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高3
事故・混沌(5)
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「もしも、香田に狙いがあって動いてるんだとしたら……亜姫を潰したいんだと思う」
和泉がようやく口を開いた。
「和泉。香田は亜姫を落とす気だったと思う?」
「……分かんねぇ。ただ、有り得ない力で引っぱったのは確かだ。俺が止めなかったら、亜姫はあのまま頭から落ちてた」
「わざとだとしたら?」
「だとしたら、目的は俺で亜姫を排除したい、もしくは亜姫に個人的な悪意がある……のどちらか、かな。
でも、祥子のような悪意は香田からは感じない。どっちかというと好意だよな、感じるとしたら」
確かに、香田からは亜姫への好意しか感じない。
それにはヒロと戸塚も同意する。
「で? どーすんの? あの感じだと、香田は絶対お前の世話しに来るぞ?」
ヒロの言葉に、和泉は何度目かの溜息をついた。
「だろーな。それを見た亜姫の行動も、想像がつくな……」
重苦しいギプスをさすりながら、和泉は眉を寄せる。
「でも、まずは亜姫に被害が無いように抑えとかねーと。香田のしたい事がなんなのか、まだよくわからない。だったら近くで泳がせたほうがいいだろ。俺がいない所で何かされるよりは……」
「だから? しばらく香田と一緒に過ごすって? そんなことしたら、亜姫が香田に気を使ってお前に近づかなくなるぞ?
亜姫が自分を責めてるのはわかってるよな? その上お前を心配して、生活の不安もあって……本当はお前のそばにいたいはずだろ。なのに、そこは見ないフリすんのかよ?」
「ヒロ。そこまで言わなくても、和泉だってわかってるよ」
戸塚の諌める声。しかし、ヒロは不服そうに咎めるような視線を投げる。
和泉はその視線を真っ直ぐ受け止めつつ、苦悩を滲ませた。
「……今までと違って、香田は完全に亜姫の懐へ入り込んでる。いつでも手を出せる距離にいるんだ。
それ以前に、亜姫が疑いを持ってないんだから簡単に引き離すことはできない。
亜姫への悪意なのか、単純に俺狙いなのか、それとも全然違うなにかなのか。……お前はどれだと思う?」
「……悩みどころだな。俺にも、まだ見えねぇ」
ヒロの答えに同意するよう、戸塚も頷く。
「だろ?」
ヒロは大きな溜息を吐き出した。
「俺は、この方法は反対。ロクなことにならねーよ絶対。亜姫が苦しむだけだ」
「わかってる。でも自ら言い出してるし、亜姫は絶対に引かねーよ。
例え悪意が見えていたとしても、あの状況じゃ同じことを言ったはずだ。亜姫の性格じゃ駄目とは言わねーだろ。今のところ、香田の方が一枚上手なんだ」
「しくじるなよ? お前が間違えると拗れるぞ。
お前と違って、俺らが出来る事には限りがあるからな? それを絶対忘れんなよ?」
「ああ。……悪いな」
「気にすんな。どこまで役に立つか分かんねぇけど、とりあえず出来ることはやるから。ここにも毎日連れてくるし」
「悪いな」
「ははっ、珍しく殊勝じゃん。この借りは後でたっぷり返してもらうよ」
ヒロは冗談めかして笑った。
と、そこに。帰ったはずの香田がノックと同時に入ってきた。唖然とする三人をよそに、香田は自身が考える入院道具などを次々と机に出し始める。
和泉が無視しているにも関わらず、香田は例のごとく一人で楽しそうに話し続けた。
あまりの空気の読めなさと身勝手さに、さすがのヒロも声を荒げそうになる。それを察した戸塚が香田を宥めすかして、どうにか追い返すことに成功した。
ようやく静かになった病室で、三人はぐったりしていた。
「おい……あれ、明日から毎日かよ?……俺、無理だわ……」
「亜姫のなんてかわいいもんだな。同じ暴走でもあれは受け入れらんねぇ……」
「ようやく本性が見えてきたって感じかな。あの押しの強さじゃ、亜姫はとことん振り回されて終わりそうだね」
だが、退院までの辛抱だ。
「うまくやれよ?」と念を押して、ヒロと戸塚は帰っていった。
和泉がようやく口を開いた。
「和泉。香田は亜姫を落とす気だったと思う?」
「……分かんねぇ。ただ、有り得ない力で引っぱったのは確かだ。俺が止めなかったら、亜姫はあのまま頭から落ちてた」
「わざとだとしたら?」
「だとしたら、目的は俺で亜姫を排除したい、もしくは亜姫に個人的な悪意がある……のどちらか、かな。
でも、祥子のような悪意は香田からは感じない。どっちかというと好意だよな、感じるとしたら」
確かに、香田からは亜姫への好意しか感じない。
それにはヒロと戸塚も同意する。
「で? どーすんの? あの感じだと、香田は絶対お前の世話しに来るぞ?」
ヒロの言葉に、和泉は何度目かの溜息をついた。
「だろーな。それを見た亜姫の行動も、想像がつくな……」
重苦しいギプスをさすりながら、和泉は眉を寄せる。
「でも、まずは亜姫に被害が無いように抑えとかねーと。香田のしたい事がなんなのか、まだよくわからない。だったら近くで泳がせたほうがいいだろ。俺がいない所で何かされるよりは……」
「だから? しばらく香田と一緒に過ごすって? そんなことしたら、亜姫が香田に気を使ってお前に近づかなくなるぞ?
亜姫が自分を責めてるのはわかってるよな? その上お前を心配して、生活の不安もあって……本当はお前のそばにいたいはずだろ。なのに、そこは見ないフリすんのかよ?」
「ヒロ。そこまで言わなくても、和泉だってわかってるよ」
戸塚の諌める声。しかし、ヒロは不服そうに咎めるような視線を投げる。
和泉はその視線を真っ直ぐ受け止めつつ、苦悩を滲ませた。
「……今までと違って、香田は完全に亜姫の懐へ入り込んでる。いつでも手を出せる距離にいるんだ。
それ以前に、亜姫が疑いを持ってないんだから簡単に引き離すことはできない。
亜姫への悪意なのか、単純に俺狙いなのか、それとも全然違うなにかなのか。……お前はどれだと思う?」
「……悩みどころだな。俺にも、まだ見えねぇ」
ヒロの答えに同意するよう、戸塚も頷く。
「だろ?」
ヒロは大きな溜息を吐き出した。
「俺は、この方法は反対。ロクなことにならねーよ絶対。亜姫が苦しむだけだ」
「わかってる。でも自ら言い出してるし、亜姫は絶対に引かねーよ。
例え悪意が見えていたとしても、あの状況じゃ同じことを言ったはずだ。亜姫の性格じゃ駄目とは言わねーだろ。今のところ、香田の方が一枚上手なんだ」
「しくじるなよ? お前が間違えると拗れるぞ。
お前と違って、俺らが出来る事には限りがあるからな? それを絶対忘れんなよ?」
「ああ。……悪いな」
「気にすんな。どこまで役に立つか分かんねぇけど、とりあえず出来ることはやるから。ここにも毎日連れてくるし」
「悪いな」
「ははっ、珍しく殊勝じゃん。この借りは後でたっぷり返してもらうよ」
ヒロは冗談めかして笑った。
と、そこに。帰ったはずの香田がノックと同時に入ってきた。唖然とする三人をよそに、香田は自身が考える入院道具などを次々と机に出し始める。
和泉が無視しているにも関わらず、香田は例のごとく一人で楽しそうに話し続けた。
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「亜姫のなんてかわいいもんだな。同じ暴走でもあれは受け入れらんねぇ……」
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