【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

文字の大きさ
上 下
236 / 364
高3

八木橋くんとカナデさん(3)

しおりを挟む
「このまま、やってみようかな」
 
 全員が絶句して動きを止めた。それがなんだかおかしくて亜姫は笑う。
 
「今、委員長から連絡もらった。
 八木橋君……家の事や裁縫が得意なことは、事情があるらしくて隠してるんだって。係を引き受けるのもかなり渋ってたみたいなの。ペア組む子とか、色々条件付きでようやく了承してくれたみたい。
 色んなペアを考える中でね、私がこういうのに興味があることも委員長は知ってたから……それもふまえて、作るのも教えるのも上手な八木橋君とわざわざ組んでくれたんだって。
 誰にでも頼めるわけじゃないから、色々頼むねって………」

 嬉しさと困惑を混ぜたような顔で、亜姫は微笑みながらも眉を下げる。

「あの事件があった頃、八木橋君は隣の席だった。でも、特に問題がなかったというか。
 不用意に近づかれたりはしなかったし、どちらかというと良い印象の人。
 もともと、人とあまり関わらないよね。いつも静かに本を読んだりしてない?」
 
「でも、男だ」
 言い聞かせるように、和泉が静かに伝えてくる。
 
 亜姫は小さく頷く。
「わかってる。だけど、八木橋君に何かをされたわけじゃない。
 委員長も八木橋君も、沢山考えて決めてくれてたんだもの。なのに私だけ、それも『相手が男の人だから出来ません』なんて……ただそれだけの理由で決め直してくれなんて言えないよ。
 八木橋君だって、何もしてないのにそんなこと言われたらいい気はしないでしょう?
 ペアって言っても、基本的にまとまって同じ場所で作業するんだよね? それなら問題なく出来るかもしれないし。
 それに……いつまでも今のままではいられない」
 
「亜姫。無理はしないって決めただろ」
 和泉は厳しい顔で、引き止めるように亜姫の腕を掴む。
 
 困ったような笑みを浮かべたまま、亜姫はその顔を見上げた。

「うん、無理はしない。怖いと思う気持ちは誤魔化さないし隠さない。皆にちゃんと言う。八木橋君にも、その時はちゃんと伝える。必要ならペアも変えてもらうよう相談する。
 でも、でもね。もしかしたら……私のやりたいことが出来るだけじゃなくて、日常が戻る一つのキッカケになるかもしれない。
 和泉がいない状態でこういうのをしたことがないから、今はなんとも言えないけど。一度、やってみて……それから決めたい」
 お願いするように皆の顔を見回すと、揃って大きな溜息が帰ってきた。
 
「亜姫が言い出したら聞かないのは今更か」
「まあ、しばらくは私も沙世莉も一緒だしね。様子見しましょ」
「和泉、お前もやること沢山あんだからな。王子役免除してやったんだから、その分働けよ?」
「和泉。サボるようなら戸塚と交代させるからね。無駄に八木橋の邪魔しに行くのはやめてよ?」
 
 やりかねないと皆が笑う中、和泉はひとり不満を隠さず不貞腐れていた。
 
 その様子から、心配しているのが痛いほど伝わってくる。
 その気持ちをすくうように、亜姫は机の下で和泉の手を握った。

 和泉は何も言わなかったが、その手を強く握って離さなかった。
 

 
 そして翌日、班ごとの仕事が始まった。
 大道具係は買い出しに、他の係も各自出払っていく。
 
 亜姫達は早速ペアで仕事を始めることになった。
 それぞれが作る物は決まっているので、まず材料を用意しなければならない。細かい内容はそれぞれに一任されており、ペアで動けと指示が出る。
 
 いきなり、困ったことになってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

青春残酷物語~鬼コーチと秘密の「****」~

厄色亭・至宙
青春
バレーボールに打ち込む女子高生の森真由美。 しかし怪我で状況は一変して退学の危機に。 そこで手を差し伸べたのが鬼コーチの斎藤俊だった。 しかし彼にはある秘めた魂胆があった… 真由美の清純な身体に斎藤の魔の手が?…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...