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高3
受験と自由登校(2)
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二人は長く話し込むわけではない。だが、それは繰り返し見られた。そして、誰かが気づきそうになると自然と終わる。
一度気づくと気になって仕方なかったが、和泉は変わらず亜姫を優先する。そこに疑う余地はないし、同じ繰り返しはしたくない。今では二人を信じ、何かあれば和泉に聞くと決めていた。
けれど。
日が経つに連れ、和泉の様子が少しずつ変わってきた。
春菜と話す時、心配げに見つめる瞳は亜姫を気遣うそれと同じになった。
亜姫が話しかけても、何かを考え込んで聞いてないことが増えた。
そして、時折切なそうに春菜を見つめる和泉に……亜姫は気がついてしまった。
時を重ねるように、和泉が触れようとしなくなった事にも……気がついてしまった。
ある時、聞いてみた。
「ねぇヒロ? 春菜ちゃんは和泉に興味無いって、本当?」
「なんだよ、いきなり。また何か思い悩んでる?」
ヒロが心配そうな顔を向けると、亜姫は違うよと笑う。
「ならいいけど。嫉妬とか言いたいことは、ちゃんと和泉にぶつけろよ?」
「ぶつけてるよ、大丈夫」
「まぁ、いーや。で、春菜だけど。確かにそう言ってたぞ。俺が香田使って近づくつもりかって聞いたら、はっきり否定してた」
「そっか」
「……安心した?」
亜姫は返事をせず、誤魔化すようにふふっと笑う。
ヒロはその顔をしばし眺めていたが、結局何も言わず頭をグシャグシャとかき回す。
「あー! やめてよ、さっき梳かしたばっかりなのに!」
「お前の頭がどうなってようが、誰も気にしねぇよ」
「私が気にするの!」
「へぇ、身だしなみにも気を使うようになったわけ? そりゃ随分成長したもんだ。じゃあ、そろそろメイクも覚えなきゃな。少しは色気が出るように」
「もー、うるさい」
二人で言いあっていると「お前ら、またかよ」と笑いながら和泉が戻ってきた。その後ろから春菜達もついてくる。
当然のようについてくる春菜。そう見えてしまい、心臓が抗議の音を立てる。だがそんなことを知らない和泉はいつも通り隣に立ち、丁寧に亜姫の髪を梳いて元の状態へ戻していく。
優しい笑みを向けられ甘やかされているうちに亜姫の心臓は大人しくなっていった。
そのまま、いつものように皆で話をしていると。
「亜姫先輩が羨ましいです」
横から聞こえた声に振り向くと、春菜が切なそうな顔で笑いかけてきた。
「好きな人のそばにいて、大事にされる亜姫先輩が羨ましいです。……私にはそんな機会、来そうにないから」
春菜は哀しそうに微笑む。
突然、そして初めて聞かされた話。亜姫はどう返していいか分からない。
「……春菜ちゃん……好きな、人が……」
辛うじて聞き返すと春菜は小さく頷いたが、それが誰なのかは口にしなかった。
……春菜が切なそうに見つめる先には、ヒロと話す和泉がいた。
春菜の好きな人は他にいると聞いている。和泉には興味が無いと。だが、香田は「春菜は誰を好きなのか絶対に教えない」と言っていた。
誤魔化した可能性は……? いや、春菜は嘘をつくような子ではない。
それに、和泉も違うといった。有り得ないと。
信じて、と何度も言われた。
でも。
そう言っていた頃の和泉は、あんな瞳で春菜を見つめたりはしなかった。
和泉が二人きりになりたがらない事や、些細な触れ合いすら避けるのは……果たして偶然……?
今まで、そんなことはなかった。
最後に触れ合ったのは、いつだっただろう。
亜姫は抱かれる事で「自分だけ」と安心出来た事が忘れられず、感情が暴走すると触れられたいと望むようになった。
だが、暗にそう示唆すると和泉がそこから気を逸らすようにする。
「抱かれて不安を取り除いた気になるのは駄目」
何度もそう言われている。和泉からはずっとそう教わってきたし、言われる意味も理解している。
けれど、最近の不安は他の女性に比べて「触れ合う技術も魅力も経験値も足りてない」と言うことにある。他の子ではなく「自分が選ばれた明確な理由」が欲しいのに、それが見当たらないから不安が募るのだ。
なのにそれを言えば、和泉は困ったように笑って宥めるだけだった。
今の不安は、抱かれることで解消できる。
それは、和泉がよく言う「幸せを感じる」ことにはならないのだろうか。
他の誰でもなく「自分だけ。自分が一番和泉に近しく、愛されている」と実感するには、他にどんな方法があるというのか。
些細な事で暴走を繰り返す自身の感情。それにひたすら振り回されている亜姫に、その答えは見つけられなかった。
最後に抱かれた日から、いったい何が変わってしまったのだろう。
自身に何度も問いかけて出てきた答えは、「事ある毎に泣き喚き、欲をぶつけまくる自分」だった。
もしかして、呆れられたのだろうか。
自分でも制御出来ないこの感情を、日々ぶつけまくってきた。いくら優しい和泉でも、流石にうんざりしたのだろうか。
そう考え、聞いてみた。
「全然いいよ。いくら言っても大丈夫だって言っただろ? 好きなだけ言えばいい、ちゃんと全部聞いてやるから」
そう言って笑う和泉は、どう見ても楽しそうだった。
ついでに春菜のことも聞いてみたが、やはり「嫉妬は大歓迎」と、楽しそうに笑われるだけだった。
