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最終事件録1–1
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最終事件録1–1
この力は多分、私の罪の証。
大切な人の本当の気持ちに気づくことができなかった。
1番近くにいたはずなのに。
1番彼女のことを知っていたはずなのに。
だから私は、この力を贖罪のために使い続けなければ。
「…もう、5年になるんだね。」
「早いよね。…こうして花を供えに来るのも、何度目かわからないくらい。」
「そういえば、あれちゃんと持ってきた?」
「もちろん、直美が1番好きだったもん。」
「渋い趣味してるよね。…日本酒にも色々あるけどさ。」
2人の女性が、『河村家之墓』と彫られた墓標の前でどこか寂しそうな笑顔を浮かべながら、墓参りにきている。墓標には花が生けられ、お供物としてお酒のつまみと鬼殺しが供えられた。この墓標の下には、河村直美という、当時30歳だった女性が遺骨となって収められている。
「毎回、月命日にいつも来れてるけど、仕事は大丈夫なの?警察官って、ほぼ休み取れないってイメージあったけど。」
「…刑事課に配属されてからは、そんな感じだけど…。直美のお墓参りにくる日だけは、絶対に守ろうって決めてるから。」
「そっか…。でも、真江。私最近思うの。直美は、真江や私に、心配かけたくなかったのもあるかもしれないけど、あれを書き遺したのは、もっと他の意味があったんじゃないかって。」
「…他の意味?優子、あれからもあの日記読み続けてたの。」
「うん。それで思ったんだけど…」
会話の途中で、平端の電話が鳴る。平端は優子にごめん、といって着信を取った。
「はい、平端です」
「おう、非番の時にすまねぇな。署の管轄内で事件発生だ。」
着信の主は塚本だった。聞くと、署の管轄内で、女性の変死体が発見されたという。場所は、今平端がいる場所から30分ほど離れた場所だった。塚本が電話した理由は、所轄内の手が足りず、休暇をとっている平端に手を借りたいということだった。
「まだ近辺にいたからいいものの…これで私が、外国へ旅行してます、とかだったらどうするつもりだったんですか。」
「愚痴は後で聞くし、借りは返すから、とにかく頼む。」
「はいはい…わかりました。幸い、重要な用事は済みましたから。1時間弱で行けると思います。」
詳しい内容は現地で、となり、平端は電話を切った。はぁ、とため息を吐く。
「やっぱり、警察官って大変だね。」
「ごめん、優子…。これからご飯行こうって言ってたのに。」
「治安を守るのが最優先でしょ!私とランチなんていつだって行けるんだから。いってらっしゃい。」
「ごめん、絶対埋め合わせするから!」
平端は自家用車を一旦自宅へ走らせ、出勤の準備をすると休む間もなく事件現場へ向かった。
現場に着くと、鑑識やいつもの面子はちらほら見えるが、確かに人手は不足している様子だった。平端を見つけた塚本は、すまねぇな、と謝りながら平端に近寄ってきた。
「すまねぇな、だけでは済ませませんからね。ちゃんと返してくださいよ。」
「わかってるよ。一先ず、今わかってることはだな…」
そう言って塚本は手帳を取り出し、経緯を話し始めた。
発見された遺体の身元は判明しており、棚橋凛子、30歳。死因は首を絞められたことによる窒息死で、その後、遺体を発見現場に遺棄されたものとみられていた。近辺は、人通りも少なく、第一発見者はたまたま付近を飼い犬の散歩のため通りかかった住民が発見し、110番通報したとのことだった。
「遺体には、首を絞めた跡以外、特に異常は見られませんね。金品もそのまま、物取りでもなさそうだし…。」
「見ず知らずの第三者にやられたっていうような、通り魔的なものなら、首を締めるより、刃物使うなり鈍器使うなりするだろうからな。」
「快楽殺人者ならあり得るかもしれませんけど。」
「それ言い出したらキリがねぇよ。まぁ一先ずは今、被害者の周辺の人間関係を洗うところだ。第三者による犯行の線は別で捜査させる。主目的は、被害者の人間関係からだ。」
そう言うと、塚本は現場に出ている刑事たちを招集し、付近の聞き込みや被害者の人間関係から捜査するよう指示を飛ばした。平端と塚本も、被害者のスマートフォンから調べた交友関係者を当たるため、パトカーに乗って目的地へ向かった。
「…今日、友人の月命日だったんです。いつも、もう1人友人とお墓参りに行って、ご飯食べに行ったりしてて。」
「そうか…。間の悪い時に呼んじまったな。」
「いえ。お墓参りは丁度終わったところだったので。」
「…お前の友人ってことは、だいぶ若い時期に亡くなっちまったんだな。」
「…癌で亡くなりました。手術して一時期は良くなったんですけどね。転移したところが悪くて、そのまま。」
「…やりきれねぇな。」
「転移してからも、私たちがお見舞いに行くと、元気そうに振る舞う子だったんです。顔色は明らかに悪いのに。私たちが寝ててもいいんだよ、って言っても、私がそうしたいからいいんだ、って笑って話し続ける子で。…霊の思念が感じられるようになったのも、その子がきっかけなんですよ。」
