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高3
あんず飴とジャガバター(6)
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皆の元へ戻ると、亜姫は麻美に引っ張られ、シートの端で肩を寄せ合ってジャガバターを食べ始めた。
その隙に、和泉は健吾達へ話をした。
祥子の悪意はとてもじゃないが見逃せるものではない。今日の様子で、噂を流しているのは祥子だと確信した。
「千葉達もさすがに犯罪行為はしないだろうから、最初から脅すだけだったのかもな」
「亜姫を痛めつけたかったのか、もしくは別の噂の材料にしたかったのか……」
「カイへの執着は知ってたけど……さすがにコレはないわ」
「でも、全く相手にされてないのは自覚してたはずだろ? だから遠ざけられないように、友達ヅラして外堀を固めてたんだし」
「最初はああじゃなかったのになぁ。いい奴だと思ってたのに」
祥子は男っぽくサバサバした女だった。
和泉にとって、女とは欲や気持ちを一方的にぶつけてくるただ鬱陶しいだけの存在。「女」を感じさせる存在は面倒なだけで不快感しかない。
だが祥子は男友達のような付き合いが出来る子で、麻美と同じく「女」を感じさせない数少ない女子だった。
と言っても和泉が祥子と口を利くわけではなく、鬱陶しい擦り寄りがないというだけだが。
それでも、和泉の周りに日常的にいた女子は、亜姫を除けば後にも先にもこの二人だけだったと言える。
麻美は好き嫌いが激しいが、祥子とは気が合っていたようだ。気がつけば、幼馴染みの中に当たり前のように祥子の姿があった。
だが和泉は気にも止めていなかった。圭介達は基本的に来る者拒まずな性格で誰がいようと変わらなかったし、和泉にとって祥子など心底どうでもいい存在だったから。
けれど、祥子はそうではなかった。
綻びが見え始めたのは、麻美の一言だ。
「あの子、何かおかしい」
その頃から歯車が狂い出した。
本来の祥子は、異常とも言える執着や思い込みが強い、ひどく攻撃的な性格の持ち主だった。
麻美達と仲良くなったのも、全ては和泉を手に入れる為の計算だった事が発覚。
彼らの性格等を細かく把握した上で実に用意周到に動き、気がつけば本人達の知らぬところで、祥子は和泉の仲間から公認された彼女だと言うことになっていた。
そして、和泉に好意を寄せた女を片っ端から卑怯な手で貶めていた。
ご丁寧に、その全ては「和泉の希望」で行われたと思わせて。
皮肉なことだが、そのおかげで近づく女の数が減り、和泉は一時的に穏やかな日々を過ごせていた。実際は、その代わりに祥子がそばに居座っていたのだが。
祥子はそういった動きを皆に一切感づかせず、和泉も全てに無関心だったので祥子のしていることには全く気づかなかった。
しかし、祥子が言葉の端々に滲ませ始めた和泉への独占欲から麻美達が知ることとなり、和泉を大事に思う彼らが彼女を遠ざけた事で関係に終止符が打たれた。
和泉はその全てに興味が無かったので、こうした変化に見向きもしない。
そんな和泉の性格を、離れてすら狡猾に利用しようとしていたのか、ただ単に図々しい性格だったのか……関係を絶たれたにも関わらず、祥子は何事も無かったかのように離れた場所から同じことを繰り返し、変わらず和泉にだけは近づいて「和泉を一番理解し、最も近しい女は自分」だと周囲にアピールし続けた。
独りよがりな祥子の信用は低く、話を信じない者もいたが、彼女は自身の心証の悪さすら利用した。
ろくに喋らない和泉への話し方を計算し尽くし、祥子とだけは親しげに話しているように見せかけたのだ。
「あまりにおかしかったから、俺らも完全に縁を切ったわけだけど」
「昔より思い込みが悪化してんじゃねえか? カイ、祥子と会ったりした?」
「いや、全く。今日久々に見たし、存在すら忘れてた。そんな話も、全然知らなかった」
「だろうな」
「おい、マジかよ。あの頃、お前のせいで俺ら結構大変だったんだけど?」
「麻美にも怒られたばっかだろ。カイ、本当にしっかりしろよ?」
「で? 久々の再会であの態度? 亜姫にカイを取られたと思ってんの? まだ同じことをやり続けてるとしたら、完全に狂ってる……」
「でもさ、祥子はとっくに千葉とつきあってるんじゃないの?」
「付き合ってねーよ。千葉が昔から惚れてて、ずっとひっついてるだけ。祥子がカイしか見てないの知ってて……千葉も報われねぇよなぁ」
「お前らの色んな噂も、大元は祥子だろうな。
どんな理由があったとしてもさすがに笑えねーよ、ここまでくると」
今までは和泉自身が不問にしていた為、遠ざけただけで静観してきたが。次からはもう容赦しない。
もちろん、亜姫に知らせるつもりはない。
話のついでに、亜姫はもう大丈夫そうだと報告する。その内容に爆笑した彼らは、麻美と笑い合う亜姫を優しく見つめた。
