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高3
ファミレス(1)
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「おーい、カイ! 亜姫!」
横断歩道の向こう側で健吾と圭介が大きく手を振っている。亜姫は嬉しそうに手を振り返した。
亜姫達は、和泉の家の近くにあるファミレスへ向かっていた。
店へ入れる機会は少しずつ増えている。しかし自分の状態に自信が持てず、注文しても最後までいられるのか店に迷惑をかけたりはしないかと、亜姫はずっと気にしてきた。
その為、これまでは事前精算の店で飲み物だけだったり、何かあっても持ち帰りできるような軽食しか頼んでこなかったのだが。
昨日、不意に亜姫が呟いた。
「美味しいスイーツ、どこかでゆっくり食べたいなぁ」
事件以降そんなことを口にしたのは初めてで、和泉はそれならばとここに連れてきた。
座席が広く背もたれも高いので周囲を遮断できるし、何かあっても自宅へすぐ連れて帰れる。そして何より、スイーツが充実している店だったから。
腹ごしらえに向かっていた健吾達と偶然会い、そのまま四人で入店。
夕方にはまだ早い。そのせいか店内は空いていて、亜姫達は角の奥まった席に座れた。
「うわぁ、美味しそう!」
亜姫がメニュー表を開いて目を輝かせる。
「沢山食えよ。好きなだけ頼め」
「そんなにいっぱいは食べられないよ。
あー、どれにしよう。多すぎて迷っちゃうなぁ」
亜姫は見るからにウキウキして、メニュー表に釘付けだ。穴があきそうなほど見つめ続ける姿に、和泉達が笑う。
「選びきれなかったら別の日に食えばいいだろ。また連れてきてやるから」
和泉がそう言うと、亜姫は嬉しそうに頷いた。
「うわ、本当だ。新作、いっぱい出てる!」
「圭介も甘いの好きだもんな」
「お腹いっぱいになっても残りは圭介が食ってくれるから。今日は二品ぐらい頼んじゃえ」
後押しされて迷いに迷ったが、亜姫は大きめのパフェを一つだけ注文した。
注文を終えたところで亜姫が洗面所へと立ち上がる。と、入口を見た健吾がそれを静止した。
「動くな。……祥子がいる」
亜姫の肩がビクッと揺れた。和泉が亜姫を座らせながら抱き寄せ、大丈夫だと言うように肩を撫でる。
亜姫は、自身を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸した。
彼らが座る席から少し後方に、祥子と千葉が座ったようだ。
けれど、席についてしまえば周りは見えにくくなる。祥子達が席についたことを確認してから亜姫は席を立った。
だが、亜姫が洗面所に入ると同時に祥子がやってきた。
姿を見ても驚いた素振りはなく、気づいた上でやって来たのだと和泉は確信。扉の手前にもたれかかり、無言で祥子を見据える。
「あれ? 和泉、久しぶり。元気だった?」
和泉は答えなかった。けれど祥子は気にせず、前を通り過ぎようとする。
和泉は手を伸ばし、その進路を塞いだ。そのまま押し返すようにして扉の前へ立ちはだかると、冷たい視線で一言告げる。
「使用中」
祥子の顔が一瞬、醜く歪む。しかし彼女は即座に表情を戻し、爽やかな笑顔を見せた。
「何? どいてよ」
無理やり通ろうとする祥子の腕を和泉が力強く引き、扉から引き離す。
和泉の顔と遠くなった扉を交互に見て、しばし唖然としていた祥子。だが、徐々にその顔を歪めていく。
「……そんなに、大事なわけ?」
唇を震わせながら祥子が呟くも、和泉は顔色ひとつ変えずに無視した。
そこへガチャリと音を立てて亜姫が出てくる。
祥子の姿を見ると一瞬動きを止めたが、すぐに笑みを浮かべて会釈。
そんな亜姫に、和泉が柔らかい笑みを向けた。
祥子を遮断するような位置に立ち、その体を守るよう回される和泉の手。
それを見た祥子はギリッと歯ぎしりする。
「待ちなさいよ」
小さく呟く声が聞こえたが、二人は振り返らなかった。
横断歩道の向こう側で健吾と圭介が大きく手を振っている。亜姫は嬉しそうに手を振り返した。
亜姫達は、和泉の家の近くにあるファミレスへ向かっていた。
店へ入れる機会は少しずつ増えている。しかし自分の状態に自信が持てず、注文しても最後までいられるのか店に迷惑をかけたりはしないかと、亜姫はずっと気にしてきた。
その為、これまでは事前精算の店で飲み物だけだったり、何かあっても持ち帰りできるような軽食しか頼んでこなかったのだが。
昨日、不意に亜姫が呟いた。
「美味しいスイーツ、どこかでゆっくり食べたいなぁ」
事件以降そんなことを口にしたのは初めてで、和泉はそれならばとここに連れてきた。
座席が広く背もたれも高いので周囲を遮断できるし、何かあっても自宅へすぐ連れて帰れる。そして何より、スイーツが充実している店だったから。
腹ごしらえに向かっていた健吾達と偶然会い、そのまま四人で入店。
夕方にはまだ早い。そのせいか店内は空いていて、亜姫達は角の奥まった席に座れた。
「うわぁ、美味しそう!」
亜姫がメニュー表を開いて目を輝かせる。
「沢山食えよ。好きなだけ頼め」
「そんなにいっぱいは食べられないよ。
あー、どれにしよう。多すぎて迷っちゃうなぁ」
亜姫は見るからにウキウキして、メニュー表に釘付けだ。穴があきそうなほど見つめ続ける姿に、和泉達が笑う。
「選びきれなかったら別の日に食えばいいだろ。また連れてきてやるから」
和泉がそう言うと、亜姫は嬉しそうに頷いた。
「うわ、本当だ。新作、いっぱい出てる!」
「圭介も甘いの好きだもんな」
「お腹いっぱいになっても残りは圭介が食ってくれるから。今日は二品ぐらい頼んじゃえ」
後押しされて迷いに迷ったが、亜姫は大きめのパフェを一つだけ注文した。
注文を終えたところで亜姫が洗面所へと立ち上がる。と、入口を見た健吾がそれを静止した。
「動くな。……祥子がいる」
亜姫の肩がビクッと揺れた。和泉が亜姫を座らせながら抱き寄せ、大丈夫だと言うように肩を撫でる。
亜姫は、自身を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸した。
彼らが座る席から少し後方に、祥子と千葉が座ったようだ。
けれど、席についてしまえば周りは見えにくくなる。祥子達が席についたことを確認してから亜姫は席を立った。
だが、亜姫が洗面所に入ると同時に祥子がやってきた。
姿を見ても驚いた素振りはなく、気づいた上でやって来たのだと和泉は確信。扉の手前にもたれかかり、無言で祥子を見据える。
「あれ? 和泉、久しぶり。元気だった?」
和泉は答えなかった。けれど祥子は気にせず、前を通り過ぎようとする。
和泉は手を伸ばし、その進路を塞いだ。そのまま押し返すようにして扉の前へ立ちはだかると、冷たい視線で一言告げる。
「使用中」
祥子の顔が一瞬、醜く歪む。しかし彼女は即座に表情を戻し、爽やかな笑顔を見せた。
「何? どいてよ」
無理やり通ろうとする祥子の腕を和泉が力強く引き、扉から引き離す。
和泉の顔と遠くなった扉を交互に見て、しばし唖然としていた祥子。だが、徐々にその顔を歪めていく。
「……そんなに、大事なわけ?」
唇を震わせながら祥子が呟くも、和泉は顔色ひとつ変えずに無視した。
そこへガチャリと音を立てて亜姫が出てくる。
祥子の姿を見ると一瞬動きを止めたが、すぐに笑みを浮かべて会釈。
そんな亜姫に、和泉が柔らかい笑みを向けた。
祥子を遮断するような位置に立ち、その体を守るよう回される和泉の手。
それを見た祥子はギリッと歯ぎしりする。
「待ちなさいよ」
小さく呟く声が聞こえたが、二人は振り返らなかった。
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