【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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あんず飴とジャガバター(2)

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 亜姫の心臓がまた、バクンと大きな音を立てた。
 彼女に言われたことが脳裏に蘇り、顔が強張る。
 
 大丈夫、大丈夫……。自分に強く言いきかせる。  
 和泉に言われた様々な言葉を思い返してみる。
 夢だと思っていた中で繰り返し聞いた、沢山の言葉。
 あの時も今も感じる、和泉の温かさと安心感。
 麻美達の顔や笑い声。
 
 すると、徐々に気持ちが落ち着いてきた。
 
「……あんず飴、食べたい」
 声がちょっと震えてしまったが、和泉は気持ちを悟ってくれたようだ。
「下、向いてろ。俺がいいって言うまで絶対喋るなよ?」
 
 心臓の音が、耳の中で鳴っているようだ。
 起こった出来事に疲れた体。そこに緊張までもが追加され、足がうまく動かない。
 亜姫は自分を叱咤して、足を前に運んだ。
 
「和泉っ!」
 祥子は先ほどの事など無かったかのように、爽やかに声をかけてくる。千葉と鈴木はいなかった。
 
 今までの和泉なら、変わらぬ態度で接していただろう。祥子もそれをよく知った上で、和泉や周囲への印象操作を図ろうとしている。
 
 ほんの一瞬、祥子が強烈な悪意を亜姫に向けた。和泉はそれを見逃さず、祥子に冷たい視線を投げながら告げる。
「もう、させねぇよ?」 
 
 この一言で、祥子は全てがバレたと理解した。
 自分が和泉にとって『どうでもいい存在』から『排除すべき存在』に変わったことも。
 
 その瞬間、祥子は態度を豹変させて亜姫への悪意を剥き出しにする。
「あんた、まだいたんだ? とっくに帰ったと思ってたのに」
 
「さっきまで、いなかったんだけどな」
 和泉は今までと変わらぬ無表情で告げる。
 亜姫は、言われた通り俯きがちに佇んだ。
 
「へぇ……わざわざ戻ってきたんだ。男漁りに失敗して、今度はこれが私のです! ってアピールでもしにき……」
「逆な」
「え?」
「俺が見せびらかしたくて。だからわざわざ戻ってきた」
 俯く亜姫を見つめて、和泉はその頬にチュッとキスを落とす。
 ボフッと真っ赤になり固まる亜姫。和泉は軽く笑い、甘い顔でその顔を覗き込んだ。
 
 それを見た祥子の顔が歪む。
「……正気? そんなの相手にするなんて、どうかしてる……」
「さっき」
「え?」
「汚れてたから、消毒しに帰った」
「は?」
「大事なものに、手垢がついて汚れちゃって」
 
 先ほどの自分達を揶揄やゆされていると分かり、祥子の顔がますます醜く歪む。
「今更じゃない。この女、もう汚れきって……」
「俺、今日は無理だと諦めてたんだけど」
 彼女が話すのを全て途中で遮って、和泉はやたら爽やかに言い切った。
「お前らのおかげでたっぷり消毒できた。
 俺が夢中になりすぎて、こいつが立てなくなっちゃったけど」
 そして、完全に言葉を失くした祥子を無視して
「亜姫?……あーぁ、腰に全然力が入らねーじゃん。ごめんな?」
 
 からかうように言いながら亜姫の腰を引き寄せ、和泉は彼女の脇をすり抜けた。
 わざとらしく、蕩けるような笑顔で亜姫の顔を見つめながら。

「消毒」の意味が絶対にバレているとわかってしまった私は、別の意味で倒れそうです。むしろ、今こそ倒れる時!
 
 と、亜姫は思った。
 
 こんな人混みの中で、ただでさえ注目されてる和泉がそんな話を堂々としないでよ!
 しかも「消毒」のくだりを、わざと大きい声で言った!
 
 という抗議を込めて睨みつけてみたが、本人はいたくご機嫌で。あまりに楽しそうなので、亜姫も怒る気が失せてしまう。
 
 今日の目的は『祭りを楽しむ』だったから、まぁいいか? と気持ちを切り替えて、そのままあんず飴を買いに向かった。
 

 
 ◇
 久々のあんず飴。屋台の看板が見えて来ると、亜姫は目に見えて浮かれ出した。

「そんなに好きなの?」
 亜姫の浮かれっぷりに和泉は笑う。
「うん! 和泉は食べたことない?」
「ない。甘いんだろ?」
「あぁ、和泉は甘いの食べないもんね」
 
 あんず飴の中身は色々あるが、亜姫はスモモが好き。逆にスモモ以外は食べない。
 見た目がなんだか可愛くて好き。
 透明な水飴のトロっとした感じとスモモの赤が綺麗で好き。
 受け皿代わりの最中もなかに残った、ほんのりスモモの酸っぱさが混じった水飴。それを最後に最中ごと食べるのも好き。
 じゃんけんして、勝つと追加で貰えるシステムも楽しくて好き!
 
 あんず飴の素晴らしさをこれでもかと語る亜姫に「愛が深すぎる」と和泉が笑う。そんな話をしてる間に、売り場に着いた。
 
「2個は食べたい」
 そう言って真剣にジャンケンする亜姫。そして合計4個、手に入れた。
 
「そんなに沢山、どーするんだよ」
「全部一人で食べる!」
 大喜びの亜姫は売り場のおばさんと会話を楽しみ、一個だけ手にして残りは袋に入れた。
 
 袋にしまわれていくあんず飴を楽しそうに眺める亜姫の姿を、和泉は目を細めてずっと見ていた。
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