だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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 寮を後にし、並んで通学路を歩いているとフレディが思い出したかのように口を開いた。

「そういえばエル。新入生歓迎会があるっていうこと知ってる?」
「新入生歓迎会? 何だそれ」

 エリオットは首を傾げた。
 新入生歓迎会と言うくらいだから、普通に新入生を歓迎する会か?
 だが、それは一体何をする行事だろうか。
 唸っているエリオットに対し、フレディは説明を始める。

「新入生歓迎会というのは、言葉の通り僕たち新入生を歓迎する行事だよ。今年は何をするのかは知らないけれど去年はかくれんぼで、最後まで隠れきれた人には、生徒会の役員の人が願いごとをひとつ叶えてあげるとか……」
「……なんだ、その面倒臭い行事」

 生徒会に願いごとをするなんて……そもそも願うことなんてあるか?
 そんな行事よりも、立食パーティーの方が需要あるだろう。
 前世は何度か貴族達の夜会に参加したことがあるが、そこで出される食事はとても美味しくて、俺自身はそれが楽しみだった。
 まぁ少し小綺麗な格好をしなくちゃいけないのと、貴族に対して謙った言葉遣いをするのが面倒臭いが。
 だがそんな面倒臭いことがあっても、あまりに美味な食事を頂くことによってどうでもいいかと思えたな……。

「でも生徒会の役員は人気が高く、尚且つ憧れの対象なんだよ。ファンクラブとかあるし、毎年親衛隊の人達が奮闘しているらしいよ」
「へー、でも俺は興味無いなぁ」

 そもそも平穏に過ごすために、害となる生徒会や風紀委員には関わりたくないのだ。
 触らぬ神に祟りなし、近付きたくはない。

「まあ、僕もあまり興味ないかな」
「だよな。で……その新入生歓迎会は、いつやるんだ?」
「確か、一週間後だよ」
「なんだよ。……なら復学するの、その後にすればよかったかな」

 出来れば立食パーティーがいいのだが、昨年と同じような行事であったら確実に復学するのはその後がよかった。
 もし最後まで隠れきれたと仮定し、生徒会にお願いごとをするとしても一向に考えが浮かばない。
 生徒会役員に向かって、平穏に過ごしたいので誰一人自分に近付くなと言ってみれば、確実に親衛隊から袋叩きに合う。
 無難に頭を撫でてくださいとかか?
 いや女の子ならまだしも、男には撫でられたくはないな。
 そんなことを黙考していると、校舎へ到着する。
 下駄箱に向かい、靴から上履きへ履き替える。
 いじめを受けているというから上履きが切り刻まれているのだろうかと勝手に思っていた。
 が、案外何も異常が無かったことに密かに驚く。
 フレディと会話をしつつ、教室へ向かう。
 クラスは一年A組で、フレディと同じクラスだ。
 この学園はAからDクラスまであるが、振り分けは特に成績とは関係なさそうだ。
 そして教室に着き、中へ入るやいやな皆エリオットのことを見てはコソコソと内緒話をする。
 そんなクラスメイトのことを気にもせず、エリオットは自分の席……一番窓側の最後尾の席へと座った。
 フレディとは席が少し離れているが、大丈夫。
 もしいじめをしてくるとすれば、休学中に考えた魔法で退治してやる。
 そう、俺は前世では天使様と崇められた人だからな!!
 そんな俺には敵なんていないぜと、まるで悪役のようなことを思いながら、ふふふと不敵な笑みを浮かべた。
 間もなくしてこのクラスの担任であるオスカーが入ってくる。
 オスカーは胸元を開けたシャツを身に纏い、少し気の緩んだ性格の持ち主。
 生徒会の顧問であり、また生徒からも人気が高い先生である。
 オスカーを始め、他の先生にもエリオットが復学したことを伝えられているのだろう。
 エリオットと視線が交わると、オスカーは微笑を浮かべた。

「じゃあ、名前を呼んでいくぞ」

 点呼を取り、ホールルームを終えるとオスカーは教室を後にし、代わりに別の先生が足を踏み入れた。
 復学して初の授業は、歴史。
 要約した内容はこうだ。
 はるか昔、魔神王デウスが存在していた。
 デウスは世界諸共破壊を目論んでいたが、そこに救世主として現れたシグルト・イデア・ナディエージダ。
 彼は黙示録を扱い、破壊の闇に飲み込まれつつであった世界を浄化していた。
 そんなシグルトは世界を平和へと導く旅の終点に位置する、とある世界規模の戦によって命を落とした。
 だがその後シグルトの体は光り輝き、空気中に溶けるが、その光を浴びた仲間たちは、シグルトと同じ浄化の力を手に入れ、魔神王デウスに勝利したと。
 ……て、これ俺のことじゃないかっーー!!
 思わず、教科書を投げ捨てたくなった。
 あまりの恥ずかしさに、顔に熱が集まる。
 羞恥心だ、これは公開処刑だと恥ずかしさで震える。
 まさか前世の自分がこうして語り継がれているとは思ってもいなかった。
 だが勝利したということは、命を落とした者もいたとしても世界は救われたということだろう。
 なら、かつての仲間たちは無事に生涯終えたのだろうか……。
 脳裏に浮かぶのは共に旅をした仲間達。
 彼らとは様々な地域や場所へ赴き、困っている人達に手を伸ばした。
 ……まぁ、たまに問題を起こして大変なことになったりしたが。
 けれど今の世界に存在している人たちは、平和に暮らせているのだ。
 昔の自分に感謝しなければ。
 だが同時に、やはり黙示録は人前に出さない方がいいということを認識させられた。
 もし人前に出してしまえば、シグルトの生まれ変わりだと崇められることだろう。
 ……いや、生まれ変わりなのは間違いではないのだが。
 崇められるとされれば、平穏に過ごすどころか普通に暮らすことも不可能だろう。
 もしかしたら何処かに閉じ込められたり、はたまた政治的利用される可能性もある。
 これは何としても隠し通さなければと、エリオットは心に決めたのであった。

