オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗

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2 誰か、助けて

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 どうってことないって思ってた。
 だって、私はただ、美緒ちゃんのかわりにクラス代表になっただけだし。
 大神くん目当てなんでしょって言われても、ちゃんと違うって否定できる。
 でも……。
 あれから1ヵ月、一緒にクラス代表の仕事をしてきてわかったことがある。
 大神くんは、美緒ちゃんの言った通り、あまり話さない子だったけど、与えられた仕事はきっちりこなしてくれるってこと。
 移動教室のとき、私より先に名簿を持って行ってくれたり、ちゃんとやってくれるんだよね。
 もちろん、任せっきりってわけにもいかないし、お礼は伝えるんだけど。
 口数の少ない大神くんが、それでも人気な理由を思い知る。
 私、そんな大神くんに、話しかけたり、話しかけられたりしてるんだ……。
 やっぱりちょっと、まずいかも。



 5月、GWが明けて少し経った頃のこと。
 私たちは、市内のキャンプ場に野外学習でやってきた。
 1泊する予定なんだけど、クラス代表に任されているのは、クラスメイトが全員そろっているか、ときどき人数の確認をすること。
 施設の裏にある山の中をみんなでハイキングした後、念のため人数を確認すると、私は大神くんにそれを伝えた。
「みんな揃ってるみたい。先生に伝えてくるね」
「うん。ありがとう」
 そのとき、誰かが私のことを見ていたなんて、当然、気づかないでいた。



 夕食後の自由時間。
 部屋で美緒ちゃんと話でもしようと思っていたときだった。
「さくらちゃん、ちょっといい?」
 珍しく由梨ちゃんに声をかけられる。
「うん、なに?」
「秘密の話なの」
 由梨ちゃんが、部屋を見渡す。
 女子8人で使うことになっている部屋ということもあって、ここには他のクラスメイトも、もちろんいる。
 美緒ちゃんも、一緒の部屋だ。
「こっち来てくれる?」
 なんだろう。
 断るのもおかしいし、私は由梨ちゃんと2人、部屋を出た。

 同じ部屋じゃない他の子も、みんな室内にいるのか、廊下を出歩いてる子は見当たらない。
 今日は、いつもより大神くんに話しかけちゃってたし、なにか言われちゃうのかな。
「由梨ちゃん、秘密の話って?」
 少し、緊張しながら話を切り出す。
「昼間、みんなでハイキングしたでしょ。そのとき、時計を落としちゃったみたいなの」
「え……!」
 思ってたのとちょっと違ったけど、それはそれで大変!
「それじゃあ……先生に伝えて、探しに行く?」
「ううん、それはちょっと……」
 私の提案は却下されてしまう。
「ど、どうして?」
「立ち入り禁止になってるエリアあったでしょ。少し脇道にそれたところ」
 山の中、私たちはロープが張られた場所から出ないように先生から言われていた。
 ロープの外は足場も悪いし、迷子になるといけないからって。
「ちょっと気になって……ロープの外、覗いちゃったの」
「そんな……」
「でもちょっとだけ。ちゃんとこうして戻ってきてるし」
「う、うん。無事でよかった……」
 なにかあってからじゃ遅い。
 由梨ちゃんのことも心配だけど、クラス代表の私も、怒られちゃうかもしれないし。
「でね……そこに落としたんじゃないかって思ってて」
「え……」
「いま、自由時間だし、こっそり見に行けないかな」
 時刻は7時半。
 8時になったら、私たちのクラス、1組から順にお風呂の時間になってしまう。
 明日は朝食の後、先生の話を聞いて、早めにバスで移動することになってるんだけど……。
「そうだ! 早起きして、朝、見に行くとか……」
 そう提案してみるけれど、由梨ちゃんは首を横に振った。
「山の天気は崩れやすいって言うでしょ。いま、曇ってるみたいだし、このままもし雨でも降ったら……」
 大事な時計が壊れちゃうかもしれない。
「さくらちゃん、見に行ってくるから、内緒にしてくれる?」
「それって……」
 先生に内緒で、抜け出すってこと?
「遠くは行かないし、8時までには戻って来られるようにする」
 8時までは自由時間。
 それまでに戻ってこられるなら……いいのかな。
「でも、なんで私に……」
「だって、さくらちゃんクラス代表でしょ」
 それはそうだけど、先生に内緒だなんて後ろめたい。
 かといって、私が強くダメだって言って、もし雨でも降ったら困るし。
 もう、なんでこんな面倒なこと、相談してくるんだろう。
 でも、クラス代表として認めてくれてるんだとしたら、それには応えたい。
「じゃあ、私も行く。一緒に探して、すぐに帰ってこよう」
 由梨ちゃん1人じゃ、ちゃんと8時に帰って来てくれるかもわからないし、危ない場所なら、ついて行った方がいい。
 それで私がしっかり足場は注意して、8時までに必ず帰ってくる。
 それが一番、いいよね。
「ありがとう! さくらちゃんならそう言ってくれると思った!」



