だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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「くしゅんっ」
「エル、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」

 突然のくしゃみに誰かが自分のことを噂しているのではと考えが過ぎるが……そんなことよりと、目の前にある物へ視線を向ける。
 現在は授業を終え、昼食を食べる為に食堂へ足を運んでいた。
 どうやら今日は普段より利用している生徒が多いらしく、フレディは購買で買おうかと提案してきたがエリオット自身が食堂へ行く意思を伝えたことによりこの場に赴いていた。
 ……それに、食堂の料理は絶品だとパンフレットに書いてあったから食べてみたかったんだよな。
 昔の記憶を思い出しても、緊張で味が感じられなかったのかよく覚えていない。
 そして今目の前にあるこの機械は料理を注文する時に必要なもので、タッチパネルを操作するとメニューを見ることが出来、食べたいものを選択し注文をする。
 支払いはこの渡されているカードを翳すことで完了し、後は運ばれてくるまで待っていればいい。

「うーん、何にしようか」

 フレは既に注文済みで後は俺だけだなのだが、こうもメニューが沢山あるとどれを頼もうか悩んでしまう。
 肉料理に野菜料理……んー、どれも美味しそうだな。
 そんな時、前世で食べていたオムライスというのを思い出す。
 卵がふわふわしていて尚且つトロトロしていて、あまりの美味しさに衝撃を受けた記憶がまだ新しい。
 そうだっ、どうせならオムライスを頼もうと機械を操作し、注文ボタンを押す。

「そういえば、今日教室からフレのことを見てたんだ」
「え、僕のことを? なんだか恥ずかしいな」

 えへへと、照れくさそうに頭を掻く動作をする。

「剣術の授業は、魔法の授業とは違って体を動かすから大変そうだな」
「んー、けど僕にとってはそうでもないんだ。昔から剣術は習ってたからね」

 フレディは微笑を浮かべると、懸念を抱いたのか眉を下げた。

「でも、エルの方は大丈夫だった? 何かされたりしなかった?」
「ああ、大丈夫。何もされなかったよ」

 相手が行動に移す前に、潰しているからな。
 だが、そんなことをフレに言えるわけがない。
 俺には前世の記憶というのが蘇ったが、そのことを流石に言えるはずがなかった。
 流石のフレも、俺の頭がおかしくなったと思ってしまうだろう。
 昔のエリオットの様におどおどし、周りの目を欺くのもいいのかもしれないがそんなことはしたくない。
 俺は堂々としていたいんだ。
 しかし、それよりも平穏に過ごしたいことが最重要事項だがな。
 フレディと会話を続けていると、料理が運ばれてくる。

「じゃあ食べようか」
「いただきます」

 手を合わせるとスプーンを手に取り、オムライスをすくう。
 口に含むと卵の甘みに、程よく絡められているケチャップライス。
 思わず顔が綻んでしまう。
 一方フレディが頼んだ日替わり定食は、生姜焼きのようだ。
 それもとても美味しそうで、色とりどりの野菜も添えられていた。

「……エル、食べてみる?」
「え!?」
「なんか、じっと見ているから」

 ハッとする。
 まさか、知らず知らず無意識に見入っていたとは……。
 フレディは箸で一切れ取ると「はい」と差し出してくる。
 そのことに驚きつつも、パクりと生姜焼きを口に含んだ。
 噛めば噛むほど肉の旨みと生姜の味が口の中で広がり、肉は驚くほど柔らかく、前世で食べていたものとは遥かに違う。

「どう、美味しい?」

 フレディの言葉に応えるかのように、首を縦にブンブンと降る。
 そんなエリオットに対し、フレディは微笑ましそうにふふっと笑みを零したのであった。

「あっ、あのさフレ。フレって……同室者とは、上手くいっているのか?」
「え? 同室者?」

 暫くご飯を食べ進めた後、エリオットは恐る恐るフレディに質問を投げかける。
 投げかけられたフレディはきょとんと首を傾げると「あれ? 言っていなかった?」と言葉を零した。

「僕、同室者はいないよ」
「え、……いない?」
「うん、人数的な理由でね。流石に女子と同室は無理だしね」
「そうか……。それならいいんだ」

 そうか、同室者はいないのか……。
 なら、フレから同室者の話を聞くことなんてないのも同然だし、俺に付きっきりなのも合点がいくな。
 黙考しながら、オムライスを口に含む。
 フレディはそんなエリオットを不思議そうに見ていた。



