【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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高3

手伝いの受難と幸福(9)

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 和泉の顔は真剣で、目が逸らせなかった。

 吸い込まれそうなその瞳を見つめながら亜姫が頷くと、彼はようやく表情を和らげた。
 そして亜姫の腰に手を回すとグイッと引き寄せ、自分の膝の上に乗せる。
 
「亜姫。このあと俺は、あいつに触れると思う。
 でも……お前だと思って我慢するから。お前も、少しだけ我慢……してくれる?」

 亜姫の理解を得ようとする問い。なのに、まるで和泉自身に言い聞かせているように聞こえた。
 
 いやだ。
 
 本当は、そう思った。
 いくら演技でも。顔が映らないとしても。
 あの和泉は私だけのものだ。
 一度ならず二度までも、彼女に見せたくなかった。
 あの和泉に触れないでほしい。
 
 でも。
 今、一番苦しいのは和泉だろう。
 
 里佳子の言葉と、見せてもらったあの映像に勇気をもらう。
 
 亜姫は、不安そうな和泉に優しく笑いかけた。
「これは仕事でしょう? 冬夜さん達の為に頑張ろう。大丈夫、ちゃんと信じてる」
 
 和泉は、何かが壊れてしまったのかと心配になるほど長い時間、亜姫の顔を眺めていた。
 それから思い出したように息を吐きだすと、亜姫を優しく抱き寄せて肩口に顔を埋める。
 
「撮影、一回で終わらせたいからさ。練習につきあって」
「いいけど……私、何をするのか知らないよ?」
「俺も全体の流れしか知らない」
「えぇー? それじゃ練習出来ないんじゃない?」
 亜姫は困り顔になった。
 
 和泉は顔を上げると、くすっと笑う。
 そして、脇に置かれていたリングと香水瓶のようなリップを手に取ると亜姫の手に乗せた。
 
「今回、この2つを使うんだって」
「どっちも素敵……」
 両方のデザインに見惚れる亜姫。
 
 和泉はリングを指差す。
「これ、冬夜がデザインしたやつ。俺、これがすごく好き」
「私も好きだなぁ」
 亜姫は壊れ物を扱うようにそっとリングを持ち上げた。角度を変えたりして、惚れ惚れしながら眺めている。
 
「亜姫。それ、俺に嵌めてよ」
 和泉が指を見せると、亜姫は嬉しそうに頷いた。
 彼の手を取り、ゆっくりと中指に嵌めていく。
「ふふっ、なんだか結婚式みたい」
 くすくす笑いながら、亜姫はリングの嵌まった手を丁寧に持ち上げた。
「似合う。これがあるだけで、いつもの手がなんだか色っぽく見えるね」
 亜姫は、愛おしそうに和泉の指を眺めている。
 
 和泉もそんな亜姫を愛しげに見て、今度はリップを手に取った。
「このリップ、色落ちしないんだって。塗ったあと完全に乾かせば、一日塗り直さなくていいらしいよ」
 
 和泉が蓋を開けると、中は淡い桜色だった。亜姫が「可愛い色!」と感嘆の声を上げる。
 
「これ、亜姫にくれるって」
「えっ、私に? こんなに素敵な商品、貰っちゃっていいのかなぁ?」
「いいんだよ。他にも沢山貰えるらしいから、後で麗華達と分ければ?」
「私、ちゃんとしたリップなんて使ったことがない」
 亜姫は、使いこなせるかなぁ……と心配そうだ。
 
「これ、ちょっと俺に塗らせて」
「ええっ、嫌だよ。なんか恥ずかしい」
 亜姫が慌てて取り上げようとするが、和泉はその手をかわし、顎に手を添えて上向かせた。
「駄目。いいから、ほら」
 甘い声で囁きながらリップを近づけると、亜姫は睨みながらも大人しくなった。
 
 その小さな唇を、和泉は丁寧に色づかせていく。
 
 綺麗な桜色は亜姫にとても似合っていた。
 普段は透明の薬用リップだけ。ごく稀に薄く色付くリップを塗るが、すぐ色落ちしてしまう亜姫の唇。
 何も塗らずとも、その唇はいつも瑞々しい林檎のような赤色だ。それが柔らかな桜色に変わるだけで、亜姫の可愛らしさが一層際立った。
 
 もともと艷やかな亜姫の唇がリップの効果で更に艶を増し、化粧っ気のない顔に唯一色づいているそこはやたら色っぽく見えた。
 
「おいしそ……」
 和泉は亜姫の頬に手を添わせ、そのまま吸い込まれるように唇を近づける。しかし触れた先は、亜姫の手の平だった。
 亜姫が手を伸ばして唇を防いでいたからだ。
 
 和泉が不満そうな目を向けると、
「駄目だよ。完全に乾くまで待たなきゃいけないんでしょう?」
 と、亜姫からお叱りの声。

 和泉は渋々、体勢を戻した。
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