349 / 364
高3
和泉の初体験(5)
しおりを挟む
「小さい頃から圭介達と一緒に過ごして、預かり保育がある幼稚園に入って。……まぁ、行く先々で何かと心配は尽きなかったらしいけど、その辺の記憶は俺には無いから……詳しくはわからない。
そうやって小学生になり、ルームに入って、そこでもずっと圭介達と過ごしてて。……というか、あいつらに守られてたのかもしれない、今思えば。そう言えば、俺が一人になることは無かったな……」
和泉は乾いた笑いをこぼした。
詳しい話は出てこないが、傷ついたり苦しい思いをしたことがあったのだろう。
聞いている方がだんだん辛くなってくる。
その気持ちを抑え、亜姫はしっかりと和泉を見つめ直した。
「小六あたりから年上の女に声をかけられることが増えた。やたら触られるっつーか……妙に近い距離感とかボディタッチとか……とにかく、気持ち悪いと思うことが多々あって。
それは日が経つ毎に増えて、中学に上がると校内でも外でもそれは顕著に現れた。
その頃圭介達は部活に入ってて、だけど俺は興味がなくて部活には入らなかった。だから一緒にいる時間がかなり減ってたんだ。特に放課後は。
空いた時間は誰かしらに捕まって、あちこち行かされてた。断っても無視しても無駄だった。
圭介んちに戻るよう決められてる時間があって、それまではいつも誰かに引っ張られるままフラフラしてた。
放課後まっすぐ店に向かうのは邪魔されてできないんだけど、ある程度付き合えば気が済むのか……決められた時間には戻れてたよ」
思い出しながら話す和泉は辛そうだった。麻美達や冬夜の話をする時とは全然違う。
亜姫は止めるべきかと案じたが、和泉は「止めるな」と言うように首を振る。
「中学からは女の絡みが酷くて。嫌悪感に浸りすぎて、一日中気持ち悪かった。あいつらはどこに潜んでんだか隙を見れば捕まえに来て、放課後真っ直ぐ帰ることなんて出来た記憶がない。
その頃、俺の放課後は知らない奴らに囲まれてた。本当に、名前すら知らない奴ばっかりだった。
冬夜やおっちゃん達が帰宅時間に容赦なかったからどうにか帰れてた。少しでも遅れると誰かしらが探しに来てさ。きっと……心配されてたんだと思う。
たまに店まで付いてくる奴もいたけど、そーゆーのはおっちゃん達が追い返して絶対店の中に入れなかった。店から俺が出ていくことも許されなかった。
でも、健吾達と出直す分には何も言われなかったから……あれも、俺を守る為だったんだろうな……」
和泉は哀しげに笑いを零す。
そこには彼らへの深い感謝が見えた。だがそれ以上に、今まで気づかなかった申し訳無さに落ち込んでいるようだった。
亜姫は何も言わず、けれど「そばにいるよ」と伝えたくて繋いだ手を離さなかった。
和泉はその手を眺め、しばらく黙っていた。何をどう話したらいいか、考えていたのかもしれない。
「俺は随分大人びて見えるガキだったらしい。中学に入ってすぐの頃から……年上の女に、あからさまに迫られたりしてたんだ。
当時の俺はそーゆーの全くわかんなくて、ただひたすら気持ち悪くて……全てが嫌でたまらなかった。
健吾達といても邪魔が入ってきたりしてて……無反応な俺の代わりにあいつらが上手く対応してくれてたんだけど、俺の気持ちとは裏腹に生活が少しずつそいつらに塗り替えられて、俺は生きる気がどんどん無くなっていった」
辛そうに話す和泉に寄り添いたくて、亜姫は和泉にそっと近づく。和泉は自身の過去に囚われているのか、その動きには気づいてないようだった。
和泉がどこかに行ってしまいそうで、そんな彼を捕まえておきたくて。亜姫はその腕に絡みついた。
彼の心の機微に触れたくて、些細な変化も見逃すまいとその顔を見上げる。
「……中二になって結構早い時期だったと思う。
ある日、冬夜に突然言われた。『今日からお前にセックス仕込むから』って。
意味が分からなかった。
俺、性欲とか興味とか全然無くて、それどころか嫌悪感で吐きそうだったのに。
でも、ろくに喋らないガキだったせいか……それを上手く表現出来なかった。代わりに無言で嫌だと意思表示した。
だけど、冬夜が真顔で俺に言ったんだ」
『この先起こる事。全てにおいて、お前が主導権を握れ。
いいか? 相手の好きにさせるな。舐められるな。
必要な事を全部お前に仕込む。死ぬ気で覚えろ』
「何を言われてるのか、何ひとつ理解できなかったよ。
しかも、里佳子を相手にって言うんだ。ますます意味がわからない。
やらない、という選択肢はなかった。冬夜にあんなに厳しく言われた事は他にない。
とにかく、俺に必要で助けになるものだから絶対覚えろって……二人とも真剣で。
里佳子は……自分が犠牲になるにも関わらず、涙ながらに俺を守る為だから一緒に覚えようって………。
無言で嫌だと抗議したけど、二人とも最後まで譲らなかった」
和泉は苦しそうに吐き出した。
そうやって小学生になり、ルームに入って、そこでもずっと圭介達と過ごしてて。……というか、あいつらに守られてたのかもしれない、今思えば。そう言えば、俺が一人になることは無かったな……」
