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最終事件録1–3

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最終事件録1–3
 2人が訪れた家は、凛子の友人の1人、木本朝香の家だった。朝香は凛子の死をすでに知っており、未だショックから立ち直れていない様子だった。

「…凛子は、高校時代からの友人でした。私と凛子と、理恵でよく遊んで…、卒業した後も、よく連絡を取り合って食事に行ったりしてました。つい先日も、3人で会ってお茶して、ショッピングして…」

 塚本はそこまで聞くと、先ほどの平端の友人の話と被るところを感じたのか、いつものように聴取することができずにいた。一方で平端はというと、いつもと変わらない様子で朝香に質問を投げた。

「3人は、この近辺にお住まいなんですか?」
「私と凛子は県内に住んでいますが、理恵は勤務先が圏外なので、少し離れたところに住んでいます。でも、そう遠くない距離ですから、理恵が帰ってきて遊んだり、逆に私と凛子が理恵の方へ遊びに行ったりしてました。」
「なるほど…。つい先日、と仰いましたが、具体的にはいつ頃ですか?」
「先週の土曜日です…。お茶して、買い物して、普段通りでした。」
「そうですか…。このようなことは聞きにくいのですが、凛子さんが殺される理由に、思い当たることはありますか?誰かから恨まれていたとか、トラブルがあったとか…」
「凛子は人に恨まれるような子じゃありません。何かあれば、すぐ私や理恵に相談してくれましたし、トラブルがあってって話も聞いたことありません…。」
「…そうですか。すみません、不躾な質問をしてしまって。」

 塚本は、朝香に質問を続ける平端を見て、自分も意を決したのか、会話に入ってきた。

「平端に続いて、また踏み込んだ質問で失礼ですが、凛子さんには配偶者がいらっしゃいますね。朝香さんや、理恵さんはご結婚はされていないですか?」
「私には婚約者がいますが、理恵にはそういった話は聞きません…。仕事している方が好きだって言っていますけど、恋愛に関して少し疎いところがあるので、誰かと付き合ってるとか、そう言った話は聞いたことがありません。」
「なるほど。キャリアウーマンというわけですね。」
「恋愛関係はからっきしですけど、仕事についてはバリバリ働いている仕事人みたいな子で。いつも、凛子とはそんな理恵をみて格好いいね、って話していました。」

 平端は、そう話し続ける朝香の背後に、凛子の霊を見ていた。凛子は終始悲しそうな顔をしており、少なくとも朝香に対するネガティブな思念は感じ取れなかった。

(仲のいい友達、か…。凛子さんの霊を見る限りだと、朝香さんが話している内容に、間違いはなさそう。)

 ある程度の聴取を済ませた2人は朝香の家を後にし、車に乗り込んだ。聞き込みに行った刑事たちと情報共有をするため、車を警察署に向けて走らせた。

「塚本先輩。」
「な、なんだよ。」

 いつもとは違う平端の少し怒ったような口調に、塚本は面食らった表情をする。

「朝香さんの家に行くまでに私の身の上話をしてしまったのは申し訳なかったですけど、いくら関係者の話が私の話と被るからって、遠慮しないでください。もう、直美の話は、私の中で決着がついているんです。気を遣われても、逆にこっちが困っちゃいますよ。」
「…そりゃすまなかったな。素直に謝る。」
「…霊の思念が読み取れるようになったことは、呪いだって言いましたけど、でもその力があることで、私の仕事に生かせているってことも事実です。だから、塚本先輩は気にせずに私をこき使ってくれていいですから。」
「わかったよ。じゃあ、遠慮なくこき使うことにする。」
「はい、それでこそ、塚本先輩です。」

 そう言って笑う平端を見て、塚本は微かに笑い、警察署へ車を走らせた。
 署に戻ると、すでに聞き込みを終わらせた刑事たちが、2人の帰りを待っていた。情報を整理すると、朝香、理恵、凛子の3人は朝香の証言通り、つい先週まで顔を合わせて出かけており、関係性に問題はなさそうであると裏が取れた。また、朝香は年明けには伴侶となる婚約者がおり、凛子は結婚して3年目の配偶者と1人の子どもがいるごく一般的な家庭、理恵は県外で外資系の企業で働いており、いわゆるバリバリのキャリアウーマン、ということだった。

「朝香さんから聞いた話とほぼ一致してますね。ますます凛子さんを殺す人間像が見えてこないなぁ…。」

 平端は、凛子の関係者を相関図でまとめたホワイトボードを眺め、うーんと唸る。高校から仲の良い友人、進路が別れても関係は良好、凛子や朝香にはパートナーがいて、理恵にはいないが、第一線で働く理恵を尊敬していた2人…、とそこまで考え込み、平端はある部分に目が止まった。凛子の配偶者である、誠司という男性の部分に、『凛子の高校時代からの知り合い』『凛子の勤め先に誠司が来たことがきっかけで交際に発展、翌年結婚』『夫婦仲は良好?』と書かれていた。誠司の写真を見ると、スーツに身を包み、いかにも真面目なサラリーマン、という雰囲気が感じられた。
 すると、平端の背後から一瞬、冷ややかな目線を向けられたような視線を感じた。振り返ると、凛子の霊が、平端が手にとっている写真に向けて、冷たい視線を投げていることがわかった。

「…凛子さんの配偶者、誠司さんに聞き込みに行った人、誰?」
「僕です。」
「夫婦仲は良好?ってところに引っかかるんだけど、具体的には?」
「配偶者が言うには、多少の衝突はあっても、基本的に夫婦仲はよかったと言ってました。ただ、近所に住む人間の話によると、ここのところ、夫婦で言い争う声が度々聞こえていたと言っていて。ちょっと引っかかるところがあったので、そう書きました。」
「なるほど…。」

 凛子の霊が、誠司の写真に冷たい視線を向けていた理由が何となくわかった。だが、一点問題なのは、誠司には犯行時刻にアリバイがある。いくら仲が悪かったとはいえ、凛子を手にかけることはできない。
 ふう、とため息をつくと、次に目をやったのは、理恵の写真。話に聞いていた通り、しっかり働く仕事人、という雰囲気が漂っていた。凛子の霊は、先ほど誠司の写真に向けていた視線とは打って変わり、悲しそうな、そして虚しそうな表情となっていた。

(ん?待て待て。朝香さんの話では、何か悩みがあったら話してくれた、ってことだった。朝香さんや理恵さんは、夫婦仲が悪かったことを知らなかった…?)

「塚本先輩、ちょっと気になることがあります。調べにいっていいですか。」
「…おう、行くか。」

 周りの刑事たちは、平端の提案を素直に聞く塚本の姿をみて、呆気に取られた顔で2人の背中を見送った。
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