【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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高3

卒業式(2)

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 ふいに野口が表情を和らげ、小さな笑いをこぼす。

「やっぱり無理だった」
「え?」
「……あの人には、勝てないよ」
 野口はそう呟くと、悔しげな顔をする。 
「どんなに頑張っても、和泉さんの気持ちには勝てない。だから……亜姫先輩の事は大好きだけど諦めます。
 俺だけの唯一、これから時間かけて探します」
「賢明な判断だな」
 
 突然現れた和泉に亜姫が驚く。だが、野口は相変わらずの調子で和泉を睨みつけた。

「どうして毎回邪魔しに来るんだ、鬱陶しいな本当に。
 最後ぐらい邪魔しないで我慢してやろうとか、そういう気遣いはないのかよ?」
「お前にそんなこと、すると思うか?」
「ほんっとに、ウザい」
 
 辛辣な言葉とは裏腹に、野口は楽しげに笑う。
 そしてそのまま和泉に近づくとその肩を軽く殴り、顔を見合わせて再び笑った。
 
「じゃーな。次会う時は間違いなく俺の方がいい男になってるから」
「ははっ! 楽しみにしてるよ」
「野口君、またね!」
 
 野口は亜姫に頷きを返し、そのまま中庭から出ていった。
 
 亜姫がその背中をいつまでも見送っていると、和泉に手を掴まれた。
「亜姫、待たせてごめん」
 
 振り向くと、そこには優しい顔の和泉。
 亜姫が嬉しそうに笑い返すと、和泉はその手を引いて大木の下まで移動する。
 
 亜姫を木の幹にそっと寄りかからせ、和泉は内緒話をするように囁く。
「ジンクス、追加しとこうか……?」
「あれ以上増やしたら、叶えられる人がいなくなっちゃうよ」
 亜姫がくすくす笑うと、和泉はその頬を優しく撫でた。
 
「これは、卒業式の日だけで成立することにすればいい。
 ……卒業式の日、中庭の木の下で誰にも見られずキスできたら、永遠に結ばれる……らしいよ」
 
 未だ笑い続ける亜姫の瞼にキスを落とし、和泉は鼻をすり合わせて優しく口を塞いだ。
 唇を食むように重ね合わせて、ゆっくりと離していく。
 
 それに合わせて、亜姫がゆっくり目を開けた。
 その瞳は出会った頃と変わらず透き通っていて、一点の曇りも見当たらない。
 
 この子は、どれだけ歳を重ねてもこれを濁らせることは無いだろう。そして、それに自分は憧れ続けるのだろうと和泉は思う。
 
 この三年で色んな事があった。しかし何があってもどれだけ変わっても純粋さを失わない亜姫が、ただひたすら愛おしい。
 
 和泉はその体をそっと抱きしめた。
「亜姫。……いつか必ずプロポーズする。
 ガキの恋愛だなんて言わせない。……愛してる」
 
 嬉しそうに頬を染めた亜姫に、和泉は優しく口づける。
 そして、ふふっと笑い合った。
 
「俺はさ……一番好きなモノも興味あるモノも、全部亜姫なんだけど」
「なにそれ……? 他にも沢山あるでしょう……」
 
 呆れる亜姫に、和泉は笑いながら「いいや」と返事する。
 
「でも、お前に同じことを求めたりはしない。
 だから、お前は好きな事を好きなだけしてていーよ」
「えっ……どうして?」
「お前が自由に飛び回って楽しそうに笑うところに惚れたんだ。そんなお前を鳥籠に押し込める気はない。
 お前の隣にいられて、お前が必ず俺のところへ帰ってきてくれるなら……それでいい」
 もちろん嫉妬とかはするだろうけど、と和泉は笑う。
 
「うん、私も……それが全く無かったらちょっと寂しいかも。私も、きっと妬いちゃうし……」
「そうだな、最近の亜姫には俺も負けるかも。やきもちのスイッチが入るとすごいもんな」
「私だって和泉に負けないぐらい大好きだもん……」
「だから、そうやって不意打ちすんなって……」
 
 和泉は甘い瞳で亜姫を見つめる。
 
 ここで何度もキスをした。
 それを思い出していくように、再び唇が重なる。
 
 二人の間を爽やかな風が抜けた。
 
「なぁ……ちなみに、お前が一番好きなモノって何?」
「プルプルおっぱい!」
「やっぱりそれか」
 
 
 
 
 
 
 おしまい
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感想 1

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みんなの感想(1件)

みるる
2024.06.25 みるる

和泉の愛の深さと、無垢な亜姫の天然ぶりが好きです。
お互い知らないうちから惹かれ合い、少しずつ近づいていく描写に引き込まれて甘酸っぱい気持ちになりました。
これから2人がどうなっていくか、楽しみにしています。

2024.06.25 暁 緒々

みるる様。
お読みいただいただけでなく、感想までいただきましてありがとうございます。まさかの出来事に感激しております。
楽しんでいただけたようで嬉しいです。最後まで飽きられないよう頑張りたいと思います。

解除

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