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高3
亜姫の変化(15)
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「……里佳子さんと仲良し……嫌だ……」
小さな小さな声で、申し訳無さそうに亜姫が呟く。
「里佳子?……仲いいか?」
和泉が不思議そうにすると、亜姫は深く頷いた。
「麻美さん達とは全然違うもん。なんだか、あ、愛し合ってるって……感じ……」
姿を隠したいのだろうか。これ以上入り込めないぐらい、和泉の体にギュウギュウと自身を埋め込む亜姫。それは、
「和泉を離したくない。これは自分のものだ」
と、強く主張しているようにも見えた。
和泉の顔は綻ぶ。
「まぁ……里佳子との付き合いは長いから。産まれた時からいるわけだし、散々世話にもなってるし。
でも里佳子は……冬夜を愛しすぎてその弟の世話までしちゃう、冬夜にベタ惚れの女だよ。お前も里佳子見てたらわかるだろ? 冬夜を好きだって」
埋め込まれた顔を優しく引き出してその顔を覗き込む。だが、涙目の亜姫は口をすぼめて「でも、だって」と駄々をこねている。
「ははっ! お前、やきもち焼き出すと止まらないんだ? 本当に可愛いな」
和泉は尖らせた口にチュッと吸い付いた。それでも拗ねている亜姫に、笑いながら教える。
「里佳子はさ、若く見えるけどけっこういい歳なわけ。
赤ん坊だった俺のオムツ変えたり、風呂に入れたり、吐いたもん片付けたり……色んなやらかしの後始末を散々してきてんだよ? 最早、姉というより母親だな」
これには流石に亜姫も反応した。和泉は笑う。
「産まれたばかりの俺を里佳子は知ってるんだ。
初めて会った時、俺はまだ新生児室にいたんだって。
里佳子が俺に馴れ馴れしいのは親や姉に近い感覚だからだよ。俺も里佳子も、お互いがやきもち焼いたり独占欲を見せたりなんてしない。俺らの間には必ず冬夜がいる。
……里佳子、冬夜にはものすごく嫉妬するから。今度会ったら観察してみな」
それを聞いて、亜姫はようやく安心したようだ。
しかし「でも、やっぱり嫌なんだもん……」と小声で怨み言を吐き続けている。
溜まりに溜まったせいなのか、もともとこういう性質だったのか、亜姫の嫉妬は留まることがないようでひたすら言葉が漏れ続ける。だが、和泉にとってそれは、財宝が次々に見つかるようなものだ。
麗華にすら嫉妬したと聞いた時は、歓喜の舞を踊り出しそうだった。
そして過去の女については。
「いや! 思い出さないで、触らないで、なんでそんな事してきたの!」
と、わんわん泣いた。今更どうしようもない事だと理解する気持ちと独占欲との間で、亜姫もだいぶ混乱しているのだろう。今日は思うままに発散させてやろうと、和泉はひたすら亜姫の話を聞いて宥めていた。
「撮影に来てたあの人……どうして和泉を名前で呼んでたの? 私には駄目だって呼ばせてくれなかったのに、どうして?
なんであんなに触らせたの? 嫌だった。全部、嫌だった!!」
「はい? 何で今更あいつの話?」
「だって! 嫌だったんだもん! 前も二人で撮影したんでしょう? その時、和泉のあの顔も間近で見たんでしょう? 嫌だ! カイカイ言ってばっかりなのも嫌だったもん!」
「お前、あの時そんなこと一言も言わなかったじゃん。我慢してたの?」
「違う! でも嫌だったの!」
八つ当たりのようにバシバシと叩く亜姫の手を抑えながら、更に深く追求してみると、何故か先程までの勢いが失速する。
「亜姫? そんな気持ちでいたのなら、気づかなくてごめんな? 何も言わないから気にしてないのかと思ってた」
「………た」
「えっ、何?」
亜姫の顔を覗き込むと、不機嫌極まりない顔でうるさいな! と和泉を睨む。
「あの時は! おっぱいに気を取られてたから気づかなかったの! でも嫌だったもん!……和泉のバカッ!」
これには流石に笑ってしまった。
「気づいてなかった」と自分で言ってしまったではないか。こじつけるにも程がある。それに、特別な名前呼びの価値がおっぱいより下ってどういうことだよ。
他の女が名前呼びする。それを嫌だと思い始めたのは、いつだったのだろう。……それはきっと、亜姫にもわからないのだろう。
どんな話も可愛い悪態もわけのわからないヒステリーも、今の和泉にはただのご褒美だ。待ちに待った夢が叶った瞬間で、和泉はとにかく幸せに浸っていた。
小さな小さな声で、申し訳無さそうに亜姫が呟く。
「里佳子?……仲いいか?」
和泉が不思議そうにすると、亜姫は深く頷いた。
「麻美さん達とは全然違うもん。なんだか、あ、愛し合ってるって……感じ……」
姿を隠したいのだろうか。これ以上入り込めないぐらい、和泉の体にギュウギュウと自身を埋め込む亜姫。それは、
「和泉を離したくない。これは自分のものだ」
と、強く主張しているようにも見えた。
和泉の顔は綻ぶ。
「まぁ……里佳子との付き合いは長いから。産まれた時からいるわけだし、散々世話にもなってるし。
でも里佳子は……冬夜を愛しすぎてその弟の世話までしちゃう、冬夜にベタ惚れの女だよ。お前も里佳子見てたらわかるだろ? 冬夜を好きだって」
埋め込まれた顔を優しく引き出してその顔を覗き込む。だが、涙目の亜姫は口をすぼめて「でも、だって」と駄々をこねている。
「ははっ! お前、やきもち焼き出すと止まらないんだ? 本当に可愛いな」
和泉は尖らせた口にチュッと吸い付いた。それでも拗ねている亜姫に、笑いながら教える。
「里佳子はさ、若く見えるけどけっこういい歳なわけ。
赤ん坊だった俺のオムツ変えたり、風呂に入れたり、吐いたもん片付けたり……色んなやらかしの後始末を散々してきてんだよ? 最早、姉というより母親だな」
これには流石に亜姫も反応した。和泉は笑う。
「産まれたばかりの俺を里佳子は知ってるんだ。
初めて会った時、俺はまだ新生児室にいたんだって。
里佳子が俺に馴れ馴れしいのは親や姉に近い感覚だからだよ。俺も里佳子も、お互いがやきもち焼いたり独占欲を見せたりなんてしない。俺らの間には必ず冬夜がいる。
……里佳子、冬夜にはものすごく嫉妬するから。今度会ったら観察してみな」
それを聞いて、亜姫はようやく安心したようだ。
しかし「でも、やっぱり嫌なんだもん……」と小声で怨み言を吐き続けている。
溜まりに溜まったせいなのか、もともとこういう性質だったのか、亜姫の嫉妬は留まることがないようでひたすら言葉が漏れ続ける。だが、和泉にとってそれは、財宝が次々に見つかるようなものだ。
麗華にすら嫉妬したと聞いた時は、歓喜の舞を踊り出しそうだった。
そして過去の女については。
「いや! 思い出さないで、触らないで、なんでそんな事してきたの!」
と、わんわん泣いた。今更どうしようもない事だと理解する気持ちと独占欲との間で、亜姫もだいぶ混乱しているのだろう。今日は思うままに発散させてやろうと、和泉はひたすら亜姫の話を聞いて宥めていた。
「撮影に来てたあの人……どうして和泉を名前で呼んでたの? 私には駄目だって呼ばせてくれなかったのに、どうして?
なんであんなに触らせたの? 嫌だった。全部、嫌だった!!」
「はい? 何で今更あいつの話?」
「だって! 嫌だったんだもん! 前も二人で撮影したんでしょう? その時、和泉のあの顔も間近で見たんでしょう? 嫌だ! カイカイ言ってばっかりなのも嫌だったもん!」
「お前、あの時そんなこと一言も言わなかったじゃん。我慢してたの?」
「違う! でも嫌だったの!」
八つ当たりのようにバシバシと叩く亜姫の手を抑えながら、更に深く追求してみると、何故か先程までの勢いが失速する。
「亜姫? そんな気持ちでいたのなら、気づかなくてごめんな? 何も言わないから気にしてないのかと思ってた」
「………た」
「えっ、何?」
亜姫の顔を覗き込むと、不機嫌極まりない顔でうるさいな! と和泉を睨む。
「あの時は! おっぱいに気を取られてたから気づかなかったの! でも嫌だったもん!……和泉のバカッ!」
これには流石に笑ってしまった。
「気づいてなかった」と自分で言ってしまったではないか。こじつけるにも程がある。それに、特別な名前呼びの価値がおっぱいより下ってどういうことだよ。
他の女が名前呼びする。それを嫌だと思い始めたのは、いつだったのだろう。……それはきっと、亜姫にもわからないのだろう。
どんな話も可愛い悪態もわけのわからないヒステリーも、今の和泉にはただのご褒美だ。待ちに待った夢が叶った瞬間で、和泉はとにかく幸せに浸っていた。
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