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9話 四次試験
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9話 四次試験
夕食後、僕らは次の指名がいつくるかと、ひりついた空気の中でひたすら待っていた。
(僕らは、答えに近づきつつある…、きっと、どんな問題を出されても、答えられるはずだ。)
自分を励ますように、僕が押し黙っていると、あーそういえばさー、と、久美さんの呑気な声が空気を破った。
「優子、最近連絡しても、全然返事なかったよねー、何してたの?」
いきなりの質問に、恭子さんも含めて目を丸くさせて久美さんを見た。
「ああ…、仕事で忙しかったの。ごめんなさい。」
「ふーん、そっか。」
「久美さん、いきなり何を…」
僕がそう言いかけた時、スピーカーから例の音が響き渡った。
「皆様、こんばんは。4回目の試験を開始いたします。試験の流れ、注意事項に変更はありません。では、4人目の回答者を発表します。」
とうとう4人目の指名。誰が、指名されるのか…、何度目の緊張感かわからないが、張り詰めた空気が漂う。
「若林久美さんです。」
「…私かー。いよいよ来たって感じ。」
表情こそ、いつもより緊迫した様子だったけど、久美さんのいつものマイペースな口調は変わらなかった。久美さんは、すくっと立ち上がり、何かを決心したように話し始めた。
「いいよ。何の問題でも受けてあげる。でも、タダじゃおわんないから。」
声色は変わらないが、今までに見せたことがないような態度で、試験官に向かって宣言した。
(久美さん、何を考えて…)
「では、問題です。あなたは、高校在籍時、ある女性をいじめており、その女性はあなたの行動で深く傷ついた出来事がありました。その出来事とは何か述べよ。では、カウントダウン、スタート。」
「……ふふっ、わかるわけないじゃん、こんなの。」
久美さんは、早々に諦めたようにため息をついた。恭子さんは、焦りを隠せずに、声こそ出さないが、窓を何度も叩いて久美さんを見る。何でもいいから答えろ、という恭子さんの気迫が伝わって、僕も諦めてほしくないと、拳が痛くなるほど窓を叩く。
「恭子、言ったでしょ。タダじゃおわんないからって。私、バカだからさー。どんな問題出されても、答えられないなぁって思ってたんだよね。でも、やられるばっかじゃ腹立つじゃん?だから、恭子と佐々木が生き残れるように、この時間使うことにした。」
そう言うと、久美さんは優子さんに向かって、話し始めた。
「さっき優子、最近連絡返してこないじゃんって聞いたら、仕事で忙しいって言ってたよね。そんなわけ無いのよ。だって私、ここにくる前に優子と連絡取ってたもん。」
恭子さんと僕は、突然の発言に気がついたら窓を叩く手を止めていた。優子さんは、一瞬面食らった表情をしたが、そこから顔色一つ変えることはなかった。
(優子さんが、嘘を…?何で??)
「優子最近、誰かにつけられてる気がする、って言ってたの。それに、なんか知らないけど、職場でも近所でも、皆んなよそよそしくなって、イタ電までかかってくるようになった、とか言ってた。相談のってたけど、だんだんやつれてってさ。で、明日にでも優子と会って話そうかなーって思ってたら、いつの間にかここに閉じ込められてて。」
もう、久美さんに問題を答える気はないらしい、と悟り、僕はただ語り続ける久美さんを呆然と見つめた。タイマーは、残り15秒となっている。
「あ、もう時間ないじゃん。簡単に話すと、私は優子が偽物なんじゃないかって思ってる。顔そのまんまだけどね。…じゃ、私の話はここまで。ちゃんと、次に活かしてよねー。」
そこまで言い切った後、ちょうどにタイマーが時間ぎれを告げた。久美さんは、自分の役目は終えた、というように座り込み、ふぅ、とため息をついた。
「若林久美、不正解です。よって罰を与えます。」
久美さんは、床にゴロンと寝転んだが、体にはすぐ異変が現れた。久美さんの体の皮膚に水疱が大量に現れ、あまりの痛みに、久美さんはのたうちまわりながら、叫び声をあげている。
