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高3
八木橋くんとカナデさん(5)
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亜姫が驚いた顔を向けると、八木橋は困ったように眉を下げる。
「もし、僕が何かしちゃってたなら教えてほしい。
でも、そうではなくて、僕自体が苦手だというのなら……他の人と代えてもらおうか。準備期間は意外と長いんだ、こうやって二人で動くことはこの先もあるだろうし、無理して一緒にいても楽しくないでしょう?」
真っ直ぐ見つめてくる八木橋からは、誠意が感じられた。
亜姫はいたたまれない気持ちでいっぱいになる。
彼は何も悪くない。なのに彼を不快にさせるだけでなく、こんなことまで言わせてしまうなんて。
「違う……あの、あのね」
今いる廊下には誰もいない。しかし少し後ろには階段がある。
万が一人が来ても大丈夫なように、亜姫はまず、そうっと壁に背中をつけた。
その様子を、八木橋は無言でじっと見つめている。
「八木橋君は悪くない。嫌な思いをさせてごめんなさい。
あの……その、私……男の人、が少し苦手で……あの、和泉とかヒロ達みたいに大丈夫な人もいるんだけど。
えっと、その……事情、もしかしたら、知ってるかもしれないんだけど……えーと……だから隣とかが、その」
何をどう説明したらいいのか、緊張に包まれた亜姫は混乱していてうまく話せない。しかし、『事情』という言葉に八木橋が反応した。
「あ……」と言葉を漏らしたあと、彼は困り果てた様子で頭をかく。
「ごめん、僕が気遣うべきだった」
「違う! ごめんね、違うよ謝らないで!」
そのまま二人で数回謝りあい、しばし無言になったあと、顔を見合わせて笑いあう。
「じゃあ……僕自身が嫌がられてるわけではない、の、かな?」
「ないよ! ない! むしろ、裁縫得意だって聞いてカナデさんみたいな作品が作れるかも……って」
「えっ?」
驚きに目を見張る八木橋に、亜姫は慌てて言い直す。
「なんでもない、余計な話だった。……ごめんなさい。
八木橋君が裁縫得意だって聞いて、教わるの楽しみにしてたんだ」
嬉しそうに笑う亜姫を見て、八木橋はホッとしたように息を吐いた。
「じゃあ……まず、話をしようか」
突然の提案に、亜姫は首を傾げる。
「男が苦手な理由は、少しだけ聞いてる。噂程度に、だけど……」
「そっか」
亜姫が困ったように笑い返すと、八木橋は真面目な顔で亜姫を見つめる。
「橘さんが駄目なこととか、逆に大丈夫なこと。良ければ教えてもらえる? 仕事する上でのルール作り、してみようよ」
そして、場所を移動しようと提案する。
「こんなところじゃ誰に聞かれるかわからないし、聞かせるような話でもないでしょう?
かと言って、二人きりになるのも怖いよね。そもそも僕達がまともに会話するのは初めてで、どんな奴かわからないのに信用も出来ないだろうから……。そうだな、まず、移動する時に気をつけることを教えてもらえる?
隣に立たないことと……背中? に、何かある、のかな? 移動出来そう? それとも誰かを呼ぶ?」
嫌な思いをしたはずなのに、八木橋は亜姫への気遣いに終始する。
亜姫はますます申し訳無さを募らせた。
消えない恐怖心に鞭を打ち、今までの歩き方で大丈夫だと伝えると。
八木橋は少し思案して、校庭脇のベンチを指定した。
壁際に置かれた椅子の背後に人が迫ることはない。そこは四人掛けの大きさで、くっつかずとも座れる上に校舎からもよく見える。
校庭で作業する生徒もいる為、二人きりでも閉鎖的な空間でもない。
だが端に位置するだけあって声は聞かれず、ノートを膝の上にでも置いておけば傍からは文化祭の相談をしているように見えるだろう、と。
亜姫はその申し出を了承し、先程と同じように少し後ろについてそこへ向かった。
「もし、僕が何かしちゃってたなら教えてほしい。
でも、そうではなくて、僕自体が苦手だというのなら……他の人と代えてもらおうか。準備期間は意外と長いんだ、こうやって二人で動くことはこの先もあるだろうし、無理して一緒にいても楽しくないでしょう?」
真っ直ぐ見つめてくる八木橋からは、誠意が感じられた。
亜姫はいたたまれない気持ちでいっぱいになる。
彼は何も悪くない。なのに彼を不快にさせるだけでなく、こんなことまで言わせてしまうなんて。
「違う……あの、あのね」
今いる廊下には誰もいない。しかし少し後ろには階段がある。
万が一人が来ても大丈夫なように、亜姫はまず、そうっと壁に背中をつけた。
その様子を、八木橋は無言でじっと見つめている。
「八木橋君は悪くない。嫌な思いをさせてごめんなさい。
あの……その、私……男の人、が少し苦手で……あの、和泉とかヒロ達みたいに大丈夫な人もいるんだけど。
えっと、その……事情、もしかしたら、知ってるかもしれないんだけど……えーと……だから隣とかが、その」
何をどう説明したらいいのか、緊張に包まれた亜姫は混乱していてうまく話せない。しかし、『事情』という言葉に八木橋が反応した。
「あ……」と言葉を漏らしたあと、彼は困り果てた様子で頭をかく。
「ごめん、僕が気遣うべきだった」
「違う! ごめんね、違うよ謝らないで!」
そのまま二人で数回謝りあい、しばし無言になったあと、顔を見合わせて笑いあう。
「じゃあ……僕自身が嫌がられてるわけではない、の、かな?」
「ないよ! ない! むしろ、裁縫得意だって聞いてカナデさんみたいな作品が作れるかも……って」
「えっ?」
驚きに目を見張る八木橋に、亜姫は慌てて言い直す。
「なんでもない、余計な話だった。……ごめんなさい。
八木橋君が裁縫得意だって聞いて、教わるの楽しみにしてたんだ」
嬉しそうに笑う亜姫を見て、八木橋はホッとしたように息を吐いた。
「じゃあ……まず、話をしようか」
突然の提案に、亜姫は首を傾げる。
「男が苦手な理由は、少しだけ聞いてる。噂程度に、だけど……」
「そっか」
亜姫が困ったように笑い返すと、八木橋は真面目な顔で亜姫を見つめる。
「橘さんが駄目なこととか、逆に大丈夫なこと。良ければ教えてもらえる? 仕事する上でのルール作り、してみようよ」
そして、場所を移動しようと提案する。
「こんなところじゃ誰に聞かれるかわからないし、聞かせるような話でもないでしょう?
かと言って、二人きりになるのも怖いよね。そもそも僕達がまともに会話するのは初めてで、どんな奴かわからないのに信用も出来ないだろうから……。そうだな、まず、移動する時に気をつけることを教えてもらえる?
隣に立たないことと……背中? に、何かある、のかな? 移動出来そう? それとも誰かを呼ぶ?」
嫌な思いをしたはずなのに、八木橋は亜姫への気遣いに終始する。
亜姫はますます申し訳無さを募らせた。
消えない恐怖心に鞭を打ち、今までの歩き方で大丈夫だと伝えると。
八木橋は少し思案して、校庭脇のベンチを指定した。
壁際に置かれた椅子の背後に人が迫ることはない。そこは四人掛けの大きさで、くっつかずとも座れる上に校舎からもよく見える。
校庭で作業する生徒もいる為、二人きりでも閉鎖的な空間でもない。
だが端に位置するだけあって声は聞かれず、ノートを膝の上にでも置いておけば傍からは文化祭の相談をしているように見えるだろう、と。
亜姫はその申し出を了承し、先程と同じように少し後ろについてそこへ向かった。
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