7 / 9
第7話
しおりを挟む
「ん………」
ここは…?私は死んだのだろうか。さっき賊に追い詰められて…あれ、それからどうなったのだろうか?
少し体を起こして周りを見ようとすると、あることに気がついた。傷口が治療されているのだ。
素人目にも高そうとわかる布と、それを抑えている革製のベルト。血を抑えるために使われたのだろうか、確かに血は止まっていて、さっきまでのグロテスクな鮮血は目に入らない。
しかも、さっきまで寝ていたから気がつかなかったが、今まで見たことのない造りの暗い緑色をした服が毛布代わりにかけられていた。
…何処かの……軍服だろうか。昔、一度だけ帝国の首都に行った時に軍人が来ているのを見たことがある。しかし、これほどしっかりした作りではなかった気がする。
誰かが、助けてくれたのだろうか。
手足に枷もはめられていないし、奴隷商や賊に捕まったわけではなさそうだ。
近くには焚き火がされていて、暖がとれるようになっている。そして、火がよく当たる場所に魚がかけられていて、焼き魚まで作られている。
本当に、誰が……?
そう思っていると、足音が聞こえた。
それに気がついて音のする方向を見ようとすると、首をそちらに向ける前に話しかけられた。
「お、良かった。生きてたみたいだな」
上半身を薄い砂漠色のシャツに身を包み、腕まくりをしていて、腰元には無骨ながらも凶悪さを滲み出している刀を携えている男は、二十代くらいに見えた。
同い年くらいかな…?
「あ、貴方が助けてくれたんですか?」
少し声をうわずらせながら、尋ねてみる。
「そう……だな、偶々とはいえ、助けたのは私だ」
そうか、この人が私を。
だとしたら、意識が消える土壇場でかすかに聞こえた地獄の底から響く声ような声も、この人のものだろうか。
そう思うと温和な彼の雰囲気も、飾りのように見えかけたが、初対面の人に対してここまでしてくれる人が悪い人だとは思えなかった。
「ありがとう、ございます」
「…日本語が通じるんだな。外国の方だと思っていたが……」
「日本語…?日本とは何ですか?」
○
絶句した。
先ほども銃器すら持たない中世山賊のような奴らがいたり、銀髪の、これまた中世のライトアーマーのような鎧と丈の短いフードケープを着ている少女がいたり、訳がわからなかったりもしたが、それにしたって、今回のは無視できない。
「日本を…知らないのか?」
尋ねると、彼女は申し訳なく思ったのか、それともこちらの機嫌を損ねたと思ったのか、首をすくめながら言う。
「すみません。知らないです」
「……………そうか、因みにここの地名は分かるか?」
「えっと、多分ですけど。帝国領のアメジスト地方だと思います」
「……ユーラシア大陸という言葉に、聞き憶えはないか?」
「いえ、聞いたことないです」
「そう……か」
ユーラシア大陸は、世界中の人が知っている常識的なものだ。目の前の少女が日本語を話していることからも、辺境の地だとは思えないし、帝国領という言葉にもアメジスト地方という言葉にも聞き覚えがない。
そう、こちらの常識が全く通じず、まるで別世界のようだ……って、別世界か。
確かに彼方より科学力もないようだし、自然が多く残っていて、中世の小説の中のようだし。
さらに、私は確かに向こうで絞首刑になった訳だし。
「なぁ、私は故郷から遠く離れた場所に来たみたいで、どうすればいいか分からないんだが、この世界での生き方を教えてもらえないだろうか?」
「…そうですか。まぁ、助けてもらった御恩もありますし、その位ならお安い御用ですよ」
「感謝する」
この場所に来て出逢ったのが、この少女で良かったな。なんて、今の自分の年齢が20代になっている事をさらさら忘れながら、中身30も半ばに入っている陸軍中尉は思うのだった。
そう、この少女との出会いが、新しい物語の始まりであったのだ。
ここは…?私は死んだのだろうか。さっき賊に追い詰められて…あれ、それからどうなったのだろうか?
少し体を起こして周りを見ようとすると、あることに気がついた。傷口が治療されているのだ。
素人目にも高そうとわかる布と、それを抑えている革製のベルト。血を抑えるために使われたのだろうか、確かに血は止まっていて、さっきまでのグロテスクな鮮血は目に入らない。
しかも、さっきまで寝ていたから気がつかなかったが、今まで見たことのない造りの暗い緑色をした服が毛布代わりにかけられていた。
…何処かの……軍服だろうか。昔、一度だけ帝国の首都に行った時に軍人が来ているのを見たことがある。しかし、これほどしっかりした作りではなかった気がする。
誰かが、助けてくれたのだろうか。
手足に枷もはめられていないし、奴隷商や賊に捕まったわけではなさそうだ。
近くには焚き火がされていて、暖がとれるようになっている。そして、火がよく当たる場所に魚がかけられていて、焼き魚まで作られている。
本当に、誰が……?
そう思っていると、足音が聞こえた。
それに気がついて音のする方向を見ようとすると、首をそちらに向ける前に話しかけられた。
「お、良かった。生きてたみたいだな」
上半身を薄い砂漠色のシャツに身を包み、腕まくりをしていて、腰元には無骨ながらも凶悪さを滲み出している刀を携えている男は、二十代くらいに見えた。
同い年くらいかな…?
「あ、貴方が助けてくれたんですか?」
少し声をうわずらせながら、尋ねてみる。
「そう……だな、偶々とはいえ、助けたのは私だ」
そうか、この人が私を。
だとしたら、意識が消える土壇場でかすかに聞こえた地獄の底から響く声ような声も、この人のものだろうか。
そう思うと温和な彼の雰囲気も、飾りのように見えかけたが、初対面の人に対してここまでしてくれる人が悪い人だとは思えなかった。
「ありがとう、ございます」
「…日本語が通じるんだな。外国の方だと思っていたが……」
「日本語…?日本とは何ですか?」
○
絶句した。
先ほども銃器すら持たない中世山賊のような奴らがいたり、銀髪の、これまた中世のライトアーマーのような鎧と丈の短いフードケープを着ている少女がいたり、訳がわからなかったりもしたが、それにしたって、今回のは無視できない。
「日本を…知らないのか?」
尋ねると、彼女は申し訳なく思ったのか、それともこちらの機嫌を損ねたと思ったのか、首をすくめながら言う。
「すみません。知らないです」
「……………そうか、因みにここの地名は分かるか?」
「えっと、多分ですけど。帝国領のアメジスト地方だと思います」
「……ユーラシア大陸という言葉に、聞き憶えはないか?」
「いえ、聞いたことないです」
「そう……か」
ユーラシア大陸は、世界中の人が知っている常識的なものだ。目の前の少女が日本語を話していることからも、辺境の地だとは思えないし、帝国領という言葉にもアメジスト地方という言葉にも聞き覚えがない。
そう、こちらの常識が全く通じず、まるで別世界のようだ……って、別世界か。
確かに彼方より科学力もないようだし、自然が多く残っていて、中世の小説の中のようだし。
さらに、私は確かに向こうで絞首刑になった訳だし。
「なぁ、私は故郷から遠く離れた場所に来たみたいで、どうすればいいか分からないんだが、この世界での生き方を教えてもらえないだろうか?」
「…そうですか。まぁ、助けてもらった御恩もありますし、その位ならお安い御用ですよ」
「感謝する」
この場所に来て出逢ったのが、この少女で良かったな。なんて、今の自分の年齢が20代になっている事をさらさら忘れながら、中身30も半ばに入っている陸軍中尉は思うのだった。
そう、この少女との出会いが、新しい物語の始まりであったのだ。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
冤罪をかけて申し訳ないって……謝罪で済む問題だと思ってます?
水垣するめ
恋愛
それは何の変哲もない日だった。
学園に登校した私は、朝一番、教室で待ち構えていた婚約者であるデイビット・ハミルトン王子に開口一番罵声を浴びせられた。
「シエスタ・フォード! この性悪女め! よくもノコノコと登校してきたな!」
「え……?」
いきなり罵声を浴びせられたシエスタは困惑する。
「な、何をおっしゃっているのですか……? 私が何かしましたか?」
尋常ではない様子のデイビットにシエスタは恐る恐る質問するが、それが逆にデイビットの逆鱗に触れたようで、罵声はより苛烈になった。
「とぼけるなこの犯罪者! お前はイザベルを虐めていただろう!」
デイビットは身に覚えのない冤罪をシエスタへとかける。
「虐め……!? 私はそんなことしていません!」
「ではイザベルを見てもそんなことが言えるか!」
おずおずと前に出てきたイザベルの様子を見て、シエスタはギョッとした。
イザベルには顔に大きなあざがあったからだ。
誰かに殴られたかのような大きな青いあざが目にある。
イザベルはデイビットの側に小走りで駆け寄り、イザベルを指差した。
「この人です! 昨日私を殴ってきたのはこの人です!」
冤罪だった。
しかしシエスタの訴えは聞き届けてもらえない。
シエスタは理解した。
イザベルに冤罪を着せられたのだと……。
信用してほしければそれ相応の態度を取ってください
haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。
「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」
「ではその事情をお聞かせください」
「それは……ちょっと言えないんだ」
信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。
二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる