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しおりを挟む「そなたがこの国の聖女に危害与えた者か」
「違うっ!! わたしはやっていない!!」
現在いる場所は、この王宮の王座の間。
この国の国王がいる場だ。
他には愛菜と衛兵、それと……第二王子と、多分第一王子と思われる方。
春の言葉を聞くと、ダンっと音を立てた。
「何を言っておる!! あの凶器である刃物はお前の手元にあったのだろう。それに聖女が泣きながら経緯を話しておった」
愛菜の方を見ると顔を手で覆い、肩が震えていた。
そんな愛菜を、第二王子であるジェイドが抱き締めていた。
でも私は分かる。
愛菜のアレは演技だと。
あの手の下の顔は勝利を確信し、今も尚笑みを浮かべているのだと。
「ですから、私はーー」
「黙れっ!! 召喚に巻き込まれた幼い子供で、可哀想だと思ったからこの国から追い出さなかったというのに。お前はなんていうことをしたんだ!!」
「ジェイド、落ち着け」
「に、兄さん」
怒鳴り散らしたジェイドを落ち着かせる為に、第一王子は肩を叩いた。
茶髪に青い目の彼は、この場では異質な程落ち着いているようだった。
「けれど、アレはーー」
「だとしても、お前は王族だ。恥じぬような振る舞いをしていなければならない。この様な場面でもな」
「っ!!」
ギリッと歯軋りすると、ジェイドは何も言わなくなった。
「父上、これはもう一度聖女様に経緯をきくべきです」
「うむ分かった。では聖女よ、先程と同じように話しておくれ」
「…………はい」
愛菜は添えていた手を退け、顔を上げると口を開き話し始めた。
「あ、愛菜は……春ちゃんに久々に会って、それで嬉しくてお部屋でお話することにしたのぉ。で、でも、楽しくお喋りしてたら突然様子が変わって……あんたさえいなければ私が聖女になれるんだとか……言ってきて、そしたら……そしっ、たら……」
「……聖女様」
愛菜はだんだん嗚咽を漏らすと涙を流し、また手で顔を覆った。
王子達は愛菜に哀れな視線を向けた。
「そしたらっ!! 春ちゃんが刃物を取り出して襲ってきたの!!」
愛菜はわんわんと慟哭した。
なんで……なんでそんなことを言えるの!!
春は怒りを感じていた。
よくもまあ、そんな戯言が言えるのだと。
「この通り聖女はこう言っておる」
「そんなの、嘘です!!」
「では、嘘だという証拠はあるのか?」
「そ、それは……」
そんなものない。
この世界にボイスレコーダーもないし、スマホだって持っていない。
証明出来るものは、何一つない……。
「それが答えだな」
「っ! でもっ私はっ!!」
「衛兵よ、この者を捕え国外の魔物の森に捨て置け!」
「罪名はなんでしょうか」
「この国の宝と言っても良い聖女を傷付けた罪、傷害罪だ。連れて行け!!」
「はっ」
春は衛兵によって縄で体を締められ、肩に抱えられた。
「待って!! 私はーー!!」
そんな時、不意に視線が愛菜にいく。
愛菜はあの時と同じように、顔を手で覆いながら舌を出して笑っていた。
「ーーっ!!」
嵌められた。
愛菜に協力しなかった私は……いらないんだ。
邪魔なんだ。
泣きそうになるのをグッと堪え、ただ歯を食いしばった。
◇
馬車に揺られながら、春は放心していた。
この世界は本来いた場所ではないため、誰にも頼れない。
それに私は聖女として召喚された訳ではなく、巻き込まれた一般人。
そんな力を持たない私は、これからどうやって生きていけばいいんだろう。
「おいっ、お前は降りろっ」
「きゃっ!!」
突然馬車から放り出された。
勢いよく地に体を打ち付け、鈍い痛みが広がる。
「どうする、縄を解くか?」
「いや、どうせこの森の魔物に食われるだろう。ならこのままで大丈夫だ」
すると衛兵は馬車の中に戻り、カタカタと音を立て遠ざかって行った。
「どうしよう……縄、解けない」
幸い足は動かすことは出来るが、手が使えない。
けれど、どうにかして……この森から抜け出さなくちゃ。
あの国には戻れない。
この森の先にあるかもしれない隣国に向かおう。
本当にあるのかも疑わしいが、1ヶ月間の間もこの世界のことを調べてきた。
もちろん地図だって見た。
あの地図がかなり昔のではなければ、この森の先に別の国があるはずだ。
春は何とか立ち上がると、ふらふらと隣国に向かい始めた。
◇
夜が深くなった頃、明かりが灯っている一つの馬車が森の中を駆けていた。
「グレン。ライベルトは今年は凶作になりそうだ」
グレンと呼ばれた男は、どうでもいいかのように顔を窓の外に向けていた。
「そうか。だが放っておいても親父がどうにかするだろう」
「だといっても、あの人にはやれることは限られているだろ? お前だって継承権あるんだから、これを機に恩を売っておくのも」
「フッ……ルーク、俺は継承権なんぞどうでもいい」
「あーそうかよ」
「待て!! 止めろ!!」
ルークと呼ばれは男が髪の毛をかきあげると、グレンが突然大音声をあげた。
馬車は急ブレーキがかかり、ルークは前方に転倒した。
「いてて……おいグレンっ!! なんだよ突然!!」
「……子供が倒れてる」
「は?」
馬車から降りると、目の前にはまだ10歳程度の子供が倒れていた。
「……生きているのか?」
「……息はあるな」
グレンは少女を抱き抱えた。
「おい、どうするんだっ! その子、どう見ても訳ありじゃないのか!?」
体は縄で縛られ、衣服は汚れ靴だって履いておらず足は泥だらけ。
髪の色も珍しい色で、この付近の国ではあまり見ないものだ。
「グレン、お前……どういう風の吹き回しなんだ」
普段のグレンなら、こんな訳ありな者に直接関わらない。
だというのに……。
グレンは少女を抱き抱えながら立ち上がると、ルークに向かって口を開いた。
「馬車を飛ばせ。そしてお前は帰ったらすぐ手当の手配をしろ」
「あーそうかよ。連れて帰るんだな」
ルークはため息をつくと馬車に戻った。
そして再び走り出した馬車は、先程とは打って変わって速さが増したのであった。
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