【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

文字の大きさ
上 下
363 / 364
高3

卒業式(1)

しおりを挟む
 今日は卒業式。
 明るい門出にふさわしく、今日は青空が広がっている。
 
 泣いて笑っての時間を過ごし、亜姫達は無事に卒業式を終えた。 
 教室を出ると、外は卒業生を待ち構える人でごった返していた。
 中でも和泉を待つ子の数は予想を遥かに上回り、流石に最後の日だから遠慮もないのか、あっと言う間に囲まれた彼は身動きが取れなくなっている。
 
 亜姫達はその光景に笑いながら、近くで待っていた。 
「あ、そうだ。カナデは用事済ませてから合流するって」
「さよりちゃん、今日先輩は?」
「悠仁は、夜の食事から参加するって」
「良かった。久しぶりに会えるの、楽しみ! 麗華は? アキラさんに会えそう?」
「……食事のあと、迎えに来てくれるって……」
「あ、麗華もしかしてお泊り? 夜はアキラさんがお祝いしてくれるとか」
 沙世莉がからかうように言うと、麗華が睨みつける。だが、うるさいわねと言いつつその顔は嬉しそうだ。
 
 亜姫達の少し先では琴音がヨシと写真を撮っており、ヒロや戸塚も人に囲まれていた。
 その奥には友達と盛り上がる麻美が見える。ついさっき一緒に写真を撮ったのだが、またテンションが上がりすぎたようで「ウザい」と和泉に叱られていた。
 
 亜姫は時折かけられる声に返事を返しつつ、広い校内をぐるりと見渡す。
  
 明日から、もうここには来ないんだなぁ……。
 色んな出来事を振り返っていると、香田と春菜がやってきた。
 
「せんぱぁい!」
 香田は既に泣きじゃくっていた。亜姫が涙を拭いてやると、香田はギュウッと抱きついてひたすら喋り倒す。
 相変わらずな様子に笑いながら頭を撫でていると、春菜が「先輩」と小さな声で呼びかけてきた。
 
 隣に立った春菜は、香田に苦笑しながら小さな声で囁いた。
「ヒロ先輩と仲がいい亜姫先輩がすごく羨ましかったです。でも……和泉先輩に背中を押されて勇気が出ました。……この間、告白したんです。ヒロ先輩に」
「え……えっ!? うそっ、いつ!?」
 亜姫は驚いて、思わず大声を出してしまった。慌てて口を押さえると、春菜はくすくすと笑う。
 
「亜姫先輩が好きなものを好きって屈託なく話す姿と、何があっても先輩を諦めないって堂々と言う和泉先輩に触発されちゃって……。
 少し前に、勢いで告白してきたんです」
 
 そう言うと、春菜は楽しそうに笑った。
 
「ヒロ先輩、意外と押しに弱そうだなって……。
 だから、今日もこのあと、また告白してきます」
「えぇっ!……春菜ちゃん、意外と積極的なんだ……」 
 亜姫が驚きに目を丸くしていると、春菜は楽しげに笑った。 
「欲しいものは自分から取りに行かないと。待ってるだけじゃ手に入らないですからね!」
 
 春菜は何かが吹っ切れた様子で、明るく笑うその姿は清々しく、キラキラと輝いて見えた。
 
 なんだかんだ言いながら自分のペースを保つヒロが、春菜に押されて狼狽える姿……それは、なかなか見応えがあるかもしれない。
 それに、今の亜姫は春菜の言葉に頷けた。そう思う自分はこの三年で随分と変わったのだろう。
 
 亜姫は朗らかに笑い返した。
「うん、そうだね。春菜ちゃん、頑張って!」
 
 春菜は「はい!」と頷いて、そのままヒロの元へ走っていった。
 
 亜姫は、未だ抱きついて離れない香田を見下ろす。 
「香田さん……お友達、いっぱい出来た?」
 優しく尋ねると、香田はしがみついていた手を緩めて大きく頷いた。
「先輩達に色々教わって……春菜に言われてきたことがようやくわかりました。
 もっと頑張ります……。先輩、大好きです……」
 
 香田のお陰で、亜姫は大事なことに気づけた。
 妹のような存在になりつつある香田は、これからも何かと連絡をくれるのだろう。そしてこの子の独特な感性から、きっとまた何かを学ばせてもらうのだろうな。
 亜姫はそう思いながら、優しい気持ちで香田を眺めていた。
  
「亜姫先輩」
 
 呼ばれた声に振り向くと、そこには野口がいた。

「ちょっと、お時間……いいですか」
 彼は真剣な眼差しで亜姫を見つめている。
 
 和泉はまだ人に囲まれている。麗華達を見ると無言で頷き返してくれたので、野口の後に付いて中庭へ向かった。
 
 目の前を歩く野口は、今では大きく見上げなければ顔が見えない。細く小さかった体はいつの間にか大きく広い肩幅に代わり、男らしい骨ばった体型になった。 
 大きくなったなぁ……としみじみ眺めていると、立ち止まった野口が振り返る。
「……卒業、おめでとうございます」
 
 始めて聞いた時とは全然違う、低く太い声。
 そして出会った頃から変わらない、強くて真っ直ぐな眼差し。
 
「好きです。以前伝えた時から変わらず……いや、その時よりももっと……亜姫先輩が大好きです。
 俺も色々と成長しました。今なら先輩の事も守れます。……俺と、付き合ってもらえませんか」
 
 いつでも真っ直ぐな野口の事は大好きだ。だから、亜姫は真摯に答えた。
「私は和泉が好きです。だから、野口君と付き合うことは出来ません」
 
 野口はしばらく黙って亜姫を見つめていた。
 亜姫も目を逸らさず、野口を見つめ続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

青春残酷物語~鬼コーチと秘密の「****」~

厄色亭・至宙
青春
バレーボールに打ち込む女子高生の森真由美。 しかし怪我で状況は一変して退学の危機に。 そこで手を差し伸べたのが鬼コーチの斎藤俊だった。 しかし彼にはある秘めた魂胆があった… 真由美の清純な身体に斎藤の魔の手が?…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

処理中です...