 午後の授業も相も変わらず妨害してこようとしたものを、行動起こす前に潰していた。
 あまりにワンパターン過ぎて欠伸が出てしまう。
 これなら四方八方から攻撃を仕掛けられたとしても、楽に撃退出来るな。
 それに、昔の貴族の方がえげつないことをしていた気がする。
 飲み物に毒を混ぜたり。社交界で晒し上げたり。他には怒鳴り散らす令嬢達は王子や権力者たちへと、花の蜜を吸う蝶のように……いや害虫のように群がっていたな……。
 そんな昔のことを思い出しながら、授業内容をノートへ書いていく。
 基本的な魔法や魔属性のことについてなら前世のこともあり分かるのだが、色々と扱い方が変わっているものだ。
 先ず膨大の魔力を一気に術へ転換し放出するという方法は、命の危険があるため禁止ということ。
 前世の時代では、切り札として使用することが多かったのだが……。
 くわ~と欠伸をする。
 そしてまた仕掛けてこようとした者を、投石で撃退する。
 たっく……少しは学習しろよ。
 ため息をつきながら流し目で、仕掛けてこようとしていた者の姿を捉える。
 いかにも真面目そうだというのに……。
 またもやエリオットはため息をついた。



 あの日から三日が経った。
 相変わらず撃退しつつ、フレディと平穏な日々を過ごしていた。
 毎日朝は一緒に登校し、授業を受け、昼食を共にし、帰りは一緒に帰路を歩く。
 今現在はまだあの親衛隊がどうのこうのとかいう生徒会役員にも顔を合わせておらず、また風紀委員とも顔を合わせていない。
 そもそも役員の名前さえも知らないのだが……。
 自覚する前のエリオットの記憶の中を探ってもハッキリとしたものは無い。
 昔のエリオット自身も、興味はなかったということだろう。

「おい、聞いたか。今日転校生が来るって!!」
「え? それどこ情報!?」
「さっき職員室で先生達が話してたんだっ!」

 教室の教卓に集まって会話をしているクラスメイト。
 その会話を聞き、フレディはエリオットへ問いかける。

「ふーん、転校生が来るんだ。エリオットはどう思う?」
「どう思うって……」

 どうも思わないのだが……。
 強いていえば、この平穏な日々に害を成すものでなければいいと願うばかりだ。

「まあ、季節外れ転校生っていうことで皆注目しているだろうけど、次第に落ち着くんじゃないかな」
「だな」
「おーい、席につけ。出席取るぞ」

 担任のオスカーが入って来ると、クラスメイト達はそそくさと席へ着き始めた。
 いつも通り出席を取り、授業を受ける。
 そんなつまらない授業を受けつつ、外の景色を見る。
 カーテンがふわふわと風に靡き、ポカポカと暖かい風が通り抜ける。
 こうも暖かいと眠気が襲ってくる。
 エリオットは欠伸をしながら、ボーッと時間を過ごしていた。



 中休み。
 フレディとは授業が別のため、エリオット一人で校内を歩いていた。
 次の実技の準備のため、休み時間は30分と充分な時間があるが……特にやることが無いため時間を持て余していた。
 先に授業場所である校庭に行くのもありだが、きっとそこには教師がいるだろう。
 準備の邪魔はしたくはない。
 ここは売店に行って何かお菓子を買い、中庭でのんびり過ごすべきだろうか。
 そんなことを考えつつ、職員室の前を通った。

「まだ来ていないんですか?」
「そうなんです……もしかしたら迷子になっているのかもしれないので、警備員に要請をしようと……」
「そうですね。早く見つかればいいのですが……」

 ……ん? 誰か、学園内で行方不明にでもなっているのか?
 教師達の会話を盗み聞きしつつ、学園内にある売店へと足を運んだ。



 ボリボリとお菓子を貪りながら、ベンチに腰掛ける。
 あの日この場所でよく分からない人に会ってからは寄り付かないようにしていたのだが、他に行く場所がない。
 あまり学園内を徘徊するのも疲れる。
 周囲に人がいないことを確認すると、中庭へと足を踏み入れた。
 だから安心してお菓子を食べることが出来る。

「さて、次のお菓子は期間限定苺ミルク味のポッキーというやつを食べるか」

 ルンルンとした気分で、お菓子の包装紙を破く。
 お菓子を取り出し、パクリと口に含んだその時ーー

「あーもうっ! 何で、誰一人迎えに来ないのよ!!」

 少し離れた場所から、女子生徒だろうか……声が聞こえる。
 何やらイラついている様で、度々声を荒らげながら此方に向かってくる。

「わたくしはヒロインなの!! 攻略対象、特にアラン様が直々に来るはずでしょ!! 仕方ない、出会いイベントを……」

 一体何を言っているんだ。
 ヒロイン? アラン様? 出会いイベント?
 エリオットは何やら嫌な予感がした。
 これは早急にこの場を離れるべきだと、ベンチから立ち上がる。

「……ん? あら、貴方」

 しかし、それは間に合わなかった。
 現れたのは女子生徒の証である赤を基調とした制服に、風に靡く灰色のスカートと青色のネクタイ。
 ぱっちりとした青い瞳に、右側に青いリボンの髪飾りを付けているプラチナブロンドの髪の毛。
 パッと見、お人形さんのように整っている顔たちの子だった。
 だが────それは見た目だけであった。

「ふふっ、仕方ないわね。感謝しなさい!! ヒロインであるわたくしを特別にエスコートするのを許してあげるわ!! モジャくん!!」
「は、はい?」

 中身はわがままで自分勝手、自らのことをヒロインと言い張っている頭のおかしい子であった。
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