 暫くすると歴史の授業が終了し、次は魔法の授業だ。
 なので、フレディとは別れることとなる。

「エル。久しぶりに昼食、一緒に食べようね」
「ああ、終わったら教室で待ってるな」

 そう言葉を交わし、お互い反対方向を歩く。
 その時エリオットの後ろで、何やらコソコソと話をしている者がいた。
 最初は気にしていなかったのだが、何やらエリオットの名前が会話の中で出ていた。
 気になったエリオットは、耳を澄ませることにした。

「なにあのモジャ頭、復学しているんだよ」
「本当、気持ち悪い。あれがこの学園にいることがおかしいのです」
「……どうする、また派手にいじめて再起不能にするか?」
「先生が新任なら言いくるめればいいしな」

 ……なんだこいつら。
 また休学へと、追い込もうとしているのか。
 人をいじめることは許し難いことだが、何度もやるとなると、こいつらは人をいじめることしかやることがないだろうか。
 それはそれで可哀想だな……特に頭が。
 だが、今の俺は昔の俺とは違う。
 いじめられて泣き寝入りなんてするわけない。
 ……なら、先手を打つか。

「……投石」

 指をパチンっと鳴らし、単語を呟く。
 すると、後ろでコソコソ話していた者達が一斉に声を上げた。

「なっなんだ、何かでこに……」
「痛っい、……石?」
「何で、石が……」

 ふははは、ざまぁ。
 内心鼻で笑いながら、足早にこの場を後にした。
 次の授業会場である教室へ着くと、自由席ということで一番後ろの席に腰を下ろす。
 暫くすると同じ魔法の授業を選択しているクラスメイトが教室へ集合し、その後授業を担当する教師が現れる。
 授業前の挨拶を終わらせると、退屈な授業が始まる。

「……で、魔法を発動させる陣、魔法陣は属性を司るシンボルマークを中心に書き入れ、周りに術式を描くことにより発動させることが出来るのです」

 黒板に描かれている魔法陣……属に魔法式ともいわれる術式。
 教師は手馴れたように、次々と描いていく。
 魔法陣は属性によって、発動させた際に色が変わる。
 炎は赤、水は青、風は緑、土は茶色とそれぞれの属性によって色が変わる。
 属性は炎、水、風、土、闇、光と六種類。
 また、水の派生として氷属性もあるが、基本的なのは上記の六種類だ。
 それから、魔法には武器に纏わせる……属に魔法剣とも呼ばれる魔技まぎが存在している。
 だが今のエリオットは杖をメインとして扱う為、魔技を扱うことはないだろう。
 エリオットは教師の説明を聞き流しながら、ノートに自己流の魔法メモを書いていく。
 そしてちょっかいを出そうとしている者を、あの時のように投石と呟き撃退していく。
 魔法は詠唱をすることもあるが、エリオットはそれが面倒臭い為、省略を重ね術名を呟くだけで発動させていた。
 しかしそれはせいぜいLv2。魔法の種類によってはLv3までが限度だ。
 流石に術のLvが上がっていってしまうと、少しながら詠唱をしなくては発動させることは出来ない。
 出来ればLv4の全ての魔法を、詠唱せずに発動させるようになりたいものだ。
 不意に窓の外へ顔を向ける。
 そこでは剣術の授業が行われていた。
 剣術の授業内容は基本的に素振り、そして体力作りだ。
 現在は素振りをしているようだ。
 ……あ、フレだ。
 黒に近い青色の髪、長めの髪を後ろで束ねている髪型。
 顔立ちも好青年のようにカッコよく、周りに気を配ることが出来る人だ。
 この見た目のエリオットとも、デュオでもあるが仲良くしてくれる。
 何故仲良くなったのかと考えるが、エリオットではなくフレディの方からずっと話しかけて来てくれてたのだ。
 本来ならエリオットよりも同室者と交流を深めていそうだが、フレディの同室者は一度も見たことがない。
 それに加え、名前さえも知らない。
 ……同室者とは上手くやっていけているのだろうか……。
 エリオットはそんなことを考えながら、黒板の方にへと視線を戻した。
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