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高3
新たな出会い(2)
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それからも話をする機会はあったが、楽しげな亜姫の隣に立つ和泉は相変わらずだった。
香田は和泉にも物怖じすることなく話しかける。だが彼は基本的に無視していて、たまに返事を一言返す程度だ。
春菜も、亜姫と話す中で和泉達へ声をかけることはあったが、あくまでも亜姫に懐いて会話を楽しんでいる様子。ヒロと亜姫の掛け合いを見て、楽しげに笑うことが多かった。
そんな中でのある昼休み。戸塚が、そういえばと言い出した。
「香田の話、少し聞いてきた。まぁ……基本は俺らが見る姿と変わらない。
ただ、相手を慮るより自己主張のほうが強いみたい。悪意を持ったり意図的に相手を傷つけようとしたりする子じゃないんだけど、結果的にそうなっちゃうことが多いらしい」
どういうこと? と沙世莉が首を傾げる。
「香田ってかなり裕福な家の一人娘なんだって。祖父母や両親からすごく可愛がられてて、欲しいものは何でも買ってもらえるような家。性格も素直だし、人に嫌がらせしたり見下したりもしない。いい子ではあるんだけど。
ただ、欲しい物を手にすることに迷いがないし、望めば当然手に入ると思ってる。でも、ただ甘やかされたわけじゃなくて、欲しい物があるなら手に入るように考えろって言われて育ってきたんだと。
それが悪い方に働いてると言うか……欲したものが誰のものであろうが何であろうが、欲しいと思えば手に入れる努力をしちゃうらしい。裏工作とかせず馬鹿正直に突進して、要は横取りなんだけど、本人に悪気はないし相手を貶めた自覚もない。そこで揉め事になっても、自身の気持ちをストレートに伝えるだけで相手の気持ちを受け止めたり考えたりしないから、結果的に相手を馬鹿にしてるように見えちゃう。
責められたとしても「じゃあ、あなたも取られないように努力すればよかったのに。私はちゃんと宣言したし堂々とやったよ?」って平然と言っちゃうらしい。
欲しい物に限らず常にそういう感じだから、男女問わずトラブルが多いんだって」
その話に、全員が意外そうな顔をする。
「そんな風には見えなかったわね。これから出てくるのかしら? そういう一面が」
麗華が考えこむように呟いた。
今、香田が執着しているのは亜姫。だが、和泉との関わりも気にしたほうがいいかもしれない。
麗華がそんなことを考えていると、また戸塚が言った。
「前の学校もそれで揉めたらしくて、半年前に転校してきたんだってさ。で、こっちでも結局友達が離れちゃって、今は春菜しかいないんだと」
ヒロが溜息をつきながら言う。
「そんなことばっかしてたら、確かに人は離れていくよな。しかし、学習しないもんかね? 悪い子じゃないだけにもったいねーよな」
「人を大事にする気持ちが芽生えないと変わらないんじゃない? 悪意がないだけにタチが悪くなっちゃうし、損しちゃうよね」
沙世莉の言葉に戸塚が頷く。
「春菜がそこを気にしてるらしい。見捨てられないのか、ただ香田を好きなのかはわかんないけど。
とにかく何かある度に叱ったりしながらずっと一緒にいるんだってさ。春菜は姉さん気質で、元々面倒見が良いらしい」
「見た目がいいだけじゃなくて、性格まで良くて面倒見もいいって……そりゃあモテるよな。
でも、春菜のお人好し過ぎるところはやっぱり亜姫に似てる。お前ら、似た者同士かも」
ヒロの言葉に、皆が頷いた。
亜姫はよくわからないまま首を傾げるが、ふと隣を見ると。
一度も会話に参加していなかった和泉が、皆と一緒に笑っていた。自分にしか見せない、柔らかな笑顔で。
亜姫の胸が、また苦しくなった。
何故だろう? またあの症状だ。まだ体調が悪いのだろうか。
胸の辺りがモヤモヤする。
なんで、今あの顔を見せたの……?
誰に……? 春菜ちゃんに……?