和泉は乾いた笑いをこぼした。
詳しい話は出てこないが、傷ついたり苦しい思いをしたことがあったのだろう。
聞いている方がだんだん辛くなってくる。
その気持ちを抑え、亜姫はしっかりと和泉を見つめ直した。
「小六あたりから年上の女に声をかけられることが増えた。やたら触られるっつーか……妙に近い距離感とかボディタッチとか……とにかく、気持ち悪いと思うことが多々あって。
それは日が経つ毎に増えて、中学に上がると校内でも外でもそれは顕著に現れた。
その頃圭介達は部活に入ってて、だけど俺は興味がなくて部活には入らなかった。だから一緒にいる時間がかなり減ってたんだ。特に放課後は。
空いた時間は誰かしらに捕まって、あちこち行かされてた。断っても無視しても無駄だった。
圭介んちに戻るよう決められてる時間があって、それまではいつも誰かに引っ張られるままフラフラしてた。
放課後まっすぐ店に向かうのは邪魔されてできないんだけど、ある程度付き合えば気が済むのか……決められた時間には戻れてたよ」
思い出しながら話す和泉は辛そうだった。麻美達や冬夜の話をする時とは全然違う。
亜姫は止めるべきかと案じたが、和泉は「止めるな」と言うように首を振る。
「中学からは女の絡みが酷くて。嫌悪感に浸りすぎて、一日中気持ち悪かった。あいつらはどこに潜んでんだか隙を見れば捕まえに来て、放課後真っ直ぐ帰ることなんて出来た記憶がない。
その頃、俺の放課後は知らない奴らに囲まれてた。本当に、名前すら知らない奴ばっかりだった。
冬夜やおっちゃん達が帰宅時間に容赦なかったからどうにか帰れてた。少しでも遅れると誰かしらが探しに来てさ。きっと……心配されてたんだと思う。
たまに店まで付いてくる奴もいたけど、そーゆーのはおっちゃん達が追い返して絶対店の中に入れなかった。店から俺が出ていくことも許されなかった。
でも、健吾達と出直す分には何も言われなかったから……あれも、俺を守る為だったんだろうな……」
和泉は哀しげに笑いを零す。
そこには彼らへの深い感謝が見えた。だがそれ以上に、今まで気づかなかった申し訳無さに落ち込んでいるようだった。
亜姫は何も言わず、けれど「そばにいるよ」と伝えたくて繋いだ手を離さなかった。
和泉はその手を眺め、しばらく黙っていた。何をどう話したらいいか、考えていたのかもしれない。
「俺は随分大人びて見えるガキだったらしい。中学に入ってすぐの頃から……年上の女に、あからさまに迫られたりしてたんだ。
当時の俺はそーゆーの全くわかんなくて、ただひたすら気持ち悪くて……全てが嫌でたまらなかった。
健吾達といても邪魔が入ってきたりしてて……無反応な俺の代わりにあいつらが上手く対応してくれてたんだけど、俺の気持ちとは裏腹に生活が少しずつそいつらに塗り替えられて、俺は生きる気がどんどん無くなっていった」
辛そうに話す和泉に寄り添いたくて、亜姫は和泉にそっと近づく。和泉は自身の過去に囚われているのか、その動きには気づいてないようだった。
和泉がどこかに行ってしまいそうで、そんな彼を捕まえておきたくて。亜姫はその腕に絡みついた。
彼の心の機微に触れたくて、些細な変化も見逃すまいとその顔を見上げる。
「……中二になって結構早い時期だったと思う。
ある日、冬夜に突然言われた。『今日からお前にセックス仕込むから』って。
意味が分からなかった。
俺、性欲とか興味とか全然無くて、それどころか嫌悪感で吐きそうだったのに。
でも、ろくに喋らないガキだったせいか……それを上手く表現出来なかった。代わりに無言で嫌だと意思表示した。
だけど、冬夜が真顔で俺に言ったんだ」
『この先起こる事。全てにおいて、お前が主導権を握れ。
いいか? 相手の好きにさせるな。舐められるな。
必要な事を全部お前に仕込む。死ぬ気で覚えろ』
「何を言われてるのか、何ひとつ理解できなかったよ。
しかも、里佳子を相手にって言うんだ。ますます意味がわからない。
やらない、という選択肢はなかった。冬夜にあんなに厳しく言われた事は他にない。
とにかく、俺に必要で助けになるものだから絶対覚えろって……二人とも真剣で。
里佳子は……自分が犠牲になるにも関わらず、涙ながらに俺を守る為だから一緒に覚えようって………。
無言で嫌だと抗議したけど、二人とも最後まで譲らなかった」
和泉は苦しそうに吐き出した。
10
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
青春残酷物語~鬼コーチと秘密の「****」~
厄色亭・至宙
青春
バレーボールに打ち込む女子高生の森真由美。
しかし怪我で状況は一変して退学の危機に。
そこで手を差し伸べたのが鬼コーチの斎藤俊だった。
しかし彼にはある秘めた魂胆があった…
真由美の清純な身体に斎藤の魔の手が?…


彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる