【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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高3

亜姫の変化(5)

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 亜姫達が買いに行っている間、和泉は大人しく昇降口で待っていた。
 すると春菜が声をかけてきた。珍しく、香田はいない。
 
「先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……いいですか?」
 
 深刻そうな顔の春菜。和泉は返事を返さずにいたが、春菜はそのまま言葉を続けた。
「あ、あの……ヒロ先輩と亜姫先輩のことなんですけど……。あの二人、何かあったり……しませんか?
 あ、あの、あまりにも仲が良いから……。
 和泉先輩がいなかった時も、ヒロ先輩が当たり前のように代わりを務めてる感じだったし……。
 あっ、いや、亜姫先輩が和泉先輩を好きなのはわかってるんです。でも……ヒロ先輩が、亜姫先輩の事を好きなのかなって……」
 春菜は、言いながら少しずつ俯いていった。言葉尻もどんどん小さくなっていく。

「やっぱり、ヒロのことが好きなんだ?」
 
それを聞いた瞬間、春菜が弾かれたように顔を上げた。
「えっ! なんでそれ……っ!」
「そんな気がしてた」
 
 春菜が驚愕の表情を浮かべる。
 
「え、えっ? もしかして私……バレバレでしたか?
 え……もしかして、ヒロ先輩にもバレ……」
「他の奴は気づいてないと思う」
「じゃあ、なんで先輩は……」
「お前、俺に似てんなと思って」
 
 和泉の言葉は意味がわからなかった。それを顔に出し、春菜は首を傾げたが。
 和泉は軽く笑っただけで、それ以上何も言わなかった。
 
 春菜はしばし無言で佇んでいたが、少しして気を取り直すと再び尋ねた。
「あの……それで、二人の事は……?」
「ヒロの気持ちは俺にはわかんねーよ」
 
 身も蓋もない返答に春菜は絶句した。
 
 間髪入れず、和泉が射抜くような眼差しで逆に問う。
「もし、ヒロが亜姫のことを好きだったら。お前はどうするの?」
「えっ……」
「返答次第で何か変えるの? 何か変わるの? それを聞いて、お前は何がしたいの?」
「え……っと、私は………」
「ヒロが亜姫を好きなら、諦めるの? じゃあ、もし亜姫じゃなくて他の奴を好きだったらどうするの?」
 
 これでもかと畳み掛けられる問いに、春菜は泣きそうだった。
「そんなのわかりません。でも、亜姫先輩が相手だったら叶わないって……思っちゃいますよね……」
 そして、再び和泉へ尋ねる。
「先輩は……そういうことを考えたり怖くなったりしないんですか? あの二人を見て、本当になんとも思いませんか?
 そんなに自信があるんですか……? だとしたら、こんな気持ち……先輩にわかるわけがない」
 最後は少し不貞腐れたように言い、春菜は和泉を睨みつけた。
 
 和泉はその問いには答えず、代わりにほんの少し笑った。
 
「何があっても俺が亜姫を好きなのは変わらないし、相手が誰でも譲る気なんかない」
 
 和泉が堂々と言い切ったその言葉は、春菜にはただの自信過剰に見えた。無性に腹が立ち、言われっぱなしの不満をぶつけるように和泉へ噛みつく。
「じゃあ、亜姫先輩が心変わりしてたらどうするんですか? そんなこと言ってる今だって、もしかしたらヒロ先輩に傾いてるかもしれませんよ? 知らないでしょう、先輩がいない間の二人の仲の良さ……」
「諦めないから」
 
 途中で被さった言葉に、春菜の動きが止まる。
 
「俺は、諦めないから。例え亜姫が心変わりしたとしても。俺は、絶対に諦めたりしない」
 
 和泉はそう言うと、唖然とする春菜に向かって愉しげに笑った。
「お前らがどうなるかなんて知らねーけど、ヒロを好きなら諦めない方がいいんじゃないの?」
「え? どうしてですか?」
「俺は、ヒロからそう教わって亜姫を手に入れられたから。
 諦めんな。考えろ。行動しろ。
 そう言われ続けて、ずっと尻を叩かれてきたよ。まぁ、似たようなことは今でも言われんだけどさ」
 そう言って、和泉はまた愉しそうに笑った。
 
 それにつられて、春菜も笑う。
「はい、ありがとうございます。……頑張ります」
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