亜姫の中で、知らない何かが芽を出した。
香田は和泉にも物怖じすることなく話しかける。だが彼は基本的に無視していて、たまに返事を一言返す程度だ。
春菜も、亜姫と話す中で和泉達へ声をかけることはあったが、あくまでも亜姫に懐いて会話を楽しんでいる様子。ヒロと亜姫の掛け合いを見て、楽しげに笑うことが多かった。
そんな中でのある昼休み。戸塚が、そういえばと言い出した。
「香田の話、少し聞いてきた。まぁ……基本は俺らが見る姿と変わらない。
ただ、相手を慮るより自己主張のほうが強いみたい。悪意を持ったり意図的に相手を傷つけようとしたりする子じゃないんだけど、結果的にそうなっちゃうことが多いらしい」
どういうこと? と沙世莉が首を傾げる。
「香田ってかなり裕福な家の一人娘なんだって。祖父母や両親からすごく可愛がられてて、欲しいものは何でも買ってもらえるような家。性格も素直だし、人に嫌がらせしたり見下したりもしない。いい子ではあるんだけど。
ただ、欲しい物を手にすることに迷いがないし、望めば当然手に入ると思ってる。でも、ただ甘やかされたわけじゃなくて、欲しい物があるなら手に入るように考えろって言われて育ってきたんだと。
それが悪い方に働いてると言うか……欲したものが誰のものであろうが何であろうが、欲しいと思えば手に入れる努力をしちゃうらしい。裏工作とかせず馬鹿正直に突進して、要は横取りなんだけど、本人に悪気はないし相手を貶めた自覚もない。そこで揉め事になっても、自身の気持ちをストレートに伝えるだけで相手の気持ちを受け止めたり考えたりしないから、結果的に相手を馬鹿にしてるように見えちゃう。
責められたとしても「じゃあ、あなたも取られないように努力すればよかったのに。私はちゃんと宣言したし堂々とやったよ?」って平然と言っちゃうらしい。
欲しい物に限らず常にそういう感じだから、男女問わずトラブルが多いんだって」
その話に、全員が意外そうな顔をする。
「そんな風には見えなかったわね。これから出てくるのかしら? そういう一面が」
麗華が考えこむように呟いた。
今、香田が執着しているのは亜姫。だが、和泉との関わりも気にしたほうがいいかもしれない。
麗華がそんなことを考えていると、また戸塚が言った。
「前の学校もそれで揉めたらしくて、半年前に転校してきたんだってさ。で、こっちでも結局友達が離れちゃって、今は春菜しかいないんだと」
ヒロが溜息をつきながら言う。
「そんなことばっかしてたら、確かに人は離れていくよな。しかし、学習しないもんかね? 悪い子じゃないだけにもったいねーよな」
「人を大事にする気持ちが芽生えないと変わらないんじゃない? 悪意がないだけにタチが悪くなっちゃうし、損しちゃうよね」
沙世莉の言葉に戸塚が頷く。
「春菜がそこを気にしてるらしい。見捨てられないのか、ただ香田を好きなのかはわかんないけど。
とにかく何かある度に叱ったりしながらずっと一緒にいるんだってさ。春菜は姉さん気質で、元々面倒見が良いらしい」
「見た目がいいだけじゃなくて、性格まで良くて面倒見もいいって……そりゃあモテるよな。
でも、春菜のお人好し過ぎるところはやっぱり亜姫に似てる。お前ら、似た者同士かも」
ヒロの言葉に、皆が頷いた。
亜姫はよくわからないまま首を傾げるが、ふと隣を見ると。
一度も会話に参加していなかった和泉が、皆と一緒に笑っていた。自分にしか見せない、柔らかな笑顔で。
亜姫の胸が、また苦しくなった。
何故だろう? またあの症状だ。まだ体調が悪いのだろうか。
胸の辺りがモヤモヤする。
なんで、今あの顔を見せたの……?
誰に……? 春菜ちゃんに……?
亜姫の中で、知らない何かが芽を出した。
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