祥事を起こすことがある。
 そのため主にその事件の調査や、事前に防ぐために動いていた。
 他にすることといえば、空き教室の見回りや、風紀委員室での書類作成に生徒会との会議、全ての委員会が集う集会とかだ。
 今は新入生歓迎会のこともあり、書類作成や地図を広げ何処を重点的に見回りするかなどを話し合うことが多い。
 今日役員達は、その新入生歓迎会の際の見回りの下見をしていたのだ。
 新入生歓迎会は、親衛隊が活発に動くイベントの一つだ。
 事件が起こらないように危惧し、見回りをしっかりしなくてはならない。
 幸い準備期間の間に、問題を起こさなかったことだけが救いだろう。
 ディランは書類作成に一区切りをつけると、デスクから立ち上がる。

「あれ? 委員長、何処に行くの?」
「少し、気分転換に校内を散策してくる。後、その夏服は無くさないようにしろよ」

 そう言い残し、ディランは風紀委員室を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロインどこですか?

おるか
BL
妹のためにポスターを買いに行く途中、車に轢かれて死亡した俺。 妹がプレイしていた乙女ゲーム《サークレット オブ ラブ〜変わらない愛の証〜》通称《サクラ》の世界に転生したけど、攻略キャラじゃないみたいだし、前世の記憶持ってても妹がハマってただけで俺ゲームプレイしたことないしよくわからん! だけどヒロインちゃんが超絶可愛いらしいし、魔法とかあるみたいだから頑張ってみようかな。 …そう思ってたんだけど 「キョウは僕の大切な人です」 「キョウスケは俺とずっといるんだろ?」 「キョウスケは俺のもんだ」 「キョウセンパイは渡しませんっ!」 「キョウスケくんは可愛いなぁ」 「キョウ、俺以外と話すな」 …あれ、攻略キャラの様子がおかしいぞ? …あれ、乙女ゲーム史上もっとも性格が良くて超絶美少女と噂のヒロインが見つからないぞ? …あれ、乙女ゲームってこんな感じだっけ…?? 【中世をモチーフにした乙女ゲーム転生系BL小説】 ※ざまあ要素もあり。 ※基本的になんでもあり。 ※作者これが初作品になります。温かい目で見守っていて貰えるとありがたいです! ※厳しいアドバイス・感想お待ちしております。

嫌われ者だった俺が転生したら愛されまくったんですが

夏向りん
BL
小さな頃から目つきも悪く無愛想だった篤樹(あつき)は事故に遭って転生した途端美形王子様のレンに溺愛される!

隠し攻略対象者に転生したので恋愛相談に乗ってみた。~『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けないでください‼~

黒雨
BL
罰ゲームでやっていた乙女ゲーム『君と出会えた奇跡に感謝を』の隠し攻略対象者に転生してしまった⁉ 攻略対象者ではなくモブとして平凡平穏に生きたい...でも、無理そうなんでサポートキャラとして生きていきたいと思います! ………ちょっ、なんでヒロインや攻略対象、モブの恋のサポートをしたら『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けるんですか⁈ これは、暇つぶしをかねてヒロインや攻略対象の恋愛相談に乗っていたら『愛の女神』などと不本意な称号を付けられた主人公の話です。 ◆注意◆ 本作品はムーンライトノベルズさん、エブリスタさんにも投稿しております。同一の作者なのでご了承ください。アルファポリスさんが先行投稿です。 少し題名をわかりやすいように変更しました。無駄に長くてすいませんね(笑) それから、これは処女作です。つたない文章で申し訳ないですが、ゆっくり投稿していこうと思います。間違いや感想、アドバイスなどお待ちしております。ではではお楽しみくださいませ。

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

転生したら乙女ゲームの世界で攻略キャラを虜にしちゃいました?!

まかろに(仮)
BL
事故で死んで転生した事を思い出したらここは乙女ゲームの世界で、しかも自分は攻略キャラの暗い過去の原因のモブの男!? まぁ原因を作らなきゃ大丈夫やろと思って普通に暮らそうとするが…? ※r18は"今のところ"ありません

処理中です...