【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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高3

亜姫の好きなタイプ(1)

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 アトリエからの帰り道、和泉はそういえばと思い出した。
「なぁ、亜姫ってカナデみたいな男が好みだったの?
 俺の見た目に興味無さそうなのは、お前のタイプじゃなかったから?」
 
 自分の外見を忌避する気持ちは今もある。しかし一般的に見れば恵まれた造りをしている自覚ぐらいはあるし、これを望む奴らが山程いることも嫌というほど知っている。
 
 だが、思い返してみれば……「その顔が好き」と言われたことはあったが、それは表情のことを指していた。それだってほんの数回限りで、亜姫からは外見について称賛の声を貰ったことがない。
 
 だからこそ、心地良かったのだが。
 
 なのに、あんな言葉を聞いてしまうと……不思議なことに亜姫にだけは褒められたいし好まれたいと望んでしまう。
 
 亜姫は問いに答えず俯いた。
 
 あぁ、これは当たりか。可愛い男が好みなら自分にその要素はゼロだろう、こればかりはどうしようもない。
 和泉が凹む気持ちに蓋をしようとした時。
 
「……ってる」
「え?」
 和泉が亜姫の顔を覗き込むと、何故か赤い。思わず歩みを止めて名を呼ぶと。
 
「別に、普通に……イイな、と思う時は……ある、ょ……」
 囁くような声に心臓がギュンと収縮して、一瞬息が止まった。
 
 亜姫の肩を抱く手に思わず力が入る。と、亜姫が不機嫌そうな顔でチラッとこちらを見た。
 
「執事服、とか、すごくカッ……よかったし……体育とか、だって……普通に、私服も……だし。
 それに、カワ……と……だって、でも……だから言わない……けで……」
 なにやら呟いているが、小さな声でゴニョゴニョ言っていて聞き取りづらい。
 
 亜姫は素直で誠実なたちなので、何か問われれば必ず答えるし、返答を嫌がることはない。
 その時の心情を正直に告げ、それに対して誰に何を思われるかなんて気にすることはない。言葉選びに迷うことはあれど、伝える内容に躊躇することはない。
 
 だが「和泉が好き」という事に関してだけは固く蓋をして隠そうとするし、怒ったような態度で言いたくないと主張してくる。
 なので、こうして言い淀みながら聞かされる言葉は、本当は言いたくないけれど問いには答えようとする亜姫の誠実さから出てきたもので……つまり、紛れもない亜姫の本心。
 
 体育とか私服とか、って……亜姫も日頃から見てくれてたのか……。
 見ているのは自分ばかりかと思っていた。

 いつもみたいに逆ギレして誤魔化せばよかったのに、どうやら本人の意志に反して本音を漏らしてしまったようだ。
 視線を彷徨わせながらあたふたしている様子が、より奥底にしまわれていた本音だと証明している。
 
 和泉の中で、歓喜の花火が一斉に打ち上がった。
 体が猛烈な勢いで熱くなってくる。

 呆けたまま目の前の顔を眺めていたら、亜姫が下から腕を伸ばして顎を横に向けようとする。
「こっち、見ないで……っ! もうっ、別にいいでしょうっ!」
 ググッと力を入れてくるその腕を掴んで外し、和泉はその顔を間近から覗きこんだ。
「亜姫……? お前の好きなタイプってどんな奴?」
「ない! だから、そんなのわからないから!」
「でも、あいつの顔は好きなんだろ?」
「カナちゃんは……だって、可愛いもん。麗華達と、同じ、だし………」
 
 ふうん? と言うと、亜姫はまた言葉に詰まり黙り込む。しかし顔は赤いまま。
 和泉は舞い上がりそうな気持ちを抑え、更に尋ねた。
「ヒロや戸塚は? 先輩、野口……その中ならどれが好みなの? 普段から好き好き言ってる先輩は、顔も好きだった?」
「そりゃ、先輩のことは好きだけど……」
「けど?」
「……うるさいな! 全員同じだから! 皆好き! どれもタイプ! はい、終わり! 終了!!」
 話を終わらせて歩き出そうとした亜姫の腰に、和泉はスルッと両腕を回して引き寄せる。
「皆、ってことは、俺も?」
「えっ?」
「俺の顔も好きなの?」
 
 甘さを乗せた声で「あーき?」と尋ねると、亜姫の顔は茹でダコのように真っ赤になった。
 
「俺のこと、可愛くないって言ってたよな?
 ……じゃあ、どう思ってんの? なぁ、教えてくれない……?」
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