続・ロドン作・寝そべりし暇人。

ネオ・クラシクス

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台風にほんろうされし、暇人。

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 中宮中央公園、芸術散策エリアのちょうど暇人がいる場所には、夜明け前からテレビクルーが、いそいそとセットを組み始めて、スタッフ数名が、せわしなく準備を進めている。 
 セットの真ん中ちょうど、三脚で固定された、大型カメラのレンズと向かい合わせになった寝そべっている石像も、微動だにできないが、心は、飛び上がりそうなほど、浮かれていた。
 「これは、テレビの取材ってやつだよな~。われ、有名になれるチャンスかもしれない、幸せ~。」暇人が、ワクワクしていると、スタッフとは、明らかに違う、服装も、上品なモスグリーンのワンピースに、化粧もややこすぎではないか、という若い女性が、ピンマイクを装着されながら、台本に目を通していた。
 その女性が、暇人の目の前の遊歩道に立ち、その女性の隣に大型のモニターが、置かれた。
「そこの緑のワンピースの御婦人、この番組の司会者とお見受けする。我の目前で中継を始めるということは、我の特集だな。どうか、たっぷり、丁寧に、我の紹介をたのむ。我、世界一有名な石像になりたし。」暇人は、聞こえないと分かっていても要望した。
     約5分後、女性の向かいの三脚に設置された小型のモニターから、モニター内の人物の音声が流れはじめる。  
 「それでは、朝一お出かけ天気予報のコーナーです。中継先の気象予報士清峰さーん!」声を掛けられて、ワンピースの女性は、笑顔で答える。
 「はい、朝一お出かけ天気予報、今日は、彩角県中宮市にある、中宮中央公園にきています。ごらんください、久しぶりの雲一つない快晴です。詳しく見ていきましょう。今日は、関東地方1日快晴の洗濯日和です。」その後も、お天気の話が続く中で、暇人は、あせりはじめた。
「えっ、えっ、天気予報?我の特集でなくて?我、ここから1ミリも動けないゆえ、天気予報は一番聞きたくない情報、雨なんてふりはじめて知るほうが、ストレスにならん!いや、いや、これ以上は、聞きたくない止めてくれ!」言い終わるくらいで『もう一つの両手』を耳に近づけようとしたその時、さいはなげられてしまった。
「はい、今日、明日、と快晴なのですが、明後日、早朝から台風12号が、伊根半島上陸、関東地方直撃の予報がでています。大型で強い台風12号は…」女性の声を聞き、暇人は、うなだれた。「耳をふさぎたかったけど、間に合わなかった、しかも、普通の雨でもやなのに台風、しかも明後日まで・・
 ・憂鬱だ。」暇人が、がっかりしていたが、そんなことは、知るよしもない女性が、たんたんと職務をこなして行く。「はい、ここで中継先のお知らせです。」「中宮中央公園内にある中宮市立美術館館では、企画展、現代アート展を来月11月24日まで開催中です。ぜひ、お越しください。台風12号が、関東上陸の予報です。明日も詳しく台風情報をお届けします。皆様、早めの準備をおすすめ致します。以上中継先からの天気予報は清峰が、お伝えしました。」暇人は、さっきとは、打って変わって恨めしそうに呟いた。
 「御婦人、早めの準備と言われても、ここから1ミリたりとも動けぬ我への嫌がらせにしか聞こえぬ。」



 先程の中継から約2時間後、オナガくんが、暇人のもとにやってきた。
 「おはようございます!だんな!あれっ、どうしたんですか?元気ないですけど?」気がついて、暇人は答える。
「あっ、オナガくん、おはよう。今朝、テレビが取材に来ていて、それがお天気中継で明後日台風が、ここに来るらしい。我、天気予報は、ここから1ミリも動けないゆえ知りたくなかった。しかも、雨どころか台風だ、せっかくの晴れなのに、水をさされた気分だ。テレビ中継の一行は、沢山機材を取り付けていたが、いそいそ片付けて、オナガくんが来る30分前に引き上げていったよ。」と、一気に説明して、はーとため息をついた。
「へー、台風が明後日来る。ちょっと巣にしている木の洞の穴塞いどこうかな、嫁さんや、群れのみんなにも、教えよう、はっ、すんませーん、だんなオイラだけ盛り上がっちゃいまして~。(泣)」オナガくんのしくじりに、暇人は、作り笑いを浮かべながらオナガくんに声を掛けた。
 「我自身に、台風情報は、役に立たないが、オナガくんの役に立ててよかった、ハハハ、はー。」オナガくんは、励ますように提案する。
「だんな、今日と明日、いつもより長めに、肩たたきしますね。台風を乗り越えるんだから、リフレッシュしておかないと!」
「ハハハ、ありがとう、オナガくん!おかげで少しだけ元気が出てきたよ。」しかし、全くの空元気だった。




