だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

文字の大きさ
上 下
7 / 76

7

しおりを挟む
「エル。何だか、気分が沈んでいる様だけど……」
「え、そうか?」

 自分ではそうは思わないのだが……。
 夕刻。授業も全て受け終え、現在は寮へ向かって帰路を歩いているところだ。
 気分が沈んでいる……そう言われ考えると、気分が沈む原因はあの出来事しか考えられない。

「……うーん。もしかしたら、転校生に会ったのが原因か?」
「転校生? エル、会ったの?」
「ああ」

 忘れる訳がない。
 自らのことをヒロインと呼び、風紀委員長を様付けで呼んだりと、忘れたくても忘れられない特徴的な人だった。
 黙っていれば美しい女子生徒として人気も出そうだが……あの性格ではダメだな。

「フレ……転校生には近付くなよ」
「え? どうして?」
「いや、関わってもいいことなんて絶対にないから」
「そ、そうなんだ」

 俺自身の目標は、フレと共に平穏な日々を過ごすことなのだ。
 デュオであり親友でもあるフレディを、酷い目に合わせたくはない。
 平穏にほのぼのと、フレディと過ごしたいものだ。

「そういえば僕、明日委員会があるから朝早くに行かなくちゃいけないんだ。……明日、一人でも大丈夫?」
「ん? ああ、大丈夫。心配すんなって」

 そう言葉を発したが、何かに引っかかった。
 委員会……そうフレは確かに、委員会と言った。
 しかし、フレディは生徒会にも風紀委員にも所属していないはずだが……別の委員会に所属しているのだろうか。
 確か、生徒会と風紀委員と例外である俺以外は、一人部屋じゃなかったと思うが、フレは人数的な関係で一人部屋だったよな。
 なら、他の委員会に属している人は同室者がいるのか?
 一人黙考を続けていると、フレディに問い掛ける間もなく、別れてしまう。
 ……まぁ、別にそんなことはいいかと、エリオットは自分の部屋へ入ると、カツラと丸眼鏡を取る。

「ふぅ……頭が暑い。夏は汗かきそうだ」

 髪を拭い、制服を脱ぎ、部屋着へと着替えると、風呂の準備を始めた。
 浴槽を洗剤で洗い、水で流すとお湯を入れ、その間に台所へ行き適当に食材を取り出す。
 カップラーメンというのもいいのだが、やはり少しながら自炊をするべきだ。
 フライパンに油を入れ、コンロに火をつける。
 温まってきた所に豚肉を入れ、炒め、火が通ったら皿に盛り付け、和風ドレッシングを掛ける。
 白米を炊くのは時間がかかるため、ここはレンチンの白米を使うべきだろう。
 小分けにされたパックに入っており、レンジに入れて少し待つだけでホカホカの出来たて白米が出来る代物だ。
 あっ、と思い出したかのように風呂を見に行くと、風呂場は湯気で溢れかえっていた。
 お湯が溢れる一歩手前で止めると、換気扇をつけ、風呂場を後にする。
 白米と豚肉のみだが、昔から大食漢ではないエリオットにとってはこれで充分だ。
 一人の食事を終え一息つくと、風呂へ向かった。
 脱衣所で服を脱ぐと、湯で満たされた浴槽へ体を沈める。

「ふぅ……極楽極楽」

 ぽえーっと天井を見上げる。
 もくもくと湯気が現れては、換気扇へと吸い込まれていく。
 そんな光景を見ながら、これからの事を考え始めた。
 とりあえずあの転校生には近付かない。
 担任のオスカーがホールルーム中に何も言っていなかったからことから、別クラスと推測しよう。
 そうすれば授業中には会うことはないだろうが、合同授業や、学年、または全学年で集まる場合は何とも言えない。
 それに加え、今日は不可抗力だったが風紀委員長に会ってしまった。
 けれど普通に生活していれば会うことはないはずだ。
 風紀委員も生徒会も役員としての仕事が多く、授業に出ることは免除されている。
 テストや実技で進級していく感じだ。
 あの人達は学園にいる間は特定の場所に篭もり、下校した後は自室から出ないことが多いらしい。
 なら転校生よりも会う確率は低いはず。
 そもそも周りには、親衛隊とかいう者達が彷徨いている可能性もある。
 そんな虎の尾を踏むような真似はしたくない。
 結論、害を成すもの達を避けつつ、今まで通り過ごす。
 答えを出すと、湯船から上がり、頭を洗うと風呂場を後にした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...