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しおりを挟む次の日。エリオットは教室でフレディと言葉を交わしていた。
「明日だね。新入生歓迎会」
「そうだな。……何になったんだろうか」
面倒臭い行事であろう新入生歓迎会が、明日行われる。
一体何をするのかは分からないが、可能であれば楽なの……特に立食パーティーとかならいいんだが。
俺は頑固立食パーティー推しで行きたいが、膨大な数を準備しなくてならない食事に経費とか掛かりそうだしな……難しいだろうか。
黙考に耽っている時、フレディが言葉を発した。
「あ、そういえば僕。エルが言っていた転校生に会ったよ」
「は、いつ!?」
思わず掴みかかってしまいそうな程の声量に、フレディは驚きつつ言葉を続けた。
「昨日エルを寮に送った後、いつもの場所で読書をしていた時にやって来たんだ」
「あの場所か……」
庭園内にある水路の近くにある木が、いつもフレディが読書をしている場所だ。
だがあの場所は男子寮側にあるのだが……何故女子生徒であるアリスティアがやって来たんだろうか。
迷子というよりは、確実に何か目的があるように思えて仕方がない。
「でもね、その転校生のアリスティアさ……」
「アリスティア!? フレ、呼び捨てで呼ぶ仲なのか!?」
「え、いや……僕は最初はさん付けだったんだけど、彼女が呼び捨てで呼んでほしいとか……」
何だとっ!?
エリオットは知らず知らずに歯を食いしばってしまう。
「でもね、その転校生のアリスティアさ。別に普通の女子生徒な気がするけど……何で近付くなって言ったの?」
「……それは」
どう言おうか悩む。
突然自らのことをヒロインと言い、尚且つあの見た目で握力がゴリラ並で、人のことを様付けで呼んだりとか……。
……まあ悩んでも仕方がない。普通に言おう。
「……いやなんか頭の中がお花畑で、兎に角おかしい奴だったんだよ」
「お花畑?」
「それに、自らのことをヒロインとか言っていたんだよ」
「ヒロイン?」
フレディは、訳が分からないと言いたげに首を傾げる。
まぁ、そんな俺自身もよく分からないが。
「でも、一応様子見て考えて見るよ。そこそこ綺麗な人だったし」
「……フレって、ああいうのタイプなのか?」
恐る恐る尋ねるとフレディは頭を横に振り、微笑を浮かべた。
「ううん、違うよ。僕のタイプはエルだよ」
「なに言ってんだが」
思いがけないフレディの返答に、エリオットは微苦笑する。
そんな平穏に会話をしている時、突如聞きたくない声が響き渡った。
「フレディ様!!」
「…………え?」
プラチナブロンドの髪をはためかせ、女の子走りで此方に向かって来た女子生徒。
「…………マジかよ」
間違いない、あの頭の中お花畑のアリスティアだ。
しかし、現れたのはアリスティアだけではなかった。
「こらこら、アリスティア。走ったら危ないで」
アリスティアに続くように、黒いロングコートに紅い腕章を付けているあの厨二病疑惑のセドリックが現れた。
俺の平穏な日々を脅かしかねない、面倒臭い奴らが現れたっ。
というか、クラス違うんだから来んなよ。
季節外れの転校生として注目されているアリスティアと、風紀委員であるセドリックが突如現れ、クラスの中がザワつく。
「セドリック様。わたくしフレディ様に会えるのが嬉しくて、ついはしゃいでしまいましたの」
頬に手を当て赤らめるアリスティア。
その様子を、エリオットはただ眉を顰め眺めていた。
……こいつ、フレのことが好きなのか?
普通の女の子であれば応援したが、相手がこの転校生だとなると応援出来そうにはない。
そもそも、フレと共に平穏な学園生活を過ごそうというモットーが崩れ去ってしまう。
「な、なんだか……珍しい組み合わせだね」
「実はセドリック様が、一人でいるわたくしのことを気にかけてくれたんです」
「そっか、それは良かったね」
フレディは安堵したかのように笑みをみせた。
するとフレディに向けられていたアリスティアの視線が、突然エリオットに向けられる。
「あっ、貴方は! モジャくん……じゃなかった。まさか、エリオット!?」
「……は?」
名前を呼ばれ、顔が引き攣る。
何でこの女は俺の名前知っているんだ。
転校生であるこいつに伝わってしまうほど、誰かが噂話でもしてんのか?
「ああ、紹介するね。彼はエリオット、僕のデュオだよ。あ、でも二人共顔見知りだよね?」
「…………まあ、な」
顔見知りになってしまったのは不本意だが……。
「ええっ! わたくしが迷っていたところ優しく声を掛けてくれて……」
口許に手を添え、はにかみながら話すアリスティア。
……いや、お前から声を掛けてきたんだけどな。
エリオットは引き攣った顔で、唇を噛んだ。
……たく、本当何しに来たんだよ。
あぁ、もう。俺、かなり目立っているし……。
漏れそうなため息を、ぐっと飲み込んだ。
暫くフレディとセドリックと談笑していたアリスティアは、またもや口許に手を添えると言葉を発した。
「本当、皆様お優しいのですね。わたくし、フレディ様もセドリック様もエリオット様も……御三方のことが大好きですわっ!」
その言葉に対し、ゾワゾワと鳥肌が立つ。
……どうやら俺は、このアリスティアという人物が心底苦手らしい。
顔を強ばらせながら何も言えずにいると、アリスティアはくるりと回った。
「そういえばわたくし、少し用事がありましたの。ここらでお暇させていただきますわ」
アリスティアは軽い足取りでこの場を後にした。
「なぁエリオット、何であの日逃げたんか?」
「…………は?」
アリスティアを見送った後、セドリックは口を開いた。
……というか、何故こいつは自分のクラスに戻らないんだよ。
心の中でそう講義しつつ、記憶を辿る。
セドリックが言うあの日とは……白猫が飛び出して来た後に、こいつが突然現れた時のことか。
そういえば、かなり執拗く追いかけられたな。
確かお話をしたいとか、そんな謎な理由だったはずだ。
「あれ? 二人は面識あったんだね」
「せや、通学路で会うてん。自分お話したかったというのに、逃げたんよ」
「……俺、フレ以外の奴とはなるべく話したくないんだ」
特に生徒会や風紀委員の奴とはな。
それに加えて、あの頭の中がお花畑のアリスティアもな。
「ごめんね、セドリック。エル、人見知りするらしくて……」
「いや大丈夫ねん。人見知りというんなら、これから仲良くなればええねん!」
手を顎に添え、セドリックは自信ありげにドヤ顔をした。
…………面倒臭いやつに捕まったな。
思わずため息をつく。
何故俺の周りには、生徒会役員や風紀委員達が現れるんだ。
せめて、行事などで関わる程度なら許せるから、それ以外は近寄ってこないでほしい。
というか、目の前に現れないでくれ。
再度ため息をつくと、そのまま机に顔を伏せたのであった。
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