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高3
卒業式(1)
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今日は卒業式。
明るい門出にふさわしく、今日は青空が広がっている。
泣いて笑っての時間を過ごし、亜姫達は無事に卒業式を終えた。
教室を出ると、外は卒業生を待ち構える人でごった返していた。
中でも和泉を待つ子の数は予想を遥かに上回り、流石に最後の日だから遠慮もないのか、あっと言う間に囲まれた彼は身動きが取れなくなっている。
亜姫達はその光景に笑いながら、近くで待っていた。
「あ、そうだ。カナデは用事済ませてから合流するって」
「さよりちゃん、今日先輩は?」
「悠仁は、夜の食事から参加するって」
「良かった。久しぶりに会えるの、楽しみ! 麗華は? アキラさんに会えそう?」
「……食事のあと、迎えに来てくれるって……」
「あ、麗華もしかしてお泊り? 夜はアキラさんがお祝いしてくれるとか」
沙世莉がからかうように言うと、麗華が睨みつける。だが、うるさいわねと言いつつその顔は嬉しそうだ。
亜姫達の少し先では琴音がヨシと写真を撮っており、ヒロや戸塚も人に囲まれていた。
その奥には友達と盛り上がる麻美が見える。ついさっき一緒に写真を撮ったのだが、またテンションが上がりすぎたようで「ウザい」と和泉に叱られていた。
亜姫は時折かけられる声に返事を返しつつ、広い校内をぐるりと見渡す。
明日から、もうここには来ないんだなぁ……。
色んな出来事を振り返っていると、香田と春菜がやってきた。
「せんぱぁい!」
香田は既に泣きじゃくっていた。亜姫が涙を拭いてやると、香田はギュウッと抱きついてひたすら喋り倒す。
相変わらずな様子に笑いながら頭を撫でていると、春菜が「先輩」と小さな声で呼びかけてきた。
隣に立った春菜は、香田に苦笑しながら小さな声で囁いた。
「ヒロ先輩と仲がいい亜姫先輩がすごく羨ましかったです。でも……和泉先輩に背中を押されて勇気が出ました。……この間、告白したんです。ヒロ先輩に」
「え……えっ!? うそっ、いつ!?」
亜姫は驚いて、思わず大声を出してしまった。慌てて口を押さえると、春菜はくすくすと笑う。
「亜姫先輩が好きなものを好きって屈託なく話す姿と、何があっても先輩を諦めないって堂々と言う和泉先輩に触発されちゃって……。
少し前に、勢いで告白してきたんです」
そう言うと、春菜は楽しそうに笑った。
「ヒロ先輩、意外と押しに弱そうだなって……。
だから、今日もこのあと、また告白してきます」
「えぇっ!……春菜ちゃん、意外と積極的なんだ……」
亜姫が驚きに目を丸くしていると、春菜は楽しげに笑った。
「欲しいものは自分から取りに行かないと。待ってるだけじゃ手に入らないですからね!」
春菜は何かが吹っ切れた様子で、明るく笑うその姿は清々しく、キラキラと輝いて見えた。
なんだかんだ言いながら自分のペースを保つヒロが、春菜に押されて狼狽える姿……それは、なかなか見応えがあるかもしれない。
それに、今の亜姫は春菜の言葉に頷けた。そう思う自分はこの三年で随分と変わったのだろう。
亜姫は朗らかに笑い返した。
「うん、そうだね。春菜ちゃん、頑張って!」
春菜は「はい!」と頷いて、そのままヒロの元へ走っていった。
亜姫は、未だ抱きついて離れない香田を見下ろす。
「香田さん……お友達、いっぱい出来た?」
優しく尋ねると、香田はしがみついていた手を緩めて大きく頷いた。
「先輩達に色々教わって……春菜に言われてきたことがようやくわかりました。
もっと頑張ります……。先輩、大好きです……」
香田のお陰で、亜姫は大事なことに気づけた。
妹のような存在になりつつある香田は、これからも何かと連絡をくれるのだろう。そしてこの子の独特な感性から、きっとまた何かを学ばせてもらうのだろうな。
亜姫はそう思いながら、優しい気持ちで香田を眺めていた。
「亜姫先輩」
呼ばれた声に振り向くと、そこには野口がいた。
「ちょっと、お時間……いいですか」
彼は真剣な眼差しで亜姫を見つめている。
和泉はまだ人に囲まれている。麗華達を見ると無言で頷き返してくれたので、野口の後に付いて中庭へ向かった。
目の前を歩く野口は、今では大きく見上げなければ顔が見えない。細く小さかった体はいつの間にか大きく広い肩幅に代わり、男らしい骨ばった体型になった。
大きくなったなぁ……としみじみ眺めていると、立ち止まった野口が振り返る。
「……卒業、おめでとうございます」
始めて聞いた時とは全然違う、低く太い声。
そして出会った頃から変わらない、強くて真っ直ぐな眼差し。
「好きです。以前伝えた時から変わらず……いや、その時よりももっと……亜姫先輩が大好きです。
俺も色々と成長しました。今なら先輩の事も守れます。……俺と、付き合ってもらえませんか」
いつでも真っ直ぐな野口の事は大好きだ。だから、亜姫は真摯に答えた。
「私は和泉が好きです。だから、野口君と付き合うことは出来ません」
