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高3

亜姫の変化(13)

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 玄関へ向かう為に亜姫がカバンを取ろうとすると、
「何してんの?」
 と、また呆れたような和泉の声。
 
「帰ります。……今までお世話になりました。色々……ごめんなさい」
 顔は見られなかった。最後の挨拶をこんな形で済ませようとする自分をまた軽蔑する。
 どこかで帰りたくないと思っているのか、体が思うように動かない。それでも、なんとか鞄を掴んで持ち上げる。
 
 その瞬間、鞄を取り上げられ遠くへ放り投げられた。
 
 何故? と思う間もなく、至近距離からまた質問が飛んでくる。
「だからさ、何してんの? って聞いてんだけど」
「……別れたから、帰るの。当たり前でしょう、ここにいたって」
「ほんっとに、馬鹿だな。一人で帰れもしないのに」

 亜姫は拳をギュッと握りしめる。そうだ、これからは和泉がいない生活をしていかなけれ……
「別れねーよ」
 
 遮られた思考と有り得ない言葉に、亜姫は混乱する。
「何言って……今、別れたじゃ……嫌いだって、一緒にいたくないって……言ったでしょう! 和泉も、和泉といる自分も! 嫌いなの!」
 
「違うだろ」
 呆れ果てた和泉の声。何故か、相手が春菜だったら優しくするくせにと場違いな不快を覚え、勝手に苛立った。
 
「違わない!」
「勝手に終わらせて逃げようとすんな」
 妙に冷静な和泉が、亜姫の手を掴む。
「もう別れたでしょう、離してよ」
 亜姫が振りほどこうとするが、その手はますます強く握られて離れる気配がない。
 
「……お前に、嫌われたと思ってたのに。なんだこれ、夢じゃないよな?」
 和泉が急にくすくすと笑いだした。
「何を笑って……」
 亜姫はカッとなってまた言い返そうとしたが。
「お前、本当に分からないの?」
 言うと同時に引き寄せられて、唇に優しいキスが落ちてきた。
 
 こんな時でもときめいてしまう自分。どうにも苦しくて、亜姫はまた泣き出した。
「こーゆーこと、しないでよ………」
 腕を振り払うことも忘れて、亜姫はしゃくりあげる。
 
「……本当にバカだな。亜姫、俺のことめちゃくちゃ好きなんじゃねーか。別れる必要なんかねーだろ」
 和泉が亜姫を優しく抱きしめる。
 
「それ、俺がずっと欲しかったやつ。なんでもっと早く言わないんだよ、こんなんなるまで我慢して一人で抱え込んで。ほんと……バカだよ、お前」
 和泉は亜姫を労るように頭を撫でた。亜姫が逃げ出さないように、その体はしっかりホールドしていたが。
「お前のそれ、独占欲と嫉妬だろ」
「知らない、離して!……見ないでよ! 見られたくない……こんな嫌な自分、嫌い! もう、何も考えたくないの! 嫌がられたくない!」 
「嫌がるわけねぇ……俺が見たかった亜姫だ」
「嘘つかないで!」
「本当だよ。……俺も同じ。同じなんだよ、亜姫。
 ずっと、そういうのを嫌悪してたのに。俺もお前には同じことを思う。あのクソみたいな女達と同じ事を、お前にしてるんだ。そんでお前にも、あいつらみたいに欲しがってもらいたいと望んでた。はは、俺も人のこと言えねーな」
 
 亜姫が驚きに目を見開き、ぽかんとしている。そこへ和泉は優しく笑いかけた。
 
「夢見てた、いつかお前がそう言ってくれるの。
 それだけが不満だった。誰にでも平気で俺を譲ろうとすんのが」
 お前は全然やきもち焼かないし、いつもガッカリしてたよ……と、和泉は苦笑する。

「お前のもんだよ。お前を好きになった時から……俺はずっとお前のモノだ」
「うそ……だって他の人と……」
「確かに、自覚するまで女と関わってはいた。それは否定しないけど。
 過去の事が気になるなら、お前の気が済むまで教えるよ。なんなら、覚えてる限りの事を全て言ったっていい。納得するまで何度でも言う。
 俺は……亜姫の嫉妬と独占欲なら、これでもかってぐらい見たい。むしろ、見せてもらえたら嬉しくてたまらない」
 
 亜姫は信じられないとますます目を見開き、左右に首を振る。和泉はそれを見てまた笑った。
 
「ほら、俺にちゃんと言えよ。他の人を見るな触るなって。私のモノなんだから触らせるなって」
 
 だけどその前に……と、和泉はにやりと笑う。

「好きだ、別れない。って、ちゃんと言え」
 唇が触れそうな距離で、和泉はそう囁いた。
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