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高3
八木橋くんとカナデさん(2)
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あれから。
ウキウキで係決めに臨んだ亜姫は、希望通り裁縫係に決定した。和泉達も揃って大道具係に決まる。
三年はクラスごとに劇をやると決まっていて、その場で演目と配役も決められた。
今だ本調子でない亜姫は、迷惑をかけないように裏方専門だ。
王子役は和泉でと相当揉めたが、そもそもこれ以上目立ちたくない上に亜姫が相手じゃないのなら尚更やるわけがない。
だが、和泉を出す為に亜姫が強引に姫役に据えられる可能性がある。今の亜姫には到底無理なことなので、万が一にもそんなことにならないよう和泉はキレ気味に断固拒否、代わりに戸塚が引き受けた。そして姫役には麗華が据えられる。
それに気を緩めた和泉は、亜姫が裁縫係に決まったことにすっかり安心。係の話し合いへと別室へ移動した。
そして、裁縫係も細かい取り決めの為に集められる。
そこで、まず麗華が「主役は時間がないから」と担当から外された。出来る時に人手が足りない班を手伝うよう伝えられる。
亜姫は沙世莉と小物係。そこから二人組の作業班を編成することに。
その班決め直前、沙世莉が部活の用事で呼び出しを受け席を外す。
亜姫は小物係に決まったことで、裁縫の得意な子達から色々教われると楽しい妄想に気を取られてしまい。
気がついた時には、既に班分けが決まっていた。
これが問題だった。
裁縫が得意な子とそうでない子、相性の悪い子等様々な点を配慮した結果、亜姫と沙世莉は別の子と組むことに。
班分けされたところで今日は解散となったのだが、沙世莉が戻ってきたのはその後で、今更変えるわけにはいかない状況だった。
この日に限って山本が不在だった為、フォローに入る人がいなかったのも不運だった。
だが何よりも厄介だったのは亜姫の相手だ。
「なんで男がいるの? 女だけじゃなかったのかよ?
亜姫も。なんでそんな時までボケッとしてんだ」
怒りを纏った和泉は今にも机を蹴り出しそうだ。それを横目に沙世莉が言う。
「八木橋んちはさ、隣県で雑貨屋を営んでるんだって。家はこっちだから八木橋んちが経営してるとは知られてないけど。
で、これは八木橋が極秘にしてるみたいなんだけど……実は、親がかなり有名な小物作りの作家さんらしい。
八木橋自身も、実は裁縫の腕前が相当らしく。それをたまたま知ってた委員長が、前々から裁縫係に勧誘してたみたい。
八木橋の希望も聞くし、親が服飾系の職業だから頼れるってことにして、都合が悪いところは誤魔化すからどうしてもやってほしいって散々頼み込んだんだって」
「そんなことはどうでもいい。なんでよりによって亜姫と組ませるのか、って話をしてんだよ。
亜姫、お前はどーするつもり? 誰かと変えてもらうか? 八木橋、今日は休みだったけど……お前、あいつとまともに話をしたことあったっけ?」
「うーん……会話、というほどでは、ないかなぁ」
亜姫が困ったように笑う。
ペアを変えるべきだと皆が話す中で、亜姫は何度か鳴る自分の携帯に目を向けていた。
それを見ながらしばらく考えこんでいたが、やがて覚悟を決めたように皆を見渡す。
「このまま、やってみようかな」
ウキウキで係決めに臨んだ亜姫は、希望通り裁縫係に決定した。和泉達も揃って大道具係に決まる。
三年はクラスごとに劇をやると決まっていて、その場で演目と配役も決められた。
今だ本調子でない亜姫は、迷惑をかけないように裏方専門だ。
王子役は和泉でと相当揉めたが、そもそもこれ以上目立ちたくない上に亜姫が相手じゃないのなら尚更やるわけがない。
だが、和泉を出す為に亜姫が強引に姫役に据えられる可能性がある。今の亜姫には到底無理なことなので、万が一にもそんなことにならないよう和泉はキレ気味に断固拒否、代わりに戸塚が引き受けた。そして姫役には麗華が据えられる。
それに気を緩めた和泉は、亜姫が裁縫係に決まったことにすっかり安心。係の話し合いへと別室へ移動した。
そして、裁縫係も細かい取り決めの為に集められる。
そこで、まず麗華が「主役は時間がないから」と担当から外された。出来る時に人手が足りない班を手伝うよう伝えられる。
亜姫は沙世莉と小物係。そこから二人組の作業班を編成することに。
その班決め直前、沙世莉が部活の用事で呼び出しを受け席を外す。
亜姫は小物係に決まったことで、裁縫の得意な子達から色々教われると楽しい妄想に気を取られてしまい。
気がついた時には、既に班分けが決まっていた。
これが問題だった。
裁縫が得意な子とそうでない子、相性の悪い子等様々な点を配慮した結果、亜姫と沙世莉は別の子と組むことに。
班分けされたところで今日は解散となったのだが、沙世莉が戻ってきたのはその後で、今更変えるわけにはいかない状況だった。
この日に限って山本が不在だった為、フォローに入る人がいなかったのも不運だった。
だが何よりも厄介だったのは亜姫の相手だ。
「なんで男がいるの? 女だけじゃなかったのかよ?
亜姫も。なんでそんな時までボケッとしてんだ」
怒りを纏った和泉は今にも机を蹴り出しそうだ。それを横目に沙世莉が言う。
「八木橋んちはさ、隣県で雑貨屋を営んでるんだって。家はこっちだから八木橋んちが経営してるとは知られてないけど。
で、これは八木橋が極秘にしてるみたいなんだけど……実は、親がかなり有名な小物作りの作家さんらしい。
八木橋自身も、実は裁縫の腕前が相当らしく。それをたまたま知ってた委員長が、前々から裁縫係に勧誘してたみたい。
八木橋の希望も聞くし、親が服飾系の職業だから頼れるってことにして、都合が悪いところは誤魔化すからどうしてもやってほしいって散々頼み込んだんだって」
「そんなことはどうでもいい。なんでよりによって亜姫と組ませるのか、って話をしてんだよ。
亜姫、お前はどーするつもり? 誰かと変えてもらうか? 八木橋、今日は休みだったけど……お前、あいつとまともに話をしたことあったっけ?」
「うーん……会話、というほどでは、ないかなぁ」
亜姫が困ったように笑う。
ペアを変えるべきだと皆が話す中で、亜姫は何度か鳴る自分の携帯に目を向けていた。
それを見ながらしばらく考えこんでいたが、やがて覚悟を決めたように皆を見渡す。
「このまま、やってみようかな」
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