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高3
事故・混沌(12)
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放課後、退院した和泉の家には亜姫がいた。
ヒロと戸塚がここまで送り届けてくれたのだが、彼らは亜姫だけ置いて帰っていった。二人で過ごせるよう、気を遣ってくれたのだろう。
自分が撒き散らしていた苛立ちも感じ取っていたはずなのに、そこには一切触れてこない。彼らのそういうところには日々感謝しかない。
ギプスをしている和泉に代わり、亜姫がカフェオレを入れる。
来る途中で小さなケーキを買ってくれたようだ。それを前にして、小さく乾杯した。
ようやく自分のテリトリーに戻ってきた。いつもの定位置には亜姫。和泉の中で凝り固まっていたモノが少しずつ解れていく。
ほんのり香る甘い匂いに誘われて、亜姫の体を抱き寄せる。我慢出来ず、亜姫がカップを置いた瞬間を見計らって口づけた。
懐かしい感触に頭の中が蕩けそうになる。欲するままに唇を貪り、そのまま首筋に這わせていくと、まさかの亜姫に阻まれた。
「駄目」
断固拒否! といった抵抗を見せる亜姫に、和泉は不満げな顔を向けた。
「駄目。まだ安静にって言われたでしょう!」
まさかの、母親のような言い方で叱られた。
和泉がムキになって近づこうとすると。
「和泉。本当に怪我が心配だから。駄目だよ」
「大丈夫、こっちの手は使わないから」
「駄目だってば!」
あまりの嫌がりように、和泉の手も流石に止まった。大人げないと思いながら、あからさまに不貞腐れてしまう。
「なんでそんなに嫌がるんだよ。……俺のこと、嫌になったの?」
苛立ちが捻くれた言葉になって出てしまった。
かっこ悪い。ヒロに嫉妬するなんて、どうかしてる。
居たたまれない気持ちになって体を離すと、予想外に真っ赤な亜姫と目が合った。
「そんなわけ、ない、でしょう………」
言いながら、亜姫が胸の中に飛び込んでくる。そして、聞き逃しそうなほど小さな声で呟いた。
「……もう少し、腕が、ちゃんと治ってから……に、して。心配なだけ、だから……」
間違いなく、今、亜姫に心を鷲掴みされた。
和泉はそう思った。
心臓の温度が爆上がりして、ドクドクと激しく波打っていく。
たったこれだけのことで、全てが水に流れていった。
単純な男だと自分に呆れながら
「じゃあ……楽しみは、あとに取っておく」
と浮かれた。
亜姫は花が綻ぶように笑い、嬉しそうに頷いた。
付き合いたてのように恥じらう亜姫が可愛くて。
自分の隣に亜姫がいるのが嬉しくて。
この時の俺は馬鹿だった。
亜姫が色々抱え込んでいたのを記憶の隅にほったらかし……俺はまた、性懲りも無く同じ事をしてしまったんだ。
ヒロと戸塚がここまで送り届けてくれたのだが、彼らは亜姫だけ置いて帰っていった。二人で過ごせるよう、気を遣ってくれたのだろう。
自分が撒き散らしていた苛立ちも感じ取っていたはずなのに、そこには一切触れてこない。彼らのそういうところには日々感謝しかない。
ギプスをしている和泉に代わり、亜姫がカフェオレを入れる。
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ようやく自分のテリトリーに戻ってきた。いつもの定位置には亜姫。和泉の中で凝り固まっていたモノが少しずつ解れていく。
ほんのり香る甘い匂いに誘われて、亜姫の体を抱き寄せる。我慢出来ず、亜姫がカップを置いた瞬間を見計らって口づけた。
懐かしい感触に頭の中が蕩けそうになる。欲するままに唇を貪り、そのまま首筋に這わせていくと、まさかの亜姫に阻まれた。
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「大丈夫、こっちの手は使わないから」
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かっこ悪い。ヒロに嫉妬するなんて、どうかしてる。
居たたまれない気持ちになって体を離すと、予想外に真っ赤な亜姫と目が合った。
「そんなわけ、ない、でしょう………」
言いながら、亜姫が胸の中に飛び込んでくる。そして、聞き逃しそうなほど小さな声で呟いた。
「……もう少し、腕が、ちゃんと治ってから……に、して。心配なだけ、だから……」
間違いなく、今、亜姫に心を鷲掴みされた。
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