だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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 何なんだ……このよく分からないやつは。
 エリオットはただ、目の前でドヤ顔をしている女子生徒を凝視することしか出来なかった。
 見た目は可愛らしいというよりは、美しさの方が勝っている。
 そんな女子生徒が一体何を言っているのか分からないが、きっとその見た目から周りにちやほやされ今まで生きてきたのだろう。
 だから自らのことをヒロインと言う、頭の中がお花畑状態なのだろう。
 ……ここは無視するべきだな。
 うんうんと頷くと、その場から走り出す、が……。

「ちょっと待ちなさい!! ヒロインであるわたくしのことを無視するなんて無礼よ!!」

 腕を掴まれ、逃走を阻止された。
 ダメだ、これは逃げた方がいいっ!! 絶対に俺自身に害を成す存在だ。
 まさか逃走を阻止させるなんて思ってもおらず、冷や汗が一気に噴き出した。
 しかし美しい見た目とは裏腹に力が強く、振り払うことが出来ない。
 もしかして、握力はゴリラ並みなのか!?
 何それ、怖いっ。
 エリオットは酷く動揺する。

「何か答えなさいっ!! モジャ頭!!」

 いや、面倒臭いので答えたくない。
 この言動で明らかになったが、この女子生徒と関わり続けると、俺の平穏な日々を脅かす脅威になりかねない。
 だからどうにかして逃げたいのだが……。
 ここは魔法で撃退すべきか……いやこうも真正面からやってしまうのはリスクがある。
 だから、何か……他の方法を……。

「何をしている」

 今、この現状では救世主とも言える声が耳に届く。
 声の方へ向くと、黒いロングコートに紅い腕章を付けている、メガネを掛けた男子生徒がそこにいた。
 切れ長な碧い瞳に、陽の光でキラキラと輝く銀色の髪。
 何処か儚さが感じられるその男子生徒。
 唖然と見ているエリオットとは違い、自らのことをヒロインと言っていた女子生徒は口を手で覆い、恥じらっていた。

「ディラン様!!」
「でぃ、ディランさ……ま?」

 今目の前にいる、この男子生徒の名前だろうか……。
 ディラン様と呼ばれた男子生徒は、女子生徒の姿を視界に捉えると目を細めた。

「ん? 君は……のアリスティアだな。何故ここにいる」
「その、わたくしとしたことが、道に迷ってしまって……それでこの殿方に道を訊いていたところですの」

 いや、道なんて訊かれた覚えはない。
 エスコートしろとは言われたが……。
 しかし、よく分からないやつがまさか転校生だったとは……。
 これは金輪際、関わりたくないリストに入れるべきだな。

「そうか。なら、職員室まで俺が連れて行こう」
「えっディラン様、いいのですか!?」
「ああ、生徒が困っている時に手を差し伸べるのはである、俺の努めだ」

 ……ん? 今、何て言った?
 風紀、委員長……?
 あの、風紀委員でしかも委員長!?
 手に持っていたお菓子を、不意に握りつぶしてしまう。
 不味い、関わりたくないリストに入っている風紀委員で、しかも一番偉い委員長だと!?
 ガタガタと震え始めたエリオットは、どうにか風紀委員長であるディランを斥けなければと思考を巡らせる。
 そんなエリオットに、ディランが言葉を掛けた。

「ああ、君。転校生を助けようとしていたんだったな。ありがとう」
「いえ、おっ俺、授業の準備がありますので……じゃ!!」
「そっ、そうか」

 エリオットは顔を見られる前にっ!! と、この場を走り去った。
 残されたディランは不思議そうにエリオットが走り去った方向を眺めていたのだが、一方のアリスティアはディランのことを顔を赤らめながら正視していた。

「ああ、そう。君は転校生だというのに、何故俺の名を?」
「え? だって、ディラン様は有名人ですから」
「……? そ、そうか……」

 学園内ならまだしも、外で有名人になる様なことをしたか?
 生徒会長である、あいつならまだしも……。
 そんなことを考えつつ、ディランはアリスティアを職員室まで案内を始めたのであった。



