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しおりを挟む「……早く、帰らなくちゃ」
私はごく普通の高校一年生。
普通に学校に通い、普通に家に帰る。
けれど、本音を言えばあまり帰りたくないのだ。
それは……家庭内の問題であり、両親は不仲。
顔を合わせれば夫婦喧嘩。
時には物が飛び交い、私にも飛び火する。
昔はこんな冷めきっていなかった。
普通の家族だったというのに……。
そんな昔の事を思い出しても意味が無い。
今はとにかくバイトを探したりして、一人立ちをしたいものだ。
「帰ったらパソコンで求人でも探そうかな……」
そう一歩踏み出した時。
「…………え?」
フワッと視界に映る、光の玉。
触ろうとするが、雪のように溶けて無くなる。
その雪のような光は、下から浮き上がっているようだ。
そう理解し、顔を下の方へ向けた時ーー光は輝きを増し少女を取り込んだ。
「え……ちょっ!!」
スっと下へ落ちるように、光に取り込まれていった。
人は突然の出来事によっては、声一つも上げることが出来ないんだと思いながら。
◇
ガヤガヤと騒音が聞こえる。
それが人の話声だと気付くと、体を起こし目を開けた。
「……え?」
目を開けると全く知らない景色。
そして、野次馬のように群がっている人々。
「成功したぞ!!」
「聖女様召喚に成功だっ!!」
わっ!! と、歓声が上がる。
何処を見ても見知らぬ大人達。
まさか知らないうちに、気を失っている間に誘拐事件でも巻き込まれたのかと、一瞬頭に過ぎったが。
本能的にそれは違うと確信した。
それは、周りの大人達の姿だ。
何処からどう見ても日本とはかけ離れている容姿。
服装もアニメだとかゲームであるような、ジュストコールやサン・キュロット、甲冑、それから侍女の様な人がいた。
タイムスリップかとも思ったが、髪の色があまりにもカラフル過ぎる。
それから“聖女”という言葉。
ここは若しかしたら、全く別世界という可能性が……。
「え、愛菜が聖女!?」
冷静に考えていると、突然別の声が耳に届いた。
ちらりと横を見ると、同じ歳の十五歳と思われる少女がそこにいた。
くるくると、ヘアアイロンで巻いたような金髪。
バッチリとメイクを決めていて、手を口元に当て瞳をうるうるとさせていた。
私以外に……人が?
すると次の瞬間、目の前の大きな扉が開かれた。
そこから現れたのは青い髪の男性。
「儀式は成功したのか」
カツカツとブーツの音が響く。
そして、こちら側に顔を向けると瞠目したが、すぐ表情は戻りこちら側に近寄ってきた。
「貴女方が聖女か」
男性は膝をつき、胸に手を当て礼をする。
切れ長な瞳、髪の色と同じ深い青色。
思わず見蕩れてしまう。
「あのぉ愛菜、突然聖女なんて言われても……困るんです」
「突然このような場所に連れてきてしまったことは、本当に申し訳ありません。
こちらからお話をさせて頂きたいので、そちらの方もご一緒にーー」
男性は目を見開いた。
それは突然、あの愛菜という女性が抱きついたからだ。
そして、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「こんなよく分からない場所に来て……愛菜は怖いのぉ」
そう言うと、わんわんと泣き始めた。
突然の慟哭に目の前の人を始め、周りの人も騒ぎ出した。
「せっ、聖女様が泣いているぞ!!」
「どうすればいいのだ!!」
「どうにかして泣き止めさせなくては!!」
周りの大人達が騒ぎ立てていると、愛菜は泣くのを止め伏せていた顔を上げた。
「愛菜……怖いの。知らない場所に来て。ねえ、貴方は愛菜のこと守って……くれるよね」
ゾワッと鳥肌が立った。
先程の媚びているかのような声色とは違う、何処か怨嗟を秘めたような声。
けれど、それに違和感を感じているのは私だけだった。
あの青い髪の男性も、周りの人も愛菜という子に釘付けになっていた。
「……ええ、そうですね」
青い髪の男性は愛菜の手を取る。
「貴女は素敵な方なのですから。その御身、確実に聖女様でしょう」
ニコリと笑を零した。
「ーーですから、そちらの方は聖女様を召喚した際に巻き込まれたということですね」
「……え?」
一人置いてきぼりだった私にへと、青い髪の男性が顔を向けてくる。
……巻き込まれた?
なら、私は聖女でも何者でもないただの人だということ?
俗に言う村人Aみたいな?
いや、村人Zくらいかな?
「あの、じゃあっ元の世界に帰れーー」
「申し訳ないが、それは不可能だ。元の世界に戻す方法は無い」
「……そう、なんですか」
「けれど、君のこともこの王国で保護しよう。巻き込まれた一般市民でもあり、それに加えて幼い少女でもあるのだから」
「…………え?」
今、この人何て言った?
幼い? いや、今貴方が抱きしめている愛菜という子と同じ歳の筈。
不意に手を見る。
ぷにぷにした手、そして何処か小さい。
「っ!!」
バッと顔を上げ、景色を見る。
いつもより、目に映る景色が低い。
まさかっ!! と、立ち上がると、自分の姿が壁のガラスに映りこんだ。
「…………え、うそ」
映りこんだ私の容姿は……十歳の頃の自分の姿だった。
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