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高3
進路と麗華(7)
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そんな亜姫を見たのは初めてで、麗華も驚きに動きを止める。
「え……? 引っ越し……? 麗華、いなくなっちゃうの……?」
愕然とした亜姫から、絞り出すような声が漏れた。
麗華が頷くと、亜姫の顔が徐々に泣きそうに歪んでいく。
「えっ、え……どうして? なんで? だ、だめ、駄目だよ……駄目だよ! 引っ越しなんかしたら!」
言うやいなや亜姫は麗華の手を引き、ぐいぐいと引っ張り歩き出す。
こんなに強引な亜姫も、何かを否定する亜姫も見たことがない。
驚いた麗華がされるがまま後を付いていくと、辿り着いたのはまさかの我が家。
亜姫は迷うことなくインターホンを押し、けれど返事を待つことなく玄関を開け、勢いよく中へ入っていった。
普段はいないママが、その日はたまたま休みで家にいた。だが、麗華が鍵っ子だと知っている亜姫がそんな行動を取るはずがない。そもそも、亜姫が人の家へ勝手に入るなんて有り得ない。だが、勢いに押されて驚く暇など無かった。
麗華は転びそうになりながら靴を脱ぎ、引っ張られるまま後に続く。
そこには、同じように驚くママがいた。
それでも「おかえり」と言ったママの言葉も聞かず、欠かさずする元気いっぱいの挨拶もなく、亜姫は叫んだ。
「引っ越しちゃ駄目!」
荒い息を吐き出しながら、引っ越ししないでとママに頼み込む亜姫。落ち着きなく動く様子から、明らかに冷静さを欠いているとわかる。なのに麗華と繋いだ手だけは、意思を持ったように強く握られたまま離れなかった。
「駄目! おばさん、引っ越さないで! 私、麗華と一緒にいたい。まだ、やりたいことが沢山あるの。約束した事もいっぱいあるのに。ねぇ、行かないで。
わ、私の家に住んでもいいから! 私の部屋をあげるから! だからお願い、麗華を連れて行かないで! いなくなったら嫌だ!」
あまりの勢いに、ママは呆気にとられて突っ立っていた。だが、やがてゆっくりとしゃがみ込むと亜姫と視線を合わせる。
そこで、ようやく亜姫が言葉を止めた。
ママは優しく微笑みながら問いかける。
「亜姫ちゃんは、麗華のことが好き? もっと一緒にいたいと思ってくれてるの?」
亜姫は、静かに頷いた。
そして、動きを止めたことで冷静さを取り戻したようだ。目に涙を浮かべながら、イヤイヤするように首を振る。
「行っちゃ、やだ……でも、ごめんなさい……私、ワガママ言った。こんな事を言ったら、おばさんが困るのに……。
麗華も、ごめんなさい……いま言ったことは、忘れて……」
亜姫は自分の行動をひどく悔いているようだった。しかし一層強く握られた手が、亜姫の本音を如実に表している。
「ママ。私、引っ越しはしたくない」
気づけばそう言っていた。
ママはわかっていると伝えるように頷き、また亜姫と目線を合わせた。
「亜姫ちゃん、これからも麗華をよろしくね」
亜姫はママと麗華を何度か交互に見ると、落ち込んだ様子から一転、全身から喜びを溢れさせて笑い「うん!」と頷いた。
そうして麗華はこの街に留まり、今に至る。
「私も、本当は亜姫と同じところへ行きたいと思ってた」
麗華が亜姫の頭を撫でながらそう言うと、亜姫はあの時と同じように全身から喜びを溢れさせて笑い、「うん!」と頷いた。
「え……? 引っ越し……? 麗華、いなくなっちゃうの……?」
愕然とした亜姫から、絞り出すような声が漏れた。
麗華が頷くと、亜姫の顔が徐々に泣きそうに歪んでいく。
「えっ、え……どうして? なんで? だ、だめ、駄目だよ……駄目だよ! 引っ越しなんかしたら!」
言うやいなや亜姫は麗華の手を引き、ぐいぐいと引っ張り歩き出す。
こんなに強引な亜姫も、何かを否定する亜姫も見たことがない。
驚いた麗華がされるがまま後を付いていくと、辿り着いたのはまさかの我が家。
亜姫は迷うことなくインターホンを押し、けれど返事を待つことなく玄関を開け、勢いよく中へ入っていった。
普段はいないママが、その日はたまたま休みで家にいた。だが、麗華が鍵っ子だと知っている亜姫がそんな行動を取るはずがない。そもそも、亜姫が人の家へ勝手に入るなんて有り得ない。だが、勢いに押されて驚く暇など無かった。
麗華は転びそうになりながら靴を脱ぎ、引っ張られるまま後に続く。
そこには、同じように驚くママがいた。
それでも「おかえり」と言ったママの言葉も聞かず、欠かさずする元気いっぱいの挨拶もなく、亜姫は叫んだ。
「引っ越しちゃ駄目!」
荒い息を吐き出しながら、引っ越ししないでとママに頼み込む亜姫。落ち着きなく動く様子から、明らかに冷静さを欠いているとわかる。なのに麗華と繋いだ手だけは、意思を持ったように強く握られたまま離れなかった。
「駄目! おばさん、引っ越さないで! 私、麗華と一緒にいたい。まだ、やりたいことが沢山あるの。約束した事もいっぱいあるのに。ねぇ、行かないで。
わ、私の家に住んでもいいから! 私の部屋をあげるから! だからお願い、麗華を連れて行かないで! いなくなったら嫌だ!」
あまりの勢いに、ママは呆気にとられて突っ立っていた。だが、やがてゆっくりとしゃがみ込むと亜姫と視線を合わせる。
そこで、ようやく亜姫が言葉を止めた。
ママは優しく微笑みながら問いかける。
「亜姫ちゃんは、麗華のことが好き? もっと一緒にいたいと思ってくれてるの?」
亜姫は、静かに頷いた。
そして、動きを止めたことで冷静さを取り戻したようだ。目に涙を浮かべながら、イヤイヤするように首を振る。
「行っちゃ、やだ……でも、ごめんなさい……私、ワガママ言った。こんな事を言ったら、おばさんが困るのに……。
麗華も、ごめんなさい……いま言ったことは、忘れて……」
亜姫は自分の行動をひどく悔いているようだった。しかし一層強く握られた手が、亜姫の本音を如実に表している。
「ママ。私、引っ越しはしたくない」
気づけばそう言っていた。
ママはわかっていると伝えるように頷き、また亜姫と目線を合わせた。
「亜姫ちゃん、これからも麗華をよろしくね」
亜姫はママと麗華を何度か交互に見ると、落ち込んだ様子から一転、全身から喜びを溢れさせて笑い「うん!」と頷いた。
そうして麗華はこの街に留まり、今に至る。
「私も、本当は亜姫と同じところへ行きたいと思ってた」
麗華が亜姫の頭を撫でながらそう言うと、亜姫はあの時と同じように全身から喜びを溢れさせて笑い、「うん!」と頷いた。
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