「守ってやろうな」
「あぁ、もう傷つけさせねぇよ。二度と祥子の思い通りにはさせない」
その隙に、和泉は健吾達へ話をした。
祥子の悪意はとてもじゃないが見逃せるものではない。今日の様子で、噂を流しているのは祥子だと確信した。
「千葉達もさすがに犯罪行為はしないだろうから、最初から脅すだけだったのかもな」
「亜姫を痛めつけたかったのか、もしくは別の噂の材料にしたかったのか……」
「カイへの執着は知ってたけど……さすがにコレはないわ」
「でも、全く相手にされてないのは自覚してたはずだろ? だから遠ざけられないように、友達ヅラして外堀を固めてたんだし」
「最初はああじゃなかったのになぁ。いい奴だと思ってたのに」
祥子は男っぽくサバサバした女だった。
和泉にとって、女とは欲や気持ちを一方的にぶつけてくるただ鬱陶しいだけの存在。「女」を感じさせる存在は面倒なだけで不快感しかない。
だが祥子は男友達のような付き合いが出来る子で、麻美と同じく「女」を感じさせない数少ない女子だった。
と言っても和泉が祥子と口を利くわけではなく、鬱陶しい擦り寄りがないというだけだが。
それでも、和泉の周りに日常的にいた女子は、亜姫を除けば後にも先にもこの二人だけだったと言える。
麻美は好き嫌いが激しいが、祥子とは気が合っていたようだ。気がつけば、幼馴染みの中に当たり前のように祥子の姿があった。
だが和泉は気にも止めていなかった。圭介達は基本的に来る者拒まずな性格で誰がいようと変わらなかったし、和泉にとって祥子など心底どうでもいい存在だったから。
けれど、祥子はそうではなかった。
綻びが見え始めたのは、麻美の一言だ。
「あの子、何かおかしい」
その頃から歯車が狂い出した。
本来の祥子は、異常とも言える執着や思い込みが強い、ひどく攻撃的な性格の持ち主だった。
麻美達と仲良くなったのも、全ては和泉を手に入れる為の計算だった事が発覚。
彼らの性格等を細かく把握した上で実に用意周到に動き、気がつけば本人達の知らぬところで、祥子は和泉の仲間から公認された彼女だと言うことになっていた。
そして、和泉に好意を寄せた女を片っ端から卑怯な手で貶めていた。
ご丁寧に、その全ては「和泉の希望」で行われたと思わせて。
皮肉なことだが、そのおかげで近づく女の数が減り、和泉は一時的に穏やかな日々を過ごせていた。実際は、その代わりに祥子がそばに居座っていたのだが。
祥子はそういった動きを皆に一切感づかせず、和泉も全てに無関心だったので祥子のしていることには全く気づかなかった。
しかし、祥子が言葉の端々に滲ませ始めた和泉への独占欲から麻美達が知ることとなり、和泉を大事に思う彼らが彼女を遠ざけた事で関係に終止符が打たれた。
和泉はその全てに興味が無かったので、こうした変化に見向きもしない。
そんな和泉の性格を、離れてすら狡猾に利用しようとしていたのか、ただ単に図々しい性格だったのか……関係を絶たれたにも関わらず、祥子は何事も無かったかのように離れた場所から同じことを繰り返し、変わらず和泉にだけは近づいて「和泉を一番理解し、最も近しい女は自分」だと周囲にアピールし続けた。
独りよがりな祥子の信用は低く、話を信じない者もいたが、彼女は自身の心証の悪さすら利用した。
ろくに喋らない和泉への話し方を計算し尽くし、祥子とだけは親しげに話しているように見せかけたのだ。
「あまりにおかしかったから、俺らも完全に縁を切ったわけだけど」
「昔より思い込みが悪化してんじゃねえか? カイ、祥子と会ったりした?」
「いや、全く。今日久々に見たし、存在すら忘れてた。そんな話も、全然知らなかった」
「だろうな」
「おい、マジかよ。あの頃、お前のせいで俺ら結構大変だったんだけど?」
「麻美にも怒られたばっかだろ。カイ、本当にしっかりしろよ?」
「で? 久々の再会であの態度? 亜姫にカイを取られたと思ってんの? まだ同じことをやり続けてるとしたら、完全に狂ってる……」
「でもさ、祥子はとっくに千葉とつきあってるんじゃないの?」
「付き合ってねーよ。千葉が昔から惚れてて、ずっとひっついてるだけ。祥子がカイしか見てないの知ってて……千葉も報われねぇよなぁ」
「お前らの色んな噂も、大元は祥子だろうな。
どんな理由があったとしてもさすがに笑えねーよ、ここまでくると」
今までは和泉自身が不問にしていた為、遠ざけただけで静観してきたが。次からはもう容赦しない。
もちろん、亜姫に知らせるつもりはない。
話のついでに、亜姫はもう大丈夫そうだと報告する。その内容に爆笑した彼らは、麻美と笑い合う亜姫を優しく見つめた。
「守ってやろうな」
「あぁ、もう傷つけさせねぇよ。二度と祥子の思い通りにはさせない」
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