 次の日の夕方の空は、確かに分厚い濃い灰色の雲が、ところ、どころかかり、なるほど翌日早朝からの台風の予報に納得する暇人なのであった。
 今日の午後から、公園清掃員の吉野さんが公園内にある風に飛ばされやすいものを台車で運んでいたが、作業が完了したのだろうし、閉園時間だろう、吉野さんが、施錠して帰宅したのだろう。
 「流石に、明日は誰もこないだろう。我、1人。」暇人が、つぶやくと否定する発言がすぐ横にあった。
 「ジャ~ン、1人じゃないよ、ムグリだよ!暇人ちゃん、こんばんは、今日晴れてるのに人が、めっちゃ少なくてさ~、ラッキーって感じ!あっちに噴水あるじゃん、いつもよりたっぷり水浴びしちゃった!それにしても、今日晴れてるのに人少なかったの、暇人ちゃん知ってる?」暇人は、応える。
 「天気予報の取材が、来てな、明日から、台風が関東地方を上陸だそうだ。」スポーン!ムグリさんが帽子を飛ばし、落ちた帽子を拾いに行く。直後また陽気に喋りはじめた、「へー、台風か、じゃあ、今夜から明日は、お家➉の神社の屋根裏に行こうかな~、それとも、お家⑪のあの山の洞窟に行こうかな~、せっかく早くしれたから、お家⑫のだいぶ前に潰れてボロボロ廃屋になった、となり町のパチンコ店に行こうかな。どうしょう~、暇人ちゃん!」
 「お家が、幾つあるんだ!まあ、どうせ、勝手にいすわってるだけだろうけど、好きにしなさい。は~、ムグリさんも天気予報は、役に立つのかー。天気予報を、知ったところでここで、じっとしているしかない我、本当に、聞きたくなかったな~。昨日、今日と気持ちよく晴れていたのに台風が、気になって憂鬱だった。雨にも風にも、打たれたくなし。」ここまで言い終わり、暇人は、はっとしてムグリさんに謝った。
 「すまん、ムグリさん、ムグリさんが、我とは、対照的に楽しそうだったので、つい腹だたしくて声を荒げてしまったすまん、すまん。」暇人が、謝ると、しょげていたムグリさんも笑顔を取り戻した。
 「ボクちゃんの方こそ、ごめんね、暇人ちゃんは、確かにここから、動けないからつらいよね。そうだ、台座下貸してくれたら、一緒に台風をやり過ごせるよ、一緒にいようよ!そしたら気がまぎれるでしょ。」ムグリさんの提案に暇人は、驚いてたずねた。
 「いいのか?台座下だと風は、避けられるけど、雨は避けられるのか?」
「うん、実は、堀を作って二段にして、雨水が上段に入って来ないように改装したんだ~!」
「ちょっと、その改装工事は、我に相談して欲しかった。」
「めんご、めんご、後、アルミ缶を集めて、入り口の光が当たる所に、ボクちゃん専用日焼けサロンを作ろうと思います!そうするとね~、脱皮が、速く始まって快適になるからね!」ムグリさんは、自慢げにウィンクをした。
「却下!我が傾いてしまうからこれ以上は、止めなさい!ムグリさんもぺちゃんこになったらどうする?」暇人は、たしなめた。
「ちぇっ、は~い。」
「まったくもう、油断もすきもない。」 
「それで、暇人ちゃん、今夜と明日、台座下は貸してくれるの?」
「うん、我も気がまぎれるからな、その改装工事の恩恵にも預かりたし、よかろう、ムグリさんよろしく。」
「やった~、そうこなくっちゃ!じゃあ、ちょっとオヤツにしている乾燥ミミズとってくるね~!」 

「うむ、行ってらっしゃい!」
ムグリさんが、出かけていってふと、暇人は考えた、乾燥ミミズかぁ~、それが我の台座下に収納されるのかぁ、ちょっとやだな、でも、台風が怖くなってきてムグリさんが、いてくれてありがたし、背に腹は代えられん!






