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「俺ら初日しか行けなかったんだけど。カイが自分の休憩時間をわざと指定してきて、会えなかったんだよ。颯太まで買収して、お前の予定も漏らさないようにする徹底ぶりで」
亜姫は、和泉をジロッと睨んだ。すると、和泉は気まずそうに視線を逸らしてボソッと呟く。
「しょうがねーだろ、どうしても会わせたくなかったんだから……」
「カイ、素直に言えよ。亜姫を独り占めしたかっただけだろ」
からかうような声に和泉は「うるせぇな」と返した。チラッと亜姫を見て目が合うと、更に気まずそうにボソボソと言う。
「会わせたら、お前ら絶対仲良くなるだろ。そしたら俺との時間が減っちゃうじゃん……」
「毎日一緒に過ごしてんだろーが。頑なに誰にも会わせないって、どんだけ囲い込んでんだよ」
「学校でも、亜姫に気づかれないように他の男を牽制しまくってんだよ。俺らの事知られてからも、亜姫に話したがらなかったんだよな」
「余裕ねぇなぁ、おい!」
「うるっせぇな! 亜姫と話せるようになるまで、どんだけ時間かかったと思ってんだよ! ようやく手に入れたのに、その時間を他の男に使わせるわけねーだろ! お前らのこと考えたりなんてさせるか! ただでさえ、いつも時間足りねーと思ってんのに!」
「文化祭で挨拶するぐらい、いーだろーが」
「文化祭なんて皆テンション上がってんじゃねーか! そんな場所でお前らに会わせたら盛り上がるに決まってんだろ! あの日の亜姫は可愛すぎたし、あんな姿で会わせるわけがねぇ!」
「テンション上げたことねぇ奴が偉そうに言うんじゃねーよ。どんだけ惚れてんだ、聞いてる方が恥ずかしい」
「お前からテンション上がるって言葉が出るなんて衝撃なんだけど」
「つーか、お前……万年能面でつまらなそーにしてんのに、そんなこと考えてたのかよ。ウケるんだけど」
「今まさに、人生で一番テンション高いカイを見てる」
「ムキになる姿とか、初めて見た」
「そんな早口でも喋れんのか」
「え?ちょっと待って。お前、いつから亜姫のことを好きだったの? その言い方だと、相当前からだよな?」
「ちょうどいい、お前今度こそ全部吐け! そろそろ詳細教えろよ!」
「絶っっ対、教えねぇ」
わちゃわちゃと言いあう様子に亜姫は笑ってしまった。
「こうなるから会わせたくなかったんだよ……もう、お前は話を聞くな」
和泉が無理やり耳を塞ごうとするので、亜姫はそれを避けて圭介達を見る。
すると彼らは優しく笑った。
「お前達は、いつ見ても幸せそうだった。あんなに優しい表情も、笑うカイも、誰かを大事に扱う姿も。俺達はこれまで見たことがなかった」
「それだけで、お前の存在を受け入れるには充分だったんだけど。その時はまだ噂の真偽が気になっていたんだよな。
あんな風に笑うカイには、幸せになってほしかったから」
でも。あの文化祭の日、真偽はどうでもいいって思ったんだ。
と、彼らは言った。
「これは、本当に偶然なんだけど。
俺ら三人、たまたま中庭にいたの。正確に言うと中庭のすぐ横。あのデカい木の、すぐ奥。
そこに、ちっちゃいけど座れるスペースがあるの知ってる? 颯太が穴場だっつーんで、そこで休んでたんだ」
文化祭……、中庭……。
「「えっ!?」」
同時に聞こえた和泉の声。亜姫は二度驚いた。
和泉の表情を見るに、どうやら彼も初耳だったらしい。
「お前ら……あそこにいたの!?」
「いた。流石にバレると気まずいかなって隠れてたから、お前らの姿は見てないけど。
最初から全部、バッチリ聞いてた。目の前であんな喧嘩されたら身動きなんか取れねーし」
意味有りげに3人が笑う。
これ以上曝け出すものなんて無いと思っていたのに、あの醜態まで見られていたとは……。
亜姫は羞恥で顔を赤らめる。出てた涙は驚きで全て引っ込んだ。
「マジかよ、あれを見られたって……俺が一番やらかしたやつじゃねーか……」
和泉が、珍しく悲壮感を漂わせた。
「最初はどーなることかとハラハラしてたんだよ。カイがあんな苛ついてんのも乱暴なのも見たことねーし、亜姫が男誘ってキスしたとか浮気したみたいな話でさ」
「やっぱ噂通りかと思ってたら、全然違って」
「カイが戻ったあとも、亜姫は友達と残っただろ?」
「その時の話を聞いて、亜姫はカイのことを大事にしてくれんだろーなって……もう、噂の真偽はどーでもよくなった。
後で麻美と隆にもその話をしてさ。あの日、俺らはお前のこと認めたんだよ」
だから、今日の亜姫を見たところで何の問題もない。と彼らは言った。
ちなみにキス騒動の目的は、麻美が亜姫が本当はどんな子なのかを単純に知りたかったからで、認めてなかったわけでは無いそうだ。
「むしろ今日亜姫に会って、噂は間違いだってことがよくわかった。
これからは、俺らも力になるから。もっと周りを頼れよ」
この言葉に亜姫がまた号泣したのは、涙腺がぶっ壊れていたからではない。
そして、こういう結果に導いてくれるのはやっぱり和泉で。
