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高3
旅行と誕生日(5)
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「……俺も、亜姫に用意してきたよ」
和泉がそう言って差し出したのは、これまた小さな紙袋。
亜姫がそっと中を開くと、そこに入っていたのは和泉のより少し小さい、同じデザインのリング。
亜姫は目を見開き「これ……」と言葉を失う。
「冬夜にねだって、作ってもらった」
「うそ……だって……」
亜姫が驚くのも無理はない。冬夜はメンズ物しか作らないからだ。
「今回だけ特別な、って引き受けてくれた。勿論、ちゃんとお金は払ったよ」
和泉は笑いながら、驚く亜姫の顔を覗き込む。
「お前もこれ、すごく気に入ってただろ? お揃いの物って持ってなかったし、ちょうどいいかなと思って。
普段も身につけられるように、チェーンもつけてもらった。……俺の分も用意してもらったよ」
それなら学校にもしていけるだろ? そう言いながら、和泉はリングを持ち上げた。そして亜姫の手を取ると、右手の薬指に嵌める。
「左手の分は、そのうちな。
誕生日おめでと。……産まれてきてくれて、ありがと」
そう囁く和泉に、亜姫は幸せに満ち足りた笑顔を返した。
「ありがとう、嬉しい」
亜姫はそれから暫くの間、ずっと右手を眺めていた。
放っておいたら一晩中眺めていそうな亜姫を、和泉は後ろからそっと抱き込む。すると、亜姫は抵抗せず自然ともたれかかってきた。
「なぁ。俺がいること、忘れてない?」
「忘れてないよ」
亜姫がくすくすと笑い、和泉もつられて笑う。
亜姫は力を抜いてのんびりした空気を醸し出している。帰る時間を気にしなくていいからかもしれない。二人きりという環境もあるのか、一つ一つの仕草に甘えた様子が見える。
これだけ素直に甘えられると和泉もひたすら嬉しい。このまま、亜姫を朝まで独占できるなんて。
これ以上ない多幸感に包まれながら、二人の時間はゆっくり過ぎていった。
◇
亜姫はなんだか幸せな気分で目を覚ました。カーテンの隙間から光が漏れているのが見えて、朝だと気づく。
ふと見上げれば、そこには気持ち良さそうに眠る和泉の顔。幸せそうなその顔に愛おしさが込み上げてきて、そっと触れると和泉の目が開いた。
「おはよう」
「……ぉはよ……、今何時……」
「まだ朝だよ」
「あとちょっと、このまま寝かして」
そう言うと、和泉はもぞもぞと亜姫を抱きしめ直し呟く。
「あー、この状況、最高……」
そしてまた、うとうとと眠りに落ちていった。
亜姫はその寝顔をじっくり観察する。
お母さんが言ってた通り……本当に、目を瞑ってるとすごく幼く見える。可愛い。
普段の和泉を思い返し、特に目や仕草が色気を放っているのだと知る。それが和泉の雰囲気を妙に色っぽくしているのだと。
そんな空気を纏う和泉が大好きなのだと改めて思う。
和泉が優しく抱きしめてくれる時は、色気もあるせいか頼りになるお兄さんといった雰囲気になる。それが、亜姫に絶対的な安心感をもたらしてくれる。
今、それが見えないのは少し寂しい。けれど、これはこれで自分の方が年上になったような気がして、なんだか気分が上がる。
しかし何より『無防備に眠る姿は自分にしか見せない』という事実が嬉しくてたまらない。
誰もが同じ証言をするということは、一緒に寝ている時はいつもこの顔なのだろう。
亜姫の顔は自然とほころぶ。
じっとしているのがもったいなくてあちこち触れていると、和泉が眉を顰めて嫌がる素振りを見せた。
亜姫がくすくす笑いながら、そのまま触り続けていると。
「何してんだよ」
和泉のちょっと不機嫌な声。
亜姫はそれにも笑いを零す。
「んー? 寝てる和泉を見られるのは貴重だから」
亜姫は嬉しそうに言いながら、触れるのをやめようとはしない。和泉は少し迷惑そうにしながらも、しばらく好きにさせていた。
起きてから、またいつもの悪戯心に翻弄された亜姫はしばらく不貞腐れていた。けれど、宥められながら甲斐甲斐しく世話を焼かれると、朝食を終える頃には来た時と同じぐらいご機嫌に。
お腹が満たされたせいもあったかもしれない。扱いやすい単純な子だと和泉は笑う。