「若林氏の罰は、超高濃度マスタードガスにより引き起こされる全身の壊死です。少量であれば、水疱ができ痛みを伴うのみで済みますが、致死量分の2倍のガスを流し込んでいますので、しばらく苦しんだ後、死亡します。」
いつの間にか、久美さんの口からは叫び声も聞こえなくなり、遺体は皮膚が焼け爛れたようになり、見るに耐えないものとなっていた。
「正解は、高校2年秋、若林氏は女性の携帯電話を取り上げ、保存されている画像フォルダを開き、大切にしていた家族写真を目の前で削除した、です。携帯電話に保存されていた唯一の家族写真だったことを知っていた若林氏は、このことから、女性がどのように追い詰められるか、実験をしていたものと思われます。」
久美さんの罪が暴露されたが、僕と恭子さんは、ただ呆然と聞いていた。色々なことが起きすぎて、頭の中で整理が追いつかない。
「次の回答者の指名は、翌朝の配給が行われた2時間後に行われます。では、皆様お疲れ様でした。」
スピーカーの音は、そこで途切れ、遺体だけが残った久美さんの部屋の照明が暗くなり、部屋の明かりは残り3つとなっていた。
(久美さん…、ただじゃ終わらないってことは、こういうことだったのか…。)
僕としてはにわかには信じがたかったが、久美さんは優子さんが偽物ではないか、という推測を遺していった。恭子さんは、呆然とした顔から怒りへと変わり、優子さんに詰問した。
「優子!!久美の話、どういうこと?ちゃんと説明して!」
「…説明って、何を?」
「久美の話が本当なら、あんたは嘘をついてたことになる!何で嘘なんかついたの?」
「…恭子は、久美の話を信じるの?私は、あなたの友達なのに、あなたは私を信じられないの?」
真っ直ぐに見据えて優子さんは、恭子さんの疑問に質問返しをした。恭子さんは、久美さんが遺した言葉と、目の前の優子さんの言葉の板挟みになり、八方塞がりとなっていた。
「…じゃあ、僕から聞くよ。」
僕は、久美さんが今際の際に遺した言葉が、どうしても嘘とは思えず、優子さんの真意を探りたかった。
「僕は、同じクラスだったみたいだけど、恭子さんたちとは交流がなかった。だから、1番中立に話を整理できる。優子さん、答えてほしい。久美さんは、指名が始まる前に、優子さんに連絡返してこないねって問いかけに、仕事が忙しかった、って答えた。これは僕も聞いていた。でも、久美さんは最後の60秒で、連絡をとってた、って話を遺した。…数日間しか過ごしてないし、全部を知ってるわけじゃないけど、死の間際に嘘をついていく理由は、久美さんにはないと、思ってる。…優子さん、君は嘘をついたの?」
「…いいえ。嘘はついてないわ。」
「それだと、久美さんが連絡を取っていた、っていう話と矛盾ができる。」
「…私の推測だけど、久美は平川さんと繋がってたんじゃないかしら。だから、最後に残った私たちを混乱させるため、嘘をついたって考えれば、筋は通る。」
「でも、久美さんは目の前で死んだ!」
「無事だったとしたら?」
「…え?」
優子さんの言葉に、思わず面食らってしまった。久美さんは確かに、身体中の皮膚が爛れて死んでしまった。その光景は僕も、恭子さんも、優子さんも見ている。
「罰を受けた人の部屋、死んでしまうと部屋が暗くなるでしょう?私も初めは、部屋をわざわざ暗くする理由がわからなかったけど、暗くしてしまえば、その後生きてた久美が部屋を出ても、誰もわからない。この推測が当たっていたら、矛盾もない。苦しみ抜いて死んだっていう演技をして、部屋を脱出していても、誰も気づかないわ。」
「でも、吐血して死んでしまった人もいた。とても演技でできることじゃないよ!」
「もういい!やめて!!」
恭子さんは、苦しそうに叫んだ。
恭子さんは、久美さんと優子さん、どちらを信じればいいのか、と苦悩している様子だった。
「…もう、疲れたわ。休ませて。」
「…そうだね、ごめん、恭子さん。」
「…あんたって、謝ってばっか。そんな気を遣ってると、問題出る前に死んじゃうわよ。」
そう言うと、恭子さんは静かに布団の中に入り、掛け布団を頭まで被ってこもってしまった。僕と優子さんも、それに倣うように、体をやすめることにした。