平端は、関係者宅へ向かう道中で、自身の過去について話始めた。
この力は多分、私の罪の証。
大切な人の本当の気持ちに気づくことができなかった。
1番近くにいたはずなのに。
1番彼女のことを知っていたはずなのに。
だから私は、この力を贖罪のために使い続けなければ。
「…もう、5年になるんだね。」
「早いよね。…こうして花を供えに来るのも、何度目かわからないくらい。」
「そういえば、あれちゃんと持ってきた?」
「もちろん、直美が1番好きだったもん。」
「渋い趣味してるよね。…日本酒にも色々あるけどさ。」
2人の女性が、『河村家之墓』と彫られた墓標の前でどこか寂しそうな笑顔を浮かべながら、墓参りにきている。墓標には花が生けられ、お供物としてお酒のつまみと鬼殺しが供えられた。この墓標の下には、河村直美という、当時30歳だった女性が遺骨となって収められている。
「毎回、月命日にいつも来れてるけど、仕事は大丈夫なの?警察官って、ほぼ休み取れないってイメージあったけど。」
「…刑事課に配属されてからは、そんな感じだけど…。直美のお墓参りにくる日だけは、絶対に守ろうって決めてるから。」
「そっか…。でも、真江。私最近思うの。直美は、真江や私に、心配かけたくなかったのもあるかもしれないけど、あれを書き遺したのは、もっと他の意味があったんじゃないかって。」
「…他の意味?優子、あれからもあの日記読み続けてたの。」
「うん。それで思ったんだけど…」
会話の途中で、平端の電話が鳴る。平端は優子にごめん、といって着信を取った。
「はい、平端です」
「おう、非番の時にすまねぇな。署の管轄内で事件発生だ。」
着信の主は塚本だった。聞くと、署の管轄内で、女性の変死体が発見されたという。場所は、今平端がいる場所から30分ほど離れた場所だった。塚本が電話した理由は、所轄内の手が足りず、休暇をとっている平端に手を借りたいということだった。
「まだ近辺にいたからいいものの…これで私が、外国へ旅行してます、とかだったらどうするつもりだったんですか。」
「愚痴は後で聞くし、借りは返すから、とにかく頼む。」
「はいはい…わかりました。幸い、重要な用事は済みましたから。1時間弱で行けると思います。」
詳しい内容は現地で、となり、平端は電話を切った。はぁ、とため息を吐く。
「やっぱり、警察官って大変だね。」
「ごめん、優子…。これからご飯行こうって言ってたのに。」
「治安を守るのが最優先でしょ!私とランチなんていつだって行けるんだから。いってらっしゃい。」
「ごめん、絶対埋め合わせするから!」
平端は自家用車を一旦自宅へ走らせ、出勤の準備をすると休む間もなく事件現場へ向かった。
現場に着くと、鑑識やいつもの面子はちらほら見えるが、確かに人手は不足している様子だった。平端を見つけた塚本は、すまねぇな、と謝りながら平端に近寄ってきた。
「すまねぇな、だけでは済ませませんからね。ちゃんと返してくださいよ。」
「わかってるよ。一先ず、今わかってることはだな…」
そう言って塚本は手帳を取り出し、経緯を話し始めた。
発見された遺体の身元は判明しており、棚橋凛子、30歳。死因は首を絞められたことによる窒息死で、その後、遺体を発見現場に遺棄されたものとみられていた。近辺は、人通りも少なく、第一発見者はたまたま付近を飼い犬の散歩のため通りかかった住民が発見し、110番通報したとのことだった。
「遺体には、首を絞めた跡以外、特に異常は見られませんね。金品もそのまま、物取りでもなさそうだし…。」
「見ず知らずの第三者にやられたっていうような、通り魔的なものなら、首を締めるより、刃物使うなり鈍器使うなりするだろうからな。」
「快楽殺人者ならあり得るかもしれませんけど。」
「それ言い出したらキリがねぇよ。まぁ一先ずは今、被害者の周辺の人間関係を洗うところだ。第三者による犯行の線は別で捜査させる。主目的は、被害者の人間関係からだ。」
そう言うと、塚本は現場に出ている刑事たちを招集し、付近の聞き込みや被害者の人間関係から捜査するよう指示を飛ばした。平端と塚本も、被害者のスマートフォンから調べた交友関係者を当たるため、パトカーに乗って目的地へ向かった。
「…今日、友人の月命日だったんです。いつも、もう1人友人とお墓参りに行って、ご飯食べに行ったりしてて。」
「そうか…。間の悪い時に呼んじまったな。」
「いえ。お墓参りは丁度終わったところだったので。」
「…お前の友人ってことは、だいぶ若い時期に亡くなっちまったんだな。」
「…癌で亡くなりました。手術して一時期は良くなったんですけどね。転移したところが悪くて、そのまま。」
「…やりきれねぇな。」
「転移してからも、私たちがお見舞いに行くと、元気そうに振る舞う子だったんです。顔色は明らかに悪いのに。私たちが寝ててもいいんだよ、って言っても、私がそうしたいからいいんだ、って笑って話し続ける子で。…霊の思念が感じられるようになったのも、その子がきっかけなんですよ。」
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