 部屋に1つだけある防災用の懐中電灯を手に、私と由梨ちゃんは、施設裏の山に向かった。
 目立たないように、お風呂がある別館へと続く渡り廊下から、外に出る。
 山に入ると、施設の明かりは木に遮られてしまった。
 懐中電灯なしでは、とてもじゃないけど歩けそうにない。
 そんな状態で、ロープを頼りにハイキングコースを進む。
「この先、ロープの外だと思う。私が後ろから懐中電灯で照らすから、さくらちゃん、見れそう?」
「う、うん。わかった」
 本当は出たらダメなんだけど。
 由梨ちゃんが、足元を照らしてくれる。
 私は由梨ちゃんの時計を知らないし、由梨ちゃんが見てくれた方が……とも思ったけど、迷ってる場合じゃなかった。
 早く探して、早く戻ろう。
 ロープをくぐって、懐中電灯で照らされた足元付近を確認する。
「もうちょっと奥の方、照らすね?」
 地面を照らす懐中電灯の明かりに誘導されながら、少し奥へと向かう。
 見落とさないようにちゃんと下を向いていたけれど、時計らしいものは見当たらなかった。
「うーん……由梨ちゃん、どの辺で落としたか、わからない?」
 そう言って、顔をあげたときだった。
 突然、周りが暗くなる。
「ひゃっ!」
 もしかして、懐中電灯の明かり、消えちゃった?
「由梨ちゃん?」
 私は慌てて後ろを振り返る。
 でも暗くてよく見えない。
 そもそも照らされてたのって、こっちだっけ?
「由梨ちゃん、大丈夫?」
 もう一度、声をあげてみるけれど、返事はなかった。
 風が木を揺らす音が響くだけ。
 ざわざわしていて、なんだか不気味。
 危険な場所だし、先生にバレないようにしなくちゃならないし、いなくなってしまった由梨ちゃんのことも心配だ。
 どうすればいい?
 とりあえず、ロープの中に戻ろう。
「こっち……だよね?」
 暗すぎて、私は方角もよくわからなくなっていた。
 ロープの中から、そんなに離れていないはずだけど。
 間違えるわけにはいかない。
 どうしよう。
 動かなきゃ。
 一歩、踏み出してみたところ、そこは思った以上に盛りあがった地面で、つまづいてしまう。
「きゃあ!」
 木の根っこ?
 そのまま、倒れるようにしてヒザをつく。
 ハーフパンツから覗くヒザが、ヒリヒリしていたけれど、やっぱり暗くてよく見えなかった。
 立たなきゃ。
 戻らなきゃ。
 でも、夜の山なんてこれまで来たことないし、なにより1人。
 さすがに心細い。
 由梨ちゃんも怖くて声が出せないのかな。
 だったら、私がなんとかしなきゃ。
 でも、声なんて出したら、内緒でここに来てるのがバレちゃうかもしれない。
 バレるわけにはいかないけど……さすがに、そんなことも言ってられないよね?
「だ、誰か、助けてぇ……!」
 木々がざわめく中、私は声をあげて助けを呼んだ。
 誰かに届いてくれたら――
「な~にしてんの?」
「ひゃあっ!」
 すぐ後ろ、男の子の声?
 助けを呼んですぐ、思った以上に近くから声が聞こえて、体がびくりと跳ね上がった。
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