 夜中といってもほとんど夜明けに近く、だんだんと吹く風に気が付き、暇人は目覚めた。ムグリさんが、帰ってくるのを待ちくたびれて、すっかり寝てしまった暇人なのであった。と、遠くから声が、聞こえてきた。ムグリさんが、野外ステージエリアの芝生から暇人のほうに向かってきた。
 「遅くなってごめんよー。はー、はー、ミミズと入れる袋を大きな葉っぱ2枚で作ってたら、遅くなっちゃたー。はー、はー」見ると、葉っぱ2枚を弦で閉じて、まあまあ立派なバックを首に下げていた。暇人の前にたどり着いてもムグリさんは、喋り続けた、 「いやぁ~、拾った風呂敷どこかにしまい忘れちゃってさー、しょうがなしで」「分かった、分かったから、風が強くなってきたから、早く危ないから入りなさい!」ムグリさんの話を遮り、台座下に促す暇人なのであった。
 「あっ、そうだね~、暇人ちゃんありがとう!」ムグリさんは、勢いよく回り込んで暇人台座下に駆け込んだ。
 同時に、雨も斜めにポツポツ降り始めてきた。暇人は、ムグリさんに、状況を説明し始める。
「ちょうど、雨が降ってきたぞ!風も、さっきより、強くなってきたな。」
「あっ、本当?ここの外界との遮断感なかなかよ。風は、一切感じない。雨は、入って来た穴から見えるね~。ん~~快適!」
「そうか、よかった。」



ブォー、ザー、ザー、ブォー、ザー
完全に夜が明けて、明るくなり、そこから午前終わりになると、風雨もだいぶ励しくなってきた。
 「暇人ちゃ~ん、そっちどう?」
ムグリさんの呼びかけに、暇人が、答える。
 「うむ、雨、風が痛い!」
 「暇人ちゃん、ファイト!」
 「うむ、ありがとう。」
ブォー、ザー、ブォー、ザー、ザー、ブォー、ブォー、ザー……… 


 「ムグリさーん。」暇人が呼びかけたが、返事は以外なものでかえってきた。
「しぎゃあー、しぎゃあー、しぎゃあー。」
暇人は、青くなりながら思った。うーむ、夜中、ここへ来るための準備をして、おおかた入ってから暇だから、もってきた乾燥ミミズを食べてるうちに、眠くなってしまったんだな~。ムグリさんのいびきが、今日に限って一番不快なやつだ。雨に、風に、いびき、………我、三重苦。

ブォー、ザー、しぎゃあー、
ブォー、ザー、しぎゃあー、
ブォー、ザー、しぎゃあー、恐怖………と……、………不快が、………………充満していて、………わ…れ………もう、……だめ。 









 


  
「暇人ちゃん、暇人ちゃん!起きて!」
「だんな!だんな!朝ですよ!おはようございます!」

ムグリさん、オナガくんに起こされ、暇人は、目覚めた。
「ン、ん~~、もう、朝かあ。」
暇人の問いにオナガくんが、答える。 
「おそらく、丸1日気絶していたと思われます!夜過ぎて翌日ですね。」
ムグリさんは、申し訳なさそうに、「いやぁ~、ごめんね~、あれから、乾燥ミミズを食べてたら、気持ちよくなって寝ちゃってさ~、いびきもかいてたらしくて、恥ずかしながら、ボクちゃんも、さっきオナガくんに起こしてもらっちゃった。テヘペロ!」 
「凄い、いびきでしたよ、ムグリさん。」
「オナガくん、あんま言わないで、恥ずかしい。」








オナガくんと、ムグリさんの掛け合いを見て、暇人は、ハッとなり、たずねた。
「そういえば、台風は?」そう、たずねられ、ムグリさんと、オナガくんは、一緒に答えた。
「空!、空!」
暇人が、空を見ると、雲一つない台風一過だった。
「うむ、我の心も、台風一過だ。」
    
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