 はぁ……何とか、あの場から離れることが出来た。
 エリオットは、ほっと胸をなで下ろす。
 あのまま名前を訊かれていたら顔見知りとなり、これから何かと関わることになっていたのかもしれない。
 ……本当に逃げることが出来てよかった。
 時間を見ると、もう少しで授業が始まる時刻になっていた。
 エリオットは王都で買った杖を顕現すると、校庭へと向かい始める。

 授業の会場である校庭へ足を踏み入れると、既に沢山の生徒が集まっていた。
 エリオットはその人混みに紛れ、数分その場に滞在すると、授業の始まりであるチャイムが鳴り響く。
 校庭には十メートルほど距離が離れて置いてある的が用意されてある。魔法を上手く対象に向かって発動出来ない人は、なかなか当てることは出来ないだろう。
 ……まあ、俺は前世のこともあるから、意図も簡単に当てることは可能だろうが。
 先生は手本として、魔法で水の球体を作り上げると、それをまるで銃弾のように的に当てた。
 しかも丁度ど真ん中にだ。
 わあっと歓声が巻き起こる。
 先生は照れくさそうに頭を掻くと、生徒達にやってみるように促す。
 しかし魔法を発動出来てもそれをコントロール出来る力がないのか、上手く的に当てる人があまりいないようだ。
 そして自分の番が来たのだが出来れば目立ちたくないので、ここは周りの人のように的に当てないのも手だ。
 けれど、どうせ無理だろうと嘲笑っている一部のクラスメイトをギャフンと言わせたい。
 ここはコントロールをわざとミスったとして、あいつらに魔法をぶち当てるのも手だ。
 いや、下手すれば先生達に問題児として目を付けられる可能性もあるな。
 ……仕方ない、ここはにやろう。
 色々と考えを巡らせた結果、普通にやることに決めた。
 杖を両手で持ち、持ち手を額に押し当てる。

「……炎よ。我が杖に集い、そして解き放て」

 杖の魔石が輝き、周りに炎の精霊が集う。
 そう、普通に……普通にやろう。
 目立たないように、平均的な威力を出すのだ……。
 自身に言い訊かせると、目を開き、杖を的に向けーー

「フレイムっ!!」

 そう術名を発すると、杖から炎の球体が生成され、発射される。
 しかし、誤算があった。
 その球体は通常より威力も見た目も大きく、的へ打ち当たると、的ごと燃やし尽くしてしまったのだ。
 辺りが静謐に包まれた。
 ……やばい、ミスったし間違えた。これは普通じゃない……異常だろ。
 この魔法について、どう弁解しようかと思い煩っていると……。

「凄いな! 入学前の実技結果では、魔法が苦手だという結果だったというのに。あんなに綺麗に発動出来るように、密かに腕を上げていたのか!?」
「…………え?」

 嬉しそうに言う先生を見て、エリオットは首を傾げた。
 いや、あの……燃やし尽くしたことはどうでもいいんですか……。
 呆気に取られたエリオットだったが「……ああ、そうか」と言葉がこぼれ落ちる。
 昔のエリオットは綺麗な球体を出すことさえ出来ていなかった。
 それに加えて発動させても、ひょろひょろとあっち方面へと軌道を描いてしまっていた。
 その事を知っている先生は、先程の綺麗に真っ直ぐ的に当たった……というか燃やし尽くした魔法を見て、驚いたのだ。
 適当に微笑を浮かべ話を終わらせると、クラスメイトの実技を眺めることにした。
 ……今回の魔法は久々過ぎて加減を間違えたが、あんな風に喜んでもらえるのは嬉しいものだな。
 思わずはにかんでしまったが、頭を軽く振ると視線を校庭へ向けたのであった。
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