それから親が迎えに来るまで、お揃いのリングを付けて散歩に出たりテレビを観ながらうたた寝したりしてのんびり過ごし、二人は大満足で旅を終えた。
和泉がそう言って差し出したのは、これまた小さな紙袋。
亜姫がそっと中を開くと、そこに入っていたのは和泉のより少し小さい、同じデザインのリング。
亜姫は目を見開き「これ……」と言葉を失う。
「冬夜にねだって、作ってもらった」
「うそ……だって……」
亜姫が驚くのも無理はない。冬夜はメンズ物しか作らないからだ。
「今回だけ特別な、って引き受けてくれた。勿論、ちゃんとお金は払ったよ」
和泉は笑いながら、驚く亜姫の顔を覗き込む。
「お前もこれ、すごく気に入ってただろ? お揃いの物って持ってなかったし、ちょうどいいかなと思って。
普段も身につけられるように、チェーンもつけてもらった。……俺の分も用意してもらったよ」
それなら学校にもしていけるだろ? そう言いながら、和泉はリングを持ち上げた。そして亜姫の手を取ると、右手の薬指に嵌める。
「左手の分は、そのうちな。
誕生日おめでと。……産まれてきてくれて、ありがと」
そう囁く和泉に、亜姫は幸せに満ち足りた笑顔を返した。
「ありがとう、嬉しい」
亜姫はそれから暫くの間、ずっと右手を眺めていた。
放っておいたら一晩中眺めていそうな亜姫を、和泉は後ろからそっと抱き込む。すると、亜姫は抵抗せず自然ともたれかかってきた。
「なぁ。俺がいること、忘れてない?」
「忘れてないよ」
亜姫がくすくすと笑い、和泉もつられて笑う。
亜姫は力を抜いてのんびりした空気を醸し出している。帰る時間を気にしなくていいからかもしれない。二人きりという環境もあるのか、一つ一つの仕草に甘えた様子が見える。
これだけ素直に甘えられると和泉もひたすら嬉しい。このまま、亜姫を朝まで独占できるなんて。
これ以上ない多幸感に包まれながら、二人の時間はゆっくり過ぎていった。
◇
亜姫はなんだか幸せな気分で目を覚ました。カーテンの隙間から光が漏れているのが見えて、朝だと気づく。
ふと見上げれば、そこには気持ち良さそうに眠る和泉の顔。幸せそうなその顔に愛おしさが込み上げてきて、そっと触れると和泉の目が開いた。
「おはよう」
「……ぉはよ……、今何時……」
「まだ朝だよ」
「あとちょっと、このまま寝かして」
そう言うと、和泉はもぞもぞと亜姫を抱きしめ直し呟く。
「あー、この状況、最高……」
そしてまた、うとうとと眠りに落ちていった。
亜姫はその寝顔をじっくり観察する。
お母さんが言ってた通り……本当に、目を瞑ってるとすごく幼く見える。可愛い。
普段の和泉を思い返し、特に目や仕草が色気を放っているのだと知る。それが和泉の雰囲気を妙に色っぽくしているのだと。
そんな空気を纏う和泉が大好きなのだと改めて思う。
和泉が優しく抱きしめてくれる時は、色気もあるせいか頼りになるお兄さんといった雰囲気になる。それが、亜姫に絶対的な安心感をもたらしてくれる。
今、それが見えないのは少し寂しい。けれど、これはこれで自分の方が年上になったような気がして、なんだか気分が上がる。
しかし何より『無防備に眠る姿は自分にしか見せない』という事実が嬉しくてたまらない。
誰もが同じ証言をするということは、一緒に寝ている時はいつもこの顔なのだろう。
亜姫の顔は自然とほころぶ。
じっとしているのがもったいなくてあちこち触れていると、和泉が眉を顰めて嫌がる素振りを見せた。
亜姫がくすくす笑いながら、そのまま触り続けていると。
「何してんだよ」
和泉のちょっと不機嫌な声。
亜姫はそれにも笑いを零す。
「んー? 寝てる和泉を見られるのは貴重だから」
亜姫は嬉しそうに言いながら、触れるのをやめようとはしない。和泉は少し迷惑そうにしながらも、しばらく好きにさせていた。
起きてから、またいつもの悪戯心に翻弄された亜姫はしばらく不貞腐れていた。けれど、宥められながら甲斐甲斐しく世話を焼かれると、朝食を終える頃には来た時と同じぐらいご機嫌に。
お腹が満たされたせいもあったかもしれない。扱いやすい単純な子だと和泉は笑う。
それから親が迎えに来るまで、お揃いのリングを付けて散歩に出たりテレビを観ながらうたた寝したりしてのんびり過ごし、二人は大満足で旅を終えた。
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