なぜ彼らの話をしなかったのか、それが分かったことにも安堵して。
しばらくの間、亜姫はまた泣きっぱなしだった。
亜姫は、和泉をジロッと睨んだ。すると、和泉は気まずそうに視線を逸らしてボソッと呟く。
「しょうがねーだろ、どうしても会わせたくなかったんだから……」
「カイ、素直に言えよ。亜姫を独り占めしたかっただけだろ」
からかうような声に和泉は「うるせぇな」と返した。チラッと亜姫を見て目が合うと、更に気まずそうにボソボソと言う。
「会わせたら、お前ら絶対仲良くなるだろ。そしたら俺との時間が減っちゃうじゃん……」
「毎日一緒に過ごしてんだろーが。頑なに誰にも会わせないって、どんだけ囲い込んでんだよ」
「学校でも、亜姫に気づかれないように他の男を牽制しまくってんだよ。俺らの事知られてからも、亜姫に話したがらなかったんだよな」
「余裕ねぇなぁ、おい!」
「うるっせぇな! 亜姫と話せるようになるまで、どんだけ時間かかったと思ってんだよ! ようやく手に入れたのに、その時間を他の男に使わせるわけねーだろ! お前らのこと考えたりなんてさせるか! ただでさえ、いつも時間足りねーと思ってんのに!」
「文化祭で挨拶するぐらい、いーだろーが」
「文化祭なんて皆テンション上がってんじゃねーか! そんな場所でお前らに会わせたら盛り上がるに決まってんだろ! あの日の亜姫は可愛すぎたし、あんな姿で会わせるわけがねぇ!」
「テンション上げたことねぇ奴が偉そうに言うんじゃねーよ。どんだけ惚れてんだ、聞いてる方が恥ずかしい」
「お前からテンション上がるって言葉が出るなんて衝撃なんだけど」
「つーか、お前……万年能面でつまらなそーにしてんのに、そんなこと考えてたのかよ。ウケるんだけど」
「今まさに、人生で一番テンション高いカイを見てる」
「ムキになる姿とか、初めて見た」
「そんな早口でも喋れんのか」
「え?ちょっと待って。お前、いつから亜姫のことを好きだったの? その言い方だと、相当前からだよな?」
「ちょうどいい、お前今度こそ全部吐け! そろそろ詳細教えろよ!」
「絶っっ対、教えねぇ」
わちゃわちゃと言いあう様子に亜姫は笑ってしまった。
「こうなるから会わせたくなかったんだよ……もう、お前は話を聞くな」
和泉が無理やり耳を塞ごうとするので、亜姫はそれを避けて圭介達を見る。
すると彼らは優しく笑った。
「お前達は、いつ見ても幸せそうだった。あんなに優しい表情も、笑うカイも、誰かを大事に扱う姿も。俺達はこれまで見たことがなかった」
「それだけで、お前の存在を受け入れるには充分だったんだけど。その時はまだ噂の真偽が気になっていたんだよな。
あんな風に笑うカイには、幸せになってほしかったから」
でも。あの文化祭の日、真偽はどうでもいいって思ったんだ。
と、彼らは言った。
「これは、本当に偶然なんだけど。
俺ら三人、たまたま中庭にいたの。正確に言うと中庭のすぐ横。あのデカい木の、すぐ奥。
そこに、ちっちゃいけど座れるスペースがあるの知ってる? 颯太が穴場だっつーんで、そこで休んでたんだ」
文化祭……、中庭……。
「「えっ!?」」
同時に聞こえた和泉の声。亜姫は二度驚いた。
和泉の表情を見るに、どうやら彼も初耳だったらしい。
「お前ら……あそこにいたの!?」
「いた。流石にバレると気まずいかなって隠れてたから、お前らの姿は見てないけど。
最初から全部、バッチリ聞いてた。目の前であんな喧嘩されたら身動きなんか取れねーし」
意味有りげに3人が笑う。
これ以上曝け出すものなんて無いと思っていたのに、あの醜態まで見られていたとは……。
亜姫は羞恥で顔を赤らめる。出てた涙は驚きで全て引っ込んだ。
「マジかよ、あれを見られたって……俺が一番やらかしたやつじゃねーか……」
和泉が、珍しく悲壮感を漂わせた。
「最初はどーなることかとハラハラしてたんだよ。カイがあんな苛ついてんのも乱暴なのも見たことねーし、亜姫が男誘ってキスしたとか浮気したみたいな話でさ」
「やっぱ噂通りかと思ってたら、全然違って」
「カイが戻ったあとも、亜姫は友達と残っただろ?」
「その時の話を聞いて、亜姫はカイのことを大事にしてくれんだろーなって……もう、噂の真偽はどーでもよくなった。
後で麻美と隆にもその話をしてさ。あの日、俺らはお前のこと認めたんだよ」
だから、今日の亜姫を見たところで何の問題もない。と彼らは言った。
ちなみにキス騒動の目的は、麻美が亜姫が本当はどんな子なのかを単純に知りたかったからで、認めてなかったわけでは無いそうだ。
「むしろ今日亜姫に会って、噂は間違いだってことがよくわかった。
これからは、俺らも力になるから。もっと周りを頼れよ」
この言葉に亜姫がまた号泣したのは、涙腺がぶっ壊れていたからではない。
そして、こういう結果に導いてくれるのはやっぱり和泉で。
なぜ彼らの話をしなかったのか、それが分かったことにも安堵して。
しばらくの間、亜姫はまた泣きっぱなしだった。
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