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高3

手伝いの受難と幸福(11)

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 二人が笑い合っていると、コンコンと扉を叩く音。 
 慌てる亜姫をよそに、和泉はその体を抱き込んだまま離さない。
 
 返事を待たず、入ってきたのは冬夜だった。
 和泉と冬夜が目配せをする。それだけで何を言うでもなく、冬夜はすぐに出ていった。
 
「準備が終わったの? じゃあ、今から……?」
 亜姫は急に現実へ戻された。詳しい内容はわからないが、今のように甘い時間を演出する趣向であることは知っている。
 
 再び胸が締め付けられ、「行かないで」と言うように和泉のシャツを強く握りしめた。
 
 その時、なんだか外が騒々しいと気がついた。
 聞こえてくるのは彼女の声。亜姫が疑問に思っている間も、それはどんどん近づいてくる。
 
「どういうことよ、無しって!……はぁ? もう終わった? 中止じゃなくて?……え? 誰が?
 ……その相手は、私でしょう!? 他の誰としたって言うのよ!」
 金切り声と共に荒々しく扉が開き、飛び込んできたのは怒りを顔に貼り付けた彼女だった。
 
「………カイ、何してるの?」
 彼女は信じられないという顔で立ち止まる。
 
 和泉は何も言わず、離れようと必死な亜姫を殊更強く抱きしめた。
 
「も、しかして……その子と、撮ったっていうの?
 ウソよ、そんなの……納得いかない! そんな子供みたいな……しかも素人じゃない!!
 こっちは仕事しに来てんのよ!? そんなガキより私の方がいいを撮れるに決まってるでしょう!
 せめて私とも撮ってから比較しなさいよ。おかしいじゃない、こんなの有り得ない!」
 
 叫びながら、彼女は詰め寄ってくる。
 
「あんたも何してんのよ、カイから離れなさいよ!
 カイ、ねぇ……今日の撮影は、男女の交わりでしょう? あなたとなら濃厚なベッドシーンでもいい。前も評判良かったじゃない、また二人で……」
 彼女が伸ばした手を、和泉は強く払い除けた。
 
 バシッと大きな音がして、彼女は驚きに目を見開き動きを止める。
 それは亜姫も同様で、部屋の中に静寂が広がった。
 
 そんな中、和泉が冷ややかな目を彼女に向けた。
「触んな。あんたとなんて出来ない」
 
 しばし呆然としていた彼女は、青ざめていた顔を次第に赤く染めていく。
「なぜ……? 前も一緒にしたじゃない、あれがどれだけ評判よかったか知ってるでしょう? だから、今日も私が代わりに呼ばれたのよ……?
 私はこれで仕事してんのよ、演技だって自信ある」
 こんなガキよりも、と彼女は亜姫を睨みつけた。
 
 だが、和泉は無表情で吐き捨てた。
「俺は演技なんか出来ないし、あんたと絡む気はない」
 
「その子は違うとでも言うわけ? でも、こんな子供に男女の絡みなんて」
 彼女がそこまで言ったところで、和泉はゆっくり笑みを浮かべた。
 
 やりとりに唖然としている亜姫の顔を愛おしそうに撫で、頭に軽いキスを落とす。ますます固まってしまった亜姫に笑いかけると優しく抱き込み、それから再び彼女を見た。
「──出来ないと思う?」
 
『人形のようなカイ』が初めて見せた豊かな表情に、彼女は言葉を失った。
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