死験場

紅羽 もみじ

文字の大きさ
上 下
11 / 13

11話 五次試験

しおりを挟む
11話 五次試験
「5回目の試験、回答者は、光本恭子さんです。試験の流れ、注意事項に変更はありません。」
「平川!!私たちをここから出しなさい!!」
「あはは、この人、何言ってるんだろ。面白いわー。」

 平川さんは、窓を叩きながらここから出すよう訴える恭子さんを嘲笑う。

(恭子さん、気持ちはわかる、けど、君は今指名者だ…!答えられなきゃ、死んでしまう!問題を聞かないと!!)

「それでは、問題です。あなたは平川頼子をいじめ始めた主犯格であり、張本人です。平川頼子をいじめ始めた理由を明確に述べよ。」
「ほら、問題が出されたわよ。答えなさいな。」
「平川!!!!」

 恭子さんは、すっかり我を忘れて怒りに身を任せて、目の前の平川さんにここから出せ、と訴え続ける。

「はーぁ。本当バカよね。この人。制限時間、もう半分切っちゃってるのに。」

 タイマーは確かに、30秒を切ってもう20秒以下に差し掛かろうとしている。平川さんはくるっと僕の方を振り返ると、意地悪そうな笑みを浮かべて僕に話しかけた。

「この人、落ち着かせてやんないと、答え言うどころか、ただ叫び声あげるだけで死んでいくわよ。落ち着くよう言ってやりなさいな。」

(そうできるなら言いたいさ!でも、声を出せば…)

「ああ、回答者以外は声を出すと死んじゃうんだっけ。じゃあ見て見ぬ振りするしかないか。」

 ふふっと笑うと、平川さんはタイマーを見て、カウントダウンを始めた。

「ほら、残り10秒よ…。5、4、3、2、1、はーい時間切れ。残念ね。さよなら、恭子。」

 恭子さんは、構わず平川さんに向かって叫び続ける。だが、その声は既に枯れ切って、言葉になっていなかった。

「光本恭子、不正解です。よって罰を与えます。」
「平川さん、恭子さんを恨む気持ちはわかる。でも、恭子さんは久美さんを亡くして十分罰を受けた!もうやめてくれ!!」
「冗談でしょ。私にとって恭子は1番許せない人間なの。ここからが本番よ。…ほら、見てみなさいよ。」

 不気味な笑みを浮かべた平川さんの視線の先には、既に罰が執行されているのか、床で苦しみにもがく恭子さんの姿があった。

「光本恭子氏の罰は、神経毒ガスによる窒息死です。息苦しくなり、嘔吐、発汗、口や鼻から水分が放出されて窒息、そして痙攣の症状が出ると末期症状となります。」

 試験官の放送通り、恭子さんは何度も嘔吐を繰り返し、次第に痙攣し始め、もう命が長くない様子が見てとれた。言い方はきついけど、僕が落ち込んだ時に励ましてくれた恭子さん。もう、声も聞こえない。痙攣していた体はやがて動かなくなり、恭子さんの命が消えてしまったことがわかった瞬間、僕は大粒の涙をこぼした。

「光本恭子氏、死亡しました。次の指名は、18時の配給後の2時間後に行います。では皆様、お疲れ様でした。」
「…ふふ、やっと死んだ。苦しかったでしょう?でも、私はもっと苦しかったの、身をもって知れて良かったわね。」

 クスクスと笑いながら、平川さんは遺体にそう話しかけた。僕は、平川さんの狂気に触れて、体が震えているのがわかった。

「……何で、こんなこと…」
「あなた達で話してたでしょ。私をいじめたからよ。特に恭子は、私が屈するまでとことんいじめ抜いてくれたからね。」

 平川さんは、恭子さんの遺体を睨みつけながら、吐き捨てるように言い放った。

「ここまで準備するのに、どれだけかかったと思う?優子に成りすますための準備、あいつらが今、どこに住んでて何をしてるかの調査、殺すための道具の準備…失敗は許されない。とにかく、とことん調べ尽くして、この舞台を用意したのよ!」