夕食後、僕らは次の指名がいつくるかと、ひりついた空気の中でひたすら待っていた。
(僕らは、答えに近づきつつある…、きっと、どんな問題を出されても、答えられるはずだ。)
自分を励ますように、僕が押し黙っていると、あーそういえばさー、と、久美さんの呑気な声が空気を破った。
「優子、最近連絡しても、全然返事なかったよねー、何してたの?」
いきなりの質問に、恭子さんも含めて目を丸くさせて久美さんを見た。
「ああ…、仕事で忙しかったの。ごめんなさい。」
「ふーん、そっか。」
「久美さん、いきなり何を…」
僕がそう言いかけた時、スピーカーから例の音が響き渡った。
「皆様、こんばんは。4回目の試験を開始いたします。試験の流れ、注意事項に変更はありません。では、4人目の回答者を発表します。」
とうとう4人目の指名。誰が、指名されるのか…、何度目の緊張感かわからないが、張り詰めた空気が漂う。
「若林久美さんです。」
「…私かー。いよいよ来たって感じ。」
表情こそ、いつもより緊迫した様子だったけど、久美さんのいつものマイペースな口調は変わらなかった。久美さんは、すくっと立ち上がり、何かを決心したように話し始めた。
「いいよ。何の問題でも受けてあげる。でも、タダじゃおわんないから。」
声色は変わらないが、今までに見せたことがないような態度で、試験官に向かって宣言した。
(久美さん、何を考えて…)
「では、問題です。あなたは、高校在籍時、ある女性をいじめており、その女性はあなたの行動で深く傷ついた出来事がありました。その出来事とは何か述べよ。では、カウントダウン、スタート。」
「……ふふっ、わかるわけないじゃん、こんなの。」
久美さんは、早々に諦めたようにため息をついた。恭子さんは、焦りを隠せずに、声こそ出さないが、窓を何度も叩いて久美さんを見る。何でもいいから答えろ、という恭子さんの気迫が伝わって、僕も諦めてほしくないと、拳が痛くなるほど窓を叩く。
「恭子、言ったでしょ。タダじゃおわんないからって。私、バカだからさー。どんな問題出されても、答えられないなぁって思ってたんだよね。でも、やられるばっかじゃ腹立つじゃん?だから、恭子と佐々木が生き残れるように、この時間使うことにした。」
そう言うと、久美さんは優子さんに向かって、話し始めた。
「さっき優子、最近連絡返してこないじゃんって聞いたら、仕事で忙しいって言ってたよね。そんなわけ無いのよ。だって私、ここにくる前に優子と連絡取ってたもん。」
恭子さんと僕は、突然の発言に気がついたら窓を叩く手を止めていた。優子さんは、一瞬面食らった表情をしたが、そこから顔色一つ変えることはなかった。
(優子さんが、嘘を…?何で??)
「優子最近、誰かにつけられてる気がする、って言ってたの。それに、なんか知らないけど、職場でも近所でも、皆んなよそよそしくなって、イタ電までかかってくるようになった、とか言ってた。相談のってたけど、だんだんやつれてってさ。で、明日にでも優子と会って話そうかなーって思ってたら、いつの間にかここに閉じ込められてて。」
もう、久美さんに問題を答える気はないらしい、と悟り、僕はただ語り続ける久美さんを呆然と見つめた。タイマーは、残り15秒となっている。
「あ、もう時間ないじゃん。簡単に話すと、私は優子が偽物なんじゃないかって思ってる。顔そのまんまだけどね。…じゃ、私の話はここまで。ちゃんと、次に活かしてよねー。」
そこまで言い切った後、ちょうどにタイマーが時間ぎれを告げた。久美さんは、自分の役目は終えた、というように座り込み、ふぅ、とため息をついた。
「若林久美、不正解です。よって罰を与えます。」
久美さんは、床にゴロンと寝転んだが、体にはすぐ異変が現れた。久美さんの体の皮膚に水疱が大量に現れ、あまりの痛みに、久美さんはのたうちまわりながら、叫び声をあげている。
「若林氏の罰は、超高濃度マスタードガスにより引き起こされる全身の壊死です。少量であれば、水疱ができ痛みを伴うのみで済みますが、致死量分の2倍のガスを流し込んでいますので、しばらく苦しんだ後、死亡します。」
