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高3
開放(5)
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身支度を整えた亜姫に、和泉は飲み物を差し出した。
「話、できそう?」
和泉の問いかけに、亜姫は頷いた。
「まだ祭りは続いてる。このあと花火も上がる。帰りは、何時であっても俺が家まで送る」
「……うん」
「俺は……亜姫が行けるなら、一緒に祭りの続きを楽しみたい。麻美達もそう思ってる。お前が戻って来るのを待ってる」
「うん」
「でも、お前の気持ちを優先したい。
……もう疲れてるだろ? 無理はしなくていい」
亜姫を労るように、和泉は優しく微笑む。
「俺は今、正直に伝えた。今度は亜姫の本音を聞きたい。
余計なことは考えるなよ?……どうしたい?
先に言っておくけど。今すぐ帰っても、このまま夜まで寝ると決めても、誰も気にしない。また次の機会を楽しみに待つだけだから」
「皆、嫌な思い……」
「してない」
「合わせる顔が」
「亜姫」
「…………お祭り、行きたい」
「うん」
「花火も見たい」
「うん」
「最後までいたい」
「うん」
「ジャガバターとあんず飴、食べたい」
「うん」
「皆と、もっと話がしたい」
「うん」
「また、発作起こすかもしれないけど……途中で帰る、かもしれない、けど……皆と、できるだけ一緒に過ごしたい」
「うん」
「今日、不安だったけど……皆に会えるの、楽しみにもしてたの……」
和泉は、返事の代わりに優しい顔で頭を撫でた。
「……皆に、ごめんなさい、する。……ちゃんと謝る」
再び泣き出しそうな亜姫に、和泉は触れるだけのキスをした。
亜姫は無性に甘えたくなった。
「……ギュー、して」
手を伸ばすと、和泉が体ごと包み込むように抱き起こす。
自分を包むいつもの温かさに安心して、亜姫は首筋に埋めた顔を部屋の入口へと向けた。
………人が………いる。
「……!」
亜姫は一気にパニックになった。
和泉にしがみついて、声にならない言葉を発すると、
「あぁ、健吾達? 最初からいたけど?」
と、軽い口調でとんでもない返事が返ってきた。
「さ……最初!? ど、どの最初!?」
「お前が逃げだして倒れたとこからだよ。言わなかったっけ、一緒に探しに行ったって」
「き、聞いてない……えっ、ずっと? ここに? 皆、いた……って……?」
朧げな記憶の中で、起きていた事を必死で整理する。パニックな上に情報が大渋滞で、頭が真っ白なんだか真っ黒なんだかわからないな……と、どーでもいいことを考えはじめた時、和泉が顔を覗き込んできた。
嫌な予感しかない、意地の悪い笑顔で。
「そう、ずっといたの。麻美と隆は荷物番で会場にいるけど。
お前が感情大爆発させた時も、子供みたいにわーんっ! て泣いてた時も、俺とベッドにいた時も」
にやりと笑いながら、和泉は何でもなさそうに言う。
「ぜーんぶ、聞かれちゃったからな。発作も逃げ出したのも見られてるし、もうお前に隠すものなんて残ってねーな」
ハハッと笑う和泉と一緒に、健吾達も笑う。
亜姫は、全身が真っ赤に染まったと思う程の羞恥心に襲われた。
いくら頭が回らなくても、何を聞かれたかぐらいはわかる。
何って……ナニ……い、いやそれだけじゃない……うろ覚えだけど、かなり泣き叫んでた記憶も……。
「や……やだ、バカ……や……か、帰る……!!」
亜姫は逃げ出そうと身をよじった……つもりだったが、すぐ和泉に抱き止められた。
「バカ、逃げんなっつったろ」
「や、やだ……やだぁっ!」
ここから離れようと抵抗する亜姫を、和泉は宥めようとする。
「説明する手間が省けて良かったと思えよ。大丈夫、あいつら口は堅いから」
「い、いや……そうじゃなくて……」
「大丈夫。安心しろ」
「あ……安心なんかできるわけないでしょう! 誰のせいでこんな……っ! なんであんな事したの? 離して!離してよっ!!」
「痛てっ、こら暴れんなって。誰のせいって……いや、お前のせいだろ。
抱いたのだって、あの方法でなきゃお前は聞く耳をもたなかったろ?」
そうだ、そもそも自分がやらかしたんだった……。
自分の行動を思い出して、亜姫は急に大人しくなる。
すると、和泉の後ろから健吾の声が飛んできた。
「いやいや、抱かなくても他に方法はあったんじゃないの? 完全にカイのせいだろーが」
この言葉に、亜姫はギッと和泉を睨み返した。
「最低! バカ! 変態!!……良かったなんて思うわけないじゃない!
迷惑かけて逃げ出して……皆で探しに来てくれてたのに、謝りもしないでこんな事してたなんて……」
怒っている途中から現実がはっきり見えてきて、自分がしでかしたことに泣けてきた。
「全部しょうがなかったんだって。皆わかってるよ、それぐらい」
しかし、また泣き出した亜姫はぶんぶんと首を振る。
「しょうがなくない。だって、一生懸命考えてたのに。和泉の大事な人からは、ふさわしい彼女だって認めてもらいたかったのに……。
今日だけは噂通りの女だとか、普通じゃないなんて、思われたくなかったのに。だから、色んな事を頑張りたかったのに。
でもこんなとこばっかり見せちゃったら、もう認めてもらえない。和泉のバカ、バカァッ!」
不安に思っていた全てが現実に起こり、その上自分でも見たくなかった醜い心情までみっともなく曝け出してしまったことに、さすがの亜姫もショックを隠せない。
亜姫は人前だということも忘れて、また感情を爆発させて泣きじゃくった。
「亜姫……そんなこと考えてたの……?」
和泉が驚きを見せた。
亜姫がそんなことを思い悩むなんて考えもしなかった。
和泉が衝撃に言葉を失くしてる間も、亜姫は胸の内を曝け出して和泉を罵倒し続ける。
何これ、可愛すぎるんだけど……。
和泉は嬉しさを隠しきれず、腕の中で暴れる亜姫を見ながら破顔する。
「わかったわかった。大丈夫だよ、もう大丈夫だから。
もう泣くなよ………もー、今日は涙腺も理性もぶっ壊れてんな」
和泉が笑いながら宥め、皆から隠すように亜姫を抱きしめた。
亜姫は感情をコントロールできず、ひたすら泣き続けている。と。
「亜姫、こっち向けよ」
健吾の声が聞こえた。
「話、できそう?」
和泉の問いかけに、亜姫は頷いた。
「まだ祭りは続いてる。このあと花火も上がる。帰りは、何時であっても俺が家まで送る」
「……うん」
「俺は……亜姫が行けるなら、一緒に祭りの続きを楽しみたい。麻美達もそう思ってる。お前が戻って来るのを待ってる」
「うん」
「でも、お前の気持ちