14 / 14
14 私……やりたいです
しおりを挟むヴィンセントとクロードは無言でベッドへと向かうと、ふたりで広いベッドの上に乗り上げた。
落ち着かない様子のクロードは、ベッドの上でも目線を泳がせている。
そんなクロードの手を取り、ヴィンセントは優しく問いかけた。
「横になれますか?」
「……僕がですか?」
クロードは目を丸くして、不安そうに尋ね返してきた。なにか勘違いしているらしい。
ヴィンセントは苦笑しつつ、クロードの疑問に答える。
「俺がリードするだけです。あなたをとって食うような真似はしません」
「騎乗位でするということですか?」
「まあ、そうですね……」
ちゃんとそういう単語は記憶に残っているのだな、とヴィンセントは少し感心してしまった。
それはそれとして、実はヴィンセントには騎乗位の経験がなかった。以前のクロードとの閨事ときは正常位が後背位のどちらかで、ヴィンセントがクロードの上に乗ったこともなければ、リードしたことも一度もない。
まあ、なんとかなるだろう──そんな軽い気持ちで、ヴィンセントは事を進めようとしていた。
とにかく、クロードのものを勃たせて、自分で中を解して、挿れればいいのだ。
おそらくクロードがなにもしなくても、ヴィンセントが頑張ればどうとでもなるだろう。
「目を閉じていても構いません。なるべく早く終わらせます」
「……目を閉じるなんて、そんなことはしません」
「ですが、俺の体は傷痕が多いので、あまり見ていて気分の良いものではないかと」
いかにも心外だと言いたげな顔をするクロードにそう言いながら、ヴィンセントは自身の寝衣の結び目を解いた。
すると、寝衣の前が自然と開き、首筋から臍の下まで、ヴィンセントの素肌が無防備に晒される。
下着は履いたままなのでさほど羞恥心はないが、それを見せられたクロードは途端に顔を真っ赤にして口をはくはくとさせた。
「そっ、そんな突然っ……!」
「失礼しました。体の傷に関しては、見ていただいた方が早いかと思いまして」
「傷がどうとかっ、そんな問題じゃないですっ!」
「そ、そうですか……」
確かに、傷のことは以前のクロードもあまり気にしていなかった。いや、あれは気にしていたといえば気にしていたのだろうか──
「あの……」
ヴィンセントが以前のクロードのことを思い出していたところで、赤面したままのクロードから控えめな声がかけられる。
「はい、なんでしょうか?」
「父上から、ヴィンセントさんは僕の命の恩人だと聞きました。盗賊から襲われていたところを助けていただいたと」
「…………まあ、そうですね」
歯切れの悪い返答になったのは、あのとき、最後の最後でヴィンセントは背中を切りつけられて気を失ってしまったからだ。
その直後、助けを呼びに行っていたクロードの従者のひとりが応援を引き連れて戻って来たのでなんとかなったが、それがなければヴィンセントどころか、クロードの命もなかったのかもしれない。
実際のところ、ヴィンセントよりも従者の彼のほうがよっぽどクロードの命の恩人なのではないかとヴィンセントは思うこともあるが、クロードたちの中ではそうではないらしい。
たまたま通りかかっただけの見ず知らずの男が命懸けで助けてくれたから……ということもきっと大きいのだろう。
あれがきっかけで、ヴィンセントはクロードの妻になった。
不相応ではあるが、クロードを愛していることを自覚したいまとなっては、まるで運命のようにも思える。きっと、いまのクロードのも、以前のクロードも、そんな風には思わないだろうが。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
わたしの婚約者は学園の王子さま!
久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。
恋したら、料理男子にかこまれました
若奈ちさ
児童書・童話
きみたちじゃなくて、好きなあの人に食べほしいのに!
調理部を創設したいという男子にかこまれて、わたし、どうしたらいいの!?
第15回絵本・児童書大賞 奨励賞受賞。
大幅改稿のうえ書籍化されました。一部非公開となります。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
魔法少女はまだ翔べない
東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます!
中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。
キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。
駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。
そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。
果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも?
表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。
てのひらは君のため
星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。
彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。
無口、無表情、無愛想。
三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。
てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。
話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。
交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。
でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?
アイラと神のコンパス
ほのなえ
児童書・童話
自称鼻のきく盗賊サルマは、お宝の匂いを辿り、メリス島という小さな島にやってくる。そこで出会った少女、アイラからはお宝の匂いがして……そのアイラの家にあったコンパスは、持ち主の行くべき場所を示すという不思議なものだった。
そのコンパスの話を聞いて、針の示す方向を目指して旅に出ることを決意するアイラに対し、サルマはコンパスを盗む目的でアイラの旅に同行することを決めたのだが……
不思議なコンパスを手に入れた二人が大海原を駆け巡り、いくつもの島を訪れ様々な人々に出会い、
やがて世界に差し迫る危機に立ち向かう…そんな冒険の物語。
※本文は完結しました!挿絵は順次入れていきます(現在第12話まで挿絵あり)
※この作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています(カクヨムは完結済、番外編もあり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる