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高3
ファミレス(6)
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和泉が席に戻ると、苦笑する健吾と圭介、そしてもの言いたげな亜姫がいた。
彼はその全てを無視して、何事もなかったかのように健吾と交代する。
「和泉……なにをしてるの……」
ジトっとした視線を向けてくる亜姫。しかし、和泉はそれも無視した。
「健吾、圭介。注文、追加してくれない? 沢山金落として帰るって言っちゃったからさ、もっと食って。
今日は俺が奢る」
「マジ? ラッキー」
「カイの奢りなんて初めてなんだけど。高いやつ頼もーっと!」
二人が楽しそうにメニューを開く。それを横目に見ながら、和泉はようやく亜姫を見た。
「女の子にあんな乱暴するなんて。駄目だよ」
亜姫が小さな声で叱ってくる。
あんなことをされても祥子を気遣う姿が、和泉の心に暖かな火を灯していく。
無性に亜姫の温もりが恋しくなり、そっと腰を抱き寄せた。
メニュー表を眺めながら、和泉は小さな声で謝った。
「お前の話、勝手にしちゃってごめんな」
亜姫はしばし無言で、それから小さく首を振る。
「また、守ってもらった。……ありがとう」
亜姫は無傷ではなかったのだから、祥子が言った大半は間違いではない。しかし、和泉は全て無かった事にしてくれた。
いや、そうではない。
あの日は闘い続けた日だと。
勲章を得た日なのだと。
和泉はそう言ってくれたのだ。
亜姫の胸が熱くなる。内側からこみ上げてくるものに押されて、何だか泣きたくなった。
無性に和泉の温もりが恋しくなり、隙間を埋めるように寄りかかった。
二人で、一つのメニュー表を眺める。
「いずみ」
「んー?」
「勲章、って言葉……いいね」
和泉がゆっくりと亜姫を見た。亜姫はメニュー表を眺めたまま、くすくすと笑う。
「傷跡、全部消えちゃったけど……それなら少し残ってたほうが良かったな」
和泉は小さな声で「バーカ」と呟くと、つられたように笑った。
「お前も、もうひとつ頼めよ。残ったらちゃんと食ってやるから。さっき迷ってたやつ、注文しちゃえ」
和泉の優しい言葉に甘え、亜姫はパンケーキを追加した。
それから少しして、「お待たせしました」の声と共に亜姫の前に置かれたもの。
それは、平皿に盛り付けられた美味しそうなパンケーキ。
それを見て、亜姫が息を呑んだ。
メニュー表の写真と違う、チョコで書かれたスマイルマーク。
そして。
『楽しんで帰ってね ごゆっくり また来てください』の文字。
亜姫はしばらくそれを眺めていたが、ゆっくりとフォークを持つと黙って食べ始めた。
黙々と、端から少しずつ口にする。
「美味しい」
一口。
「美味しいね………」
一口。
口に入れたフォークに、ポタッと水滴が落ちる。
亜姫は一旦食べるのをやめ、カバンを漁った。
中からタオルを取り出すと、それを手にまた一口食べる。
フォークに、またポタポタと水滴が落ちる。
次の一口を取ろうと皿にフォークを伸ばし、亜姫は動きを止めた。
タオルを顔にあて、俯く。
「……………っ…………ふ、ぅっ…………………」
タオルを強く握りしめ、亜姫はそこに顔を埋めた。
肩を震わせ、嗚咽が漏れる。
とうとう、食べることが出来なくなった。
誰も、何も言わない。
和泉は肩に手を回し、亜姫の頭を自分の胸に埋めさせる。
そのまま、ただ優しく頭を撫で続けていた。
彼はその全てを無視して、何事もなかったかのように健吾と交代する。
「和泉……なにをしてるの……」
ジトっとした視線を向けてくる亜姫。しかし、和泉はそれも無視した。
「健吾、圭介。注文、追加してくれない? 沢山金落として帰るって言っちゃったからさ、もっと食って。
今日は俺が奢る」
「マジ? ラッキー」
「カイの奢りなんて初めてなんだけど。高いやつ頼もーっと!」
二人が楽しそうにメニューを開く。それを横目に見ながら、和泉はようやく亜姫を見た。
「女の子にあんな乱暴するなんて。駄目だよ」
亜姫が小さな声で叱ってくる。
あんなことをされても祥子を気遣う姿が、和泉の心に暖かな火を灯していく。
無性に亜姫の温もりが恋しくなり、そっと腰を抱き寄せた。
メニュー表を眺めながら、和泉は小さな声で謝った。
「お前の話、勝手にしちゃってごめんな」
亜姫はしばし無言で、それから小さく首を振る。
「また、守ってもらった。……ありがとう」
亜姫は無傷ではなかったのだから、祥子が言った大半は間違いではない。しかし、和泉は全て無かった事にしてくれた。
いや、そうではない。
あの日は闘い続けた日だと。
勲章を得た日なのだと。
和泉はそう言ってくれたのだ。
亜姫の胸が熱くなる。内側からこみ上げてくるものに押されて、何だか泣きたくなった。
無性に和泉の温もりが恋しくなり、隙間を埋めるように寄りかかった。
二人で、一つのメニュー表を眺める。
「いずみ」
「んー?」
「勲章、って言葉……いいね」
和泉がゆっくりと亜姫を見た。亜姫はメニュー表を眺めたまま、くすくすと笑う。
「傷跡、全部消えちゃったけど……それなら少し残ってたほうが良かったな」
和泉は小さな声で「バーカ」と呟くと、つられたように笑った。
「お前も、もうひとつ頼めよ。残ったらちゃんと食ってやるから。さっき迷ってたやつ、注文しちゃえ」
和泉の優しい言葉に甘え、亜姫はパンケーキを追加した。
それから少しして、「お待たせしました」の声と共に亜姫の前に置かれたもの。
それは、平皿に盛り付けられた美味しそうなパンケーキ。
それを見て、亜姫が息を呑んだ。
メニュー表の写真と違う、チョコで書かれたスマイルマーク。
そして。
『楽しんで帰ってね ごゆっくり また来てください』の文字。
亜姫はしばらくそれを眺めていたが、ゆっくりとフォークを持つと黙って食べ始めた。
黙々と、端から少しずつ口にする。
「美味しい」
一口。
「美味しいね………」
一口。
口に入れたフォークに、ポタッと水滴が落ちる。
亜姫は一旦食べるのをやめ、カバンを漁った。
中からタオルを取り出すと、それを手にまた一口食べる。
フォークに、またポタポタと水滴が落ちる。
次の一口を取ろうと皿にフォークを伸ばし、亜姫は動きを止めた。
タオルを顔にあて、俯く。
「……………っ…………ふ、ぅっ…………………」
タオルを強く握りしめ、亜姫はそこに顔を埋めた。
肩を震わせ、嗚咽が漏れる。
とうとう、食べることが出来なくなった。
誰も、何も言わない。
和泉は肩に手を回し、亜姫の頭を自分の胸に埋めさせる。
そのまま、ただ優しく頭を撫で続けていた。
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