だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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 風紀委員室で一人、書類作成を行っているディラン。
 デスクの上に置いてある珈琲を口に含んだ時、扉が開き、一人の女子生徒が室内に足を踏み入れた。

「委員長~見回り終わったよ」
「そうか、ご苦労。レティシア」

 レティシアと呼ばれた紫色の髪を持つ女子生徒は緑色のソファーに身を沈めると、数秒後足をばたつかせた。

「委員会~。妾、やることないよ。暇だぞ~」
「それなら書類整理をしてくれ」
「はいは~い」

 レティシアはソファーから立ち上がると、テーブルに積まれた書類を番号順に整頓し始めた。
 デスクに座っている風紀委員長であるディランは書類を書き、レティシアは書類整理。
 そんな静かな空間の中に、突如爆弾が落とされた。

「ディランさん!! おれ、仕事終えました!! 是非ご褒美として踏み付けてください!!」
「だ、ダメだよ。ディランさんはお仕事で忙しいんです! 邪魔したらダメです!」

 勢い良く扉を開け放した緑色の髪に藤色の瞳を持つ男子生徒……ダニエルは、両腕を上げ大音声を上げる。
 共にやってきたシェリーはダニエルを静かにさせようと試みるが上手くいかず、ダニエルは一目散にディランの元へ行くとスライディング土下座をした。

「ディランさん、お願いします!! 是非罵って踏み付けて蹴飛ばしてください!!」

 あまりの真剣な面持ちで頼み込むダニエルのことを見たレティシアは、「また始まったぞ」と呆れ気味に息を吐いた。
 ディランはペンを置くと、ダニエルに対して口を開いた。

「すまないな。生憎忙しいし、俺には人を痛ぶる趣味はないんだ」
「そうだよ。委員長は相手しなくていいよ。あんなマゾヒストなんて」

 そう、ダニエル……ダニエル・ゴードンはマゾヒストだ。
 それに加えて、風紀委員長であるディランを崇め倒している。
 気分屋で同性好きであるダニエルは、ディランに対して恋愛感情を少しばかりかは抱いているのかしつこく付きまとっているのだ。
 下心という名の嬲りをディランに求めているのだが、求められているディランは軽く受け流している。
 「あぁ、そんなディランさんも素敵」と、デレデレな視線を向けた。

「ダニエルさん。……その、今日の報告を書かないと……ダメです」
「え~、おれ今はディランさんを眺めている仕事してるから後にする~」
「……そ、そうですか」

 この少しおどおどしている女子生徒、シェリー・スティレール。
 天然でほわほわしている子だがネガティブな性格で、すぐ自分を責めてしまう。
 そして無類なお菓子好きで、よくマフィンを作っては風紀委員メンバーに差し入れをしている。
 緩い三つ編みをしているクリーム色の髪に、蜂蜜色の大きな瞳。
 風紀委員の証である黒いロングコートには猫耳フードが付いている特注品で、生徒会のエドワードと同じく黒猫のようだ。

「そういえば、ジェラール副委員長とクロードとセドリックはいないんだ」
「セドリックなら、仕事を終えてすぐに報告書を書いて教室に戻ったな」
「……あの関西弁厨二病は、仕事だけは早いね」

 レティシアは書類整理を終えると、棚に閉まっていき、全て仕舞い終わるとくるりと方向転換する。

「まあ、セドリックは喧嘩がそれなりと強いし、何かあったとしても一人で大丈夫でしょ。でも、逆にシェリーは一人に出来ないね」
「え、わたしですか!?」

 報告書を書いていたシェリーは、突然の名指しに顔を上げた。

「確かに。すぐドジするし」

 ディランの足にしがみついているダニエルはそう言う。
 その言葉に釣られてか、ディランも口を開く。

「そうだな。シェリーは絡まれることが多いからな。流石の俺も、一人にはしたくない」
「でぃ、ディランさんまで……」

 恥ずかしさのあまり、シェリーは顔を手で覆い隠した。
 そんな最中、扉が開かれた。

「おまんら、集まっちゅーのか?」
「あ、ジェラール副委員長」

 扉を開けた人物は、副委員長であるジェラール・アディンセル。
 青髪に紫色の瞳で、かなりの菜食主義者である。
 毎日暇さえあれば野菜スティックをボリボリ噛んでいるくらい、野菜好きだ。
 ジェラールは持っていたダンボールを床に置くと、開き始めた。

「なんですか? それ」
「おまんには分からんのか? もう今の時期は、その格好あっつろう。これは夏服ぜよ」

 そう言い取り出されたのは、現在身に纏っている黒いロングコートと同じデザインで、尚且つ半袖になった衣服だ。

「そうか、もうそんな時期か」
「そうぜよ。この服は少々生地が厚いやろ? やき、衣替えの季節ちや」
「ちゃんと、わたしの服……猫耳ついてる」
「それは当たり前ぜよ」

 シェリーは自身の服に猫耳が付いているのが大層嬉しいのか、服を抱きしめるとはにかんだ。
 一方レティシアは、夏服を手に持つとくるりと回った。

「じゃあ、妾達は一足先に夏服にしよう! 生徒会に比べると、外に出て動くことが多いしね」

 室内で書類作成をしている生徒会とは違い、風紀委員は主に外で活動している。
 その活動内容は主に校内、または敷地内での見回りだ。
 この学園は、特に親衛隊が不祥事を起こすことがある。
 そのため主にその事件の調査や、事前に防ぐために動いていた。
 他にすることといえば空き教室の見回りや、風紀委員室での書類作成に生徒会との会議。全ての委員会が集う集会とかだ。
 今は新入生歓迎会のこともあり、書類作成や地図を広げ何処を重点的に見回りするかなどを話し合うことが多い。
 今日役員達は、その新入生歓迎会の際の見回りの下見をしていたのだ。
 新入生歓迎会は親衛隊が活発に動くイベントの一つだ。
 事件が起こらないように危惧の念を抱き、見回りをしっかりしなくてはならない。
 幸い準備期間の間に問題を起こさなかったことだけが救いだろう。
 ディランは書類作成に一区切りをつけると、デスクから立ち上がる。

「あれ? 委員長、何処に行くの?」
「少し、気分転換に校内を散策してくる。後、その夏服は無くさないようにしろよ」

 そう言い残し、ディランは風紀委員室を後にした。
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