 平川さんは、またケラケラと笑いはじめた。平川さんの狂気を目前にして、僕は何も言うことができなかった。

「初めは、単に奴らが死ねばいいとだけ思ってたわ。特に鶴本なんか、ちょっと煽れば手を出してくるから、撲殺しても『ただのチンピラ同士の喧嘩』で片付けられるしね。でも、それじゃ面白くないって思ったの。1人ずつ、でも確実に死んでいく、じわじわと迫る恐怖感を、あいつらに与えてやりたかった。そしたらどう?瑞稀は狂ったように笑い始めたし、鶴本も初めこそ威張り放題してたけど、だんだん大人しくなっていった。久美の演説は想定外だったけどね。でも、うまく誘導したら、恭子が久美を信じるか、優子になりすましてる私を信じるか、その板挟みで苦しみ始めた。いい気味よ。」
「…じゃあ、僕は、何で、呼ばれたんだ。」

 僕は、勇気を振り絞って平川さんに問いかけた。そう、僕はいじめに加担してなどいない。彼らのように断罪される理由が、何一つとして思いつかない。

「それは、試験官が問題を出すまでのお楽しみよ。せいぜい、しっかり考えることね…。」

 平川さんは、ふふッと笑って、中央にある椅子に座り込んだ。

「…まぁでも、配給まで時間もあることだし。佐々木くんには聞いてもらおうかな。私のここに至るまでの長話をね。」

 そう言うと平川さんは、椅子を僕の部屋の窓の前までもってきて、僕と対面するように座り、話し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

量子幽霊の密室:五感操作トリックと魂の転写

葉羽
ミステリー
幼馴染の彩由美と共に平凡な高校生活を送る天才高校生、神藤葉羽。ある日、町外れの幽霊屋敷で起きた不可能殺人事件に巻き込まれる。密室状態の自室で発見された屋敷の主。屋敷全体、そして敷地全体という三重の密室。警察も匙を投げる中、葉羽は鋭い洞察力と論理的思考で事件の真相に迫る。だが、屋敷に隠された恐ろしい秘密と、五感を操る悪魔のトリックが、葉羽と彩由美を想像を絶する恐怖へと陥れる。量子力学の闇に潜む真犯人の正体とは?そして、幽霊屋敷に響く謎の声の正体は?すべての謎が解き明かされる時、驚愕の真実が二人を待ち受ける。

ウツクシ村のミチル

岡本ジュンイチ
大衆娯楽
警察官の息子である主人公の少年、トメラ・ズリーブは、ある日両親とともに異国の過疎地・ウツクシ村へ旅行に出かける。 その旅行の途中で、トメラは好奇心のあまりウツクシ村の森の奥へ進んでいってしまい、結果的に迷子になってしまう。 そして、トメラは肉食の野獣たちと出くわしてしまい、絶体絶命のピンチに陥ってしまう。 そんな状況を救ってくれたのは、高貴な衣服をまとった少女であった……。

母からの電話

naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。 母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。 最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。 母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。 それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。 彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか? 真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。 最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。

おさかなの髪飾り

北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明 物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか? 夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた 保険金殺人なのか? それとも怨恨か? 果たしてその真実とは…… 県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

深淵の迷宮

葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。 葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。

設計士 建山

如月 睦月
ミステリー
一級建築士 建山斗偉志(たてやま といし)小さいながらも事務所を構える彼のもとに、今日も変な依頼が迷い込む。

没入劇場の悪夢:天才高校生が挑む最恐の密室殺人トリック

葉羽
ミステリー
演劇界の巨匠が仕掛ける、観客没入型の新作公演。だが、幕開け直前に主宰は地下密室で惨殺された。完璧な密室、奇妙な遺体、そして出演者たちの不可解な証言。現場に居合わせた天才高校生・神藤葉羽は、迷宮のような劇場に潜む戦慄の真実へと挑む。錯覚と現実が交錯する悪夢の舞台で、葉羽は観客を欺く究極の殺人トリックを暴けるのか? 幼馴染・望月彩由美との淡い恋心を胸に秘め、葉羽は劇場に潜む「何か」に立ち向かう。だが、それは想像を絶する恐怖の幕開けだった…。

処理中です...