いつの間にか、久美さんの口からは叫び声も聞こえなくなり、遺体は皮膚が焼け爛れたようになり、見るに耐えないものとなっていた。
「正解は、高校2年秋、若林氏は女性の携帯電話を取り上げ、保存されている画像フォルダを開き、大切にしていた家族写真を目の前で削除した、です。携帯電話に保存されていた唯一の家族写真だったことを知っていた若林氏は、このことから、女性がどのように追い詰められるか、実験をしていたものと思われます。」
久美さんの罪が暴露されたが、僕と恭子さんは、ただ呆然と聞いていた。色々なことが起きすぎて、頭の中で整理が追いつかない。
「次の回答者の指名は、翌朝の配給が行われた2時間後に行われます。では、皆様お疲れ様でした。」
スピーカーの音は、そこで途切れ、遺体だけが残った久美さんの部屋の照明が暗くなり、部屋の明かりは残り3つとなっていた。
(久美さん…、ただじゃ終わらないってことは、こういうことだったのか…。)
僕としてはにわかには信じがたかったが、久美さんは優子さんが偽物ではないか、という推測を遺していった。恭子さんは、呆然とした顔から怒りへと変わり、優子さんに詰問した。
「優子!!久美の話、どういうこと?ちゃんと説明して!」
「…説明って、何を?」
「久美の話が本当なら、あんたは嘘をついてたことになる!何で嘘なんかついたの?」
「…恭子は、久美の話を信じるの?私は、あなたの友達なのに、あなたは私を信じられないの?」
真っ直ぐに見据えて優子さんは、恭子さんの疑問に質問返しをした。恭子さんは、久美さんが遺した言葉と、目の前の優子さんの言葉の板挟みになり、八方塞がりとなっていた。
「…じゃあ、僕から聞くよ。」
僕は、久美さんが今際の際に遺した言葉が、どうしても嘘とは思えず、優子さんの真意を探りたかった。
「僕は、同じクラスだったみたいだけど、恭子さんたちとは交流がなかった。だから、1番中立に話を整理できる。優子さん、答えてほしい。久美さんは、指名が始まる前に、優子さんに連絡返してこないねって問いかけに、仕事が忙しかった、って答えた。これは僕も聞いていた。でも、久美さんは最後の60秒で、連絡をとってた、って話を遺した。…数日間しか過ごしてないし、全部を知ってるわけじゃないけど、死の間際に嘘をついていく理由は、久美さんにはないと、思ってる。…優子さん、君は嘘をついたの?」
「…いいえ。嘘はついてないわ。」
「それだと、久美さんが連絡を取っていた、っていう話と矛盾ができる。」
「…私の推測だけど、久美は平川さんと繋がってたんじゃないかしら。だから、最後に残った私たちを混乱させるため、嘘をついたって考えれば、筋は通る。」
「でも、久美さんは目の前で死んだ!」
「無事だったとしたら?」
「…え?」
優子さんの言葉に、思わず面食らってしまった。久美さんは確かに、身体中の皮膚が爛れて死んでしまった。その光景は僕も、恭子さんも、優子さんも見ている。
「罰を受けた人の部屋、死んでしまうと部屋が暗くなるでしょう?私も初めは、部屋をわざわざ暗くする理由がわからなかったけど、暗くしてしまえば、その後生きてた久美が部屋を出ても、誰もわからない。この推測が当たっていたら、矛盾もない。苦しみ抜いて死んだっていう演技をして、部屋を脱出していても、誰も気づかないわ。」
「でも、吐血して死んでしまった人もいた。とても演技でできることじゃないよ!」
「もういい!やめて!!」
恭子さんは、苦しそうに叫んだ。
恭子さんは、久美さんと優子さん、どちらを信じればいいのか、と苦悩している様子だった。
「…もう、疲れたわ。休ませて。」
「…そうだね、ごめん、恭子さん。」
「…あんたって、謝ってばっか。そんな気を遣ってると、問題出る前に死んじゃうわよ。」
そう言うと、恭子さんは静かに布団の中に入り、掛け布団を頭まで被ってこもってしまった。僕と優子さんも、それに倣うように、体をやすめることにした。
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