上 下
324 / 364
高3

嫉妬の先の触れ合い(6)

しおりを挟む
 不安や嫉妬が消えてきた亜姫の様子に、和泉はフッと笑いを零す。
 こうして一言も漏らさぬよう一生懸命聞こうとする亜姫の姿は、いつ見ても愛くるしい。
 だからこそ、こっちも真剣に伝えなければ……と思う。
 
「……俺は、さんざん女を食ってきた。それは否定しないし、お前にも謝らない。それは変えようのない事実だからな。
 だから……全部受け止めるよ。お前の嫉妬も、不満も不安も。お前の気が済むまでいくらでも聞くし、どんな問いにも答える。
 誰にでも等しく愛情を持つお前が、俺にだけは独占欲とか嫉妬を剥き出しにしてくれる……それがすごく嬉しい。
 だから、いつでも何回でも、好きなだけ言っていーよ」
 
 和泉は、まっすぐ見つめてくる亜姫を力いっぱい抱きしめた。
「これも、何度でも言うよ。
 これでもかってぐらいシてきたけど、俺が自分から何かするのは亜姫だけ。
 それから……もしかしたら、今まで女に触れた数より、もうお前の方が多いかも」
「へっ?」

 亜姫が驚きの声を上げた。その間が抜けた顔に、和泉は笑う。

「言っただろ、お前だけは別だって。俺、お前相手だとマジで一喜一憂しちゃうし、お前を見てるといつでも触れたくなる。手を繋いだり髪を触ったりするだけでも可愛い反応するし。隠してるけど、いつでも抱きたいって思ってるよ」
 
 亜姫がぽかんとする。どうやら刺激が強かったらしく、脳の働きが追いついてないようだ。
 この顔を見るとどうしても意地悪したくなる。
 
「触れてる時間なら、お前が間違いなく一番なんだけど」
 亜姫がまたぽかりと口を開けた。そんなこと、考えもしなかったと顔に書いてある。
 
「当然だろ? だってお前には丁寧に大事に触れてるもん、時間かかるに決まってる。
 他の女にはおざなりに触るだけだったから、相手する時間はかなり短かったよ?
 さっきはお前が相手だったし、あれでも時間をかけて優しくした方」
 からかうように言えば、亜姫は真っ赤になって動揺した。
「え、えぇっ!?」
 
 和泉は、唖然とする亜姫の体をポスンと布団へ沈めた。
「え、え?」
 わけがわからず混乱している亜姫を、和泉は上から覗き込む。

「なぁ、やきもち焼きさん?
 お前がそんなもん焼く必要なんかないって、今からしっかり教えてあげる」
 優しい言葉とは裏腹にギラつく目を向けられた亜姫。その怯えは、明らかに捕食された小動物のそれだった。
  
「や、や……むり!無理だからっ!」
「無理? やめる?」
 和泉が尋ねると、亜姫は懇願するように頷く。
「じゃ、やめよっか。……俺も、我慢するから」
「え……?」
「お前に無理させたくない。言ったろ、辛い思いさせたくないって。大丈夫だよ、俺は我慢できるから」
「や、やだ……」
「無理すんな。お前に全部受け止めろとは言わねーから」
「え……じゃ、じゃあ、誰に頼むの?」
「え? いや、そーゆー意味じゃ」
「や、駄目、やめちゃ駄目。全部、私に、して……他の子は駄目」
 亜姫は自分の状況をすっかり忘れて、逃さないとばかりに抱きついた。
 
 和泉は溢れ出す笑いが止まらない。手の平で転がされていることに気づいてない亜姫は、またスイッチが入りイヤイヤモードだ。
「……嫌なの? 俺が他の子と関わったら」
「嫌なの! 絶対だめ!」
「じゃあ、お前が全部受け止めてくれるの?」
「うん」
 亜姫はギュウっと和泉に抱きつく。
 
「……どうやって? 俺はあんまり無理させたくないんだけど……?」
 そう言うと、亜姫は真っ赤になりながらもどうにか伝えようとする。
 出来もしないのに必死で伝えようとする姿はいじらしく、可愛い。
「……いいの? このまま続けても」
「うん……」
 
 和泉は亜姫に気づかれないよう口の端を上げた。こんなに思惑通りにコトが進むなんて滅多にない。
 気が変わらないうちにと、和泉はその体を抱きしめた。
 
 今日の亜姫は自分でも出来ることをしようと頑張っている。
 全てを受けとめようとするその姿が、和泉をどれだけ幸せに導くのか……亜姫はわかっているのだろうか。

 そんなことを思いながら、和泉はしばし幸せに浸っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...