野口はしばらく黙って亜姫を見つめていた。
亜姫も目を逸らさず、野口を見つめ続けた。
明るい門出にふさわしく、今日は青空が広がっている。
泣いて笑っての時間を過ごし、亜姫達は無事に卒業式を終えた。
教室を出ると、外は卒業生を待ち構える人でごった返していた。
中でも和泉を待つ子の数は予想を遥かに上回り、流石に最後の日だから遠慮もないのか、あっと言う間に囲まれた彼は身動きが取れなくなっている。
亜姫達はその光景に笑いながら、近くで待っていた。
「あ、そうだ。カナデは用事済ませてから合流するって」
「さよりちゃん、今日先輩は?」
「悠仁は、夜の食事から参加するって」
「良かった。久しぶりに会えるの、楽しみ! 麗華は? アキラさんに会えそう?」
「……食事のあと、迎えに来てくれるって……」
「あ、麗華もしかしてお泊り? 夜はアキラさんがお祝いしてくれるとか」
沙世莉がからかうように言うと、麗華が睨みつける。だが、うるさいわねと言いつつその顔は嬉しそうだ。
亜姫達の少し先では琴音がヨシと写真を撮っており、ヒロや戸塚も人に囲まれていた。
その奥には友達と盛り上がる麻美が見える。ついさっき一緒に写真を撮ったのだが、またテンションが上がりすぎたようで「ウザい」と和泉に叱られていた。
亜姫は時折かけられる声に返事を返しつつ、広い校内をぐるりと見渡す。
明日から、もうここには来ないんだなぁ……。
色んな出来事を振り返っていると、香田と春菜がやってきた。
「せんぱぁい!」
香田は既に泣きじゃくっていた。亜姫が涙を拭いてやると、香田はギュウッと抱きついてひたすら喋り倒す。
相変わらずな様子に笑いながら頭を撫でていると、春菜が「先輩」と小さな声で呼びかけてきた。
隣に立った春菜は、香田に苦笑しながら小さな声で囁いた。
「ヒロ先輩と仲がいい亜姫先輩がすごく羨ましかったです。でも……和泉先輩に背中を押されて勇気が出ました。……この間、告白したんです。ヒロ先輩に」
「え……えっ!? うそっ、いつ!?」
亜姫は驚いて、思わず大声を出してしまった。慌てて口を押さえると、春菜はくすくすと笑う。
「亜姫先輩が好きなものを好きって屈託なく話す姿と、何があっても先輩を諦めないって堂々と言う和泉先輩に触発されちゃって……。
少し前に、勢いで告白してきたんです」
そう言うと、春菜は楽しそうに笑った。
「ヒロ先輩、意外と押しに弱そうだなって……。
だから、今日もこのあと、また告白してきます」
「えぇっ!……春菜ちゃん、意外と積極的なんだ……」
亜姫が驚きに目を丸くしていると、春菜は楽しげに笑った。
「欲しいものは自分から取りに行かないと。待ってるだけじゃ手に入らないですからね!」
春菜は何かが吹っ切れた様子で、明るく笑うその姿は清々しく、キラキラと輝いて見えた。
なんだかんだ言いながら自分のペースを保つヒロが、春菜に押されて狼狽える姿……それは、なかなか見応えがあるかもしれない。
それに、今の亜姫は春菜の言葉に頷けた。そう思う自分はこの三年で随分と変わったのだろう。
亜姫は朗らかに笑い返した。
「うん、そうだね。春菜ちゃん、頑張って!」
春菜は「はい!」と頷いて、そのままヒロの元へ走っていった。
亜姫は、未だ抱きついて離れない香田を見下ろす。
「香田さん……お友達、いっぱい出来た?」
優しく尋ねると、香田はしがみついていた手を緩めて大きく頷いた。
「先輩達に色々教わって……春菜に言われてきたことがようやくわかりました。
もっと頑張ります……。先輩、大好きです……」
香田のお陰で、亜姫は大事なことに気づけた。
妹のような存在になりつつある香田は、これからも何かと連絡をくれるのだろう。そしてこの子の独特な感性から、きっとまた何かを学ばせてもらうのだろうな。
亜姫はそう思いながら、優しい気持ちで香田を眺めていた。
「亜姫先輩」
呼ばれた声に振り向くと、そこには野口がいた。
「ちょっと、お時間……いいですか」
彼は真剣な眼差しで亜姫を見つめている。
和泉はまだ人に囲まれている。麗華達を見ると無言で頷き返してくれたので、野口の後に付いて中庭へ向かった。
目の前を歩く野口は、今では大きく見上げなければ顔が見えない。細く小さかった体はいつの間にか大きく広い肩幅に代わり、男らしい骨ばった体型になった。
大きくなったなぁ……としみじみ眺めていると、立ち止まった野口が振り返る。
「……卒業、おめでとうございます」
始めて聞いた時とは全然違う、低く太い声。
そして出会った頃から変わらない、強くて真っ直ぐな眼差し。
「好きです。以前伝えた時から変わらず……いや、その時よりももっと……亜姫先輩が大好きです。
俺も色々と成長しました。今なら先輩の事も守れます。……俺と、付き合ってもらえませんか」
いつでも真っ直ぐな野口の事は大好きだ。だから、亜姫は真摯に答えた。
「私は和泉が好きです。だから、野口君と付き合うことは出来ません」
野口はしばらく黙って亜姫を見つめていた。
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