しかし、日を追う毎に和泉が春菜を見つめる頻度は増えていく。その瞳はいつしか愛おしそうな眼差しになり、春菜の動きを追っている時は亜姫の話に気づかないことが増えていった。
一度気づくと気になって仕方なかったが、和泉は変わらず亜姫を優先する。そこに疑う余地はないし、同じ繰り返しはしたくない。今では二人を信じ、何かあれば和泉に聞くと決めていた。
けれど。
日が経つに連れ、和泉の様子が少しずつ変わってきた。
春菜と話す時、心配げに見つめる瞳は亜姫を気遣うそれと同じになった。
亜姫が話しかけても、何かを考え込んで聞いてないことが増えた。
そして、時折切なそうに春菜を見つめる和泉に……亜姫は気がついてしまった。
時を重ねるように、和泉が触れようとしなくなった事にも……気がついてしまった。
ある時、聞いてみた。
「ねぇヒロ? 春菜ちゃんは和泉に興味無いって、本当?」
「なんだよ、いきなり。また何か思い悩んでる?」
ヒロが心配そうな顔を向けると、亜姫は違うよと笑う。
「ならいいけど。嫉妬とか言いたいことは、ちゃんと和泉にぶつけろよ?」
「ぶつけてるよ、大丈夫」
「まぁ、いーや。で、春菜だけど。確かにそう言ってたぞ。俺が香田使って近づくつもりかって聞いたら、はっきり否定してた」
「そっか」
「……安心した?」
亜姫は返事をせず、誤魔化すようにふふっと笑う。
ヒロはその顔をしばし眺めていたが、結局何も言わず頭をグシャグシャとかき回す。
「あー! やめてよ、さっき梳かしたばっかりなのに!」
「お前の頭がどうなってようが、誰も気にしねぇよ」
「私が気にするの!」
「へぇ、身だしなみにも気を使うようになったわけ? そりゃ随分成長したもんだ。じゃあ、そろそろメイクも覚えなきゃな。少しは色気が出るように」
「もー、うるさい」
二人で言いあっていると「お前ら、またかよ」と笑いながら和泉が戻ってきた。その後ろから春菜達もついてくる。
当然のようについてくる春菜。そう見えてしまい、心臓が抗議の音を立てる。だがそんなことを知らない和泉はいつも通り隣に立ち、丁寧に亜姫の髪を梳いて元の状態へ戻していく。
優しい笑みを向けられ甘やかされているうちに亜姫の心臓は大人しくなっていった。
そのまま、いつものように皆で話をしていると。
「亜姫先輩が羨ましいです」
横から聞こえた声に振り向くと、春菜が切なそうな顔で笑いかけてきた。
「好きな人のそばにいて、大事にされる亜姫先輩が羨ましいです。……私にはそんな機会、来そうにないから」
春菜は哀しそうに微笑む。
突然、そして初めて聞かされた話。亜姫はどう返していいか分からない。
「……春菜ちゃん……好きな、人が……」
辛うじて聞き返すと春菜は小さく頷いたが、それが誰なのかは口にしなかった。
……春菜が切なそうに見つめる先には、ヒロと話す和泉がいた。
春菜の好きな人は他にいると聞いている。和泉には興味が無いと。だが、香田は「春菜は誰を好きなのか絶対に教えない」と言っていた。
誤魔化した可能性は……? いや、春菜は嘘をつくような子ではない。
それに、和泉も違うといった。有り得ないと。
信じて、と何度も言われた。
でも。
そう言っていた頃の和泉は、あんな瞳で春菜を見つめたりはしなかった。
和泉が二人きりになりたがらない事や、些細な触れ合いすら避けるのは……果たして偶然……?
今まで、そんなことはなかった。
最後に触れ合ったのは、いつだっただろう。
亜姫は抱かれる事で「自分だけ」と安心出来た事が忘れられず、感情が暴走すると触れられたいと望むようになった。
だが、暗にそう示唆すると和泉がそこから気を逸らすようにする。
「抱かれて不安を取り除いた気になるのは駄目」
何度もそう言われている。和泉からはずっとそう教わってきたし、言われる意味も理解している。
けれど、最近の不安は他の女性に比べて「触れ合う技術も魅力も経験値も足りてない」と言うことにある。他の子ではなく「自分が選ばれた明確な理由」が欲しいのに、それが見当たらないから不安が募るのだ。
なのにそれを言えば、和泉は困ったように笑って宥めるだけだった。
今の不安は、抱かれることで解消できる。
それは、和泉がよく言う「幸せを感じる」ことにはならないのだろうか。
他の誰でもなく「自分だけ。自分が一番和泉に近しく、愛されている」と実感するには、他にどんな方法があるというのか。
些細な事で暴走を繰り返す自身の感情。それにひたすら振り回されている亜姫に、その答えは見つけられなかった。
最後に抱かれた日から、いったい何が変わってしまったのだろう。
自身に何度も問いかけて出てきた答えは、「事ある毎に泣き喚き、欲をぶつけまくる自分」だった。
もしかして、呆れられたのだろうか。
自分でも制御出来ないこの感情を、日々ぶつけまくってきた。いくら優しい和泉でも、流石にうんざりしたのだろうか。
そう考え、聞いてみた。
「全然いいよ。いくら言っても大丈夫だって言っただろ? 好きなだけ言えばいい、ちゃんと全部聞いてやるから」
そう言って笑う和泉は、どう見ても楽しそうだった。
ついでに春菜のことも聞いてみたが、やはり「嫉妬は大歓迎」と、楽しそうに笑われるだけだった。
しかし、日を追う毎に和泉が春菜を見つめる頻度は増えていく。その瞳はいつしか愛おしそうな眼差しになり、春菜の動きを追っている時は亜姫の話に気づかないことが増えていった。
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