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高3
亜姫の変化(9)
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和泉は呆然としながら帰宅する。当然里佳子を手伝う気になどならず、そのままベッドに倒れ込んだ。
なんだ? 何が起きてる? 俺は何をしてた?
入院してからの日々を思い返してひたすら問答するが、自分の浮き沈みする感情とそれに連なるガキみたいな行動しか出てこなかった。
そして、亜姫の気持ちを拾えてないどころか放置していた事実に気づき、茫然自失する。
先程の、亜姫から発せられていた拒絶の空気を思い出す。
…………亜姫に、嫌われた…………?
思考が現実を拒否する。
ヒロに言われた言葉が何度も頭の中で鳴り響き、その度、こっぴどく殴られたような気分になった。
気づけば外は真っ暗で。
喉の乾きを覚えて下へ降りると、いつの間にか里佳子もいなかった。夕飯のメモ書きだけが置いてあり、それを横目に水を一気飲みする。
自身の情けなさにこれでもかと打ちひしがれていると、ピンポーン、とチャイム音。
出る気など微塵も無かったが、なんとなくインターホンの画面に目を向ける。
が、そこに映った姿を見た途端、和泉は返事も忘れて玄関へ飛び出した。
「よぉ。……ひっどい顔してんな、おい」
そこにいたのは、いつものように和泉を面白がるヒロだった。
◇
そのまま外へと連れ出され、着いた先には戸塚と麗華。
そこで馬鹿だアホだと散々罵られ、反論などしようもない和泉は撃沈して机に突っ伏していた。
「和泉? おーい? 生きてるか?」
ヒロがフォークの柄で和泉の肩をつつく。
「お前、なんでさっき手加減したんだ……。今からでもいいから殴れよ」
突っ伏したまま呟く和泉に、ヒロが笑う。
「ようやく目が覚めたのかよ」
「………悪かった……サンキュ…………」
そうして顔を上げた和泉の顔は、いい男も台無しの情けなさだった。
その姿に、三人が声を上げて笑う。
「それで? 結局、亜姫には何も教えてもらえなかったわけ?」
麗華の冷たい声に歯向かう気力も無く、和泉は素直に頷く。
「亜姫に嫌われたって? あんた、本気でそう思ってんの?」
「いや、でも……亜姫があんな風に俺を拒否するとか、壁を作るなんて………」
「ねぇ、まだ目が覚めてないんじゃないの? しっかりしなさいよ。
亜姫がそういう行動を取るのは、どういう時だった?
もしあんたのことが嫌いなら、素直に別れを告げてるんじゃないの?」
その言葉に、和泉がハッとして麗華を見た。
「……知られたくない、隠したいことが……あるから……?」
麗華は頷く。
「麗華は、亜姫から何か聞いてんの?」
「何も。私も塾で忙しかったし、亜姫も言いたがらなかったから私から聞くことはしてない。でも、何か思い詰めてるとは思ってたわよ」
「そっか……気づいてねーのは、本当に俺だけだったんだな」
再び項垂れる和泉の肩を、ヒロがバシッと叩く。
「落ち込む暇なんかねーんだよ。とにかく明日、亜姫と話をしてちゃんと聞き出せ。
あいつもそろそろ限界だろ、もう隠しきれてないし」
「どうせ、和泉にだけはバレたくない! みたいな理由でひた隠しにしてんだろ。亜姫ならやりそうだよね」
「しょうがないから、香田の方はこっちで引き受けてあげる。春菜に連れてこさせて、納得するまでひたすら説教ね。明日なら沙世莉も来られるし。
しばらく近づかないようしっかり言い聞かせるから、和泉は亜姫をなんとかしなさい」
和泉は深く頷いた。
なんだ? 何が起きてる? 俺は何をしてた?
入院してからの日々を思い返してひたすら問答するが、自分の浮き沈みする感情とそれに連なるガキみたいな行動しか出てこなかった。
そして、亜姫の気持ちを拾えてないどころか放置していた事実に気づき、茫然自失する。
先程の、亜姫から発せられていた拒絶の空気を思い出す。
…………亜姫に、嫌われた…………?
思考が現実を拒否する。
ヒロに言われた言葉が何度も頭の中で鳴り響き、その度、こっぴどく殴られたような気分になった。
気づけば外は真っ暗で。
喉の乾きを覚えて下へ降りると、いつの間にか里佳子もいなかった。夕飯のメモ書きだけが置いてあり、それを横目に水を一気飲みする。
自身の情けなさにこれでもかと打ちひしがれていると、ピンポーン、とチャイム音。
出る気など微塵も無かったが、なんとなくインターホンの画面に目を向ける。
が、そこに映った姿を見た途端、和泉は返事も忘れて玄関へ飛び出した。
「よぉ。……ひっどい顔してんな、おい」
そこにいたのは、いつものように和泉を面白がるヒロだった。
◇
そのまま外へと連れ出され、着いた先には戸塚と麗華。
そこで馬鹿だアホだと散々罵られ、反論などしようもない和泉は撃沈して机に突っ伏していた。
「和泉? おーい? 生きてるか?」
ヒロがフォークの柄で和泉の肩をつつく。
「お前、なんでさっき手加減したんだ……。今からでもいいから殴れよ」
突っ伏したまま呟く和泉に、ヒロが笑う。
「ようやく目が覚めたのかよ」
「………悪かった……サンキュ…………」
そうして顔を上げた和泉の顔は、いい男も台無しの情けなさだった。
その姿に、三人が声を上げて笑う。
「それで? 結局、亜姫には何も教えてもらえなかったわけ?」
麗華の冷たい声に歯向かう気力も無く、和泉は素直に頷く。
「亜姫に嫌われたって? あんた、本気でそう思ってんの?」
「いや、でも……亜姫があんな風に俺を拒否するとか、壁を作るなんて………」
「ねぇ、まだ目が覚めてないんじゃないの? しっかりしなさいよ。
亜姫がそういう行動を取るのは、どういう時だった?
もしあんたのことが嫌いなら、素直に別れを告げてるんじゃないの?」
その言葉に、和泉がハッとして麗華を見た。
「……知られたくない、隠したいことが……あるから……?」
麗華は頷く。
「麗華は、亜姫から何か聞いてんの?」
「何も。私も塾で忙しかったし、亜姫も言いたがらなかったから私から聞くことはしてない。でも、何か思い詰めてるとは思ってたわよ」
「そっか……気づいてねーのは、本当に俺だけだったんだな」
再び項垂れる和泉の肩を、ヒロがバシッと叩く。
「落ち込む暇なんかねーんだよ。とにかく明日、亜姫と話をしてちゃんと聞き出せ。
あいつもそろそろ限界だろ、もう隠しきれてないし」
「どうせ、和泉にだけはバレたくない! みたいな理由でひた隠しにしてんだろ。亜姫ならやりそうだよね」
「しょうがないから、香田の方はこっちで引き受けてあげる。春菜に連れてこさせて、納得するまでひたすら説教ね。明日なら沙世莉も来られるし。
しばらく近づかないようしっかり言い聞かせるから、和泉は亜姫をなんとかしなさい」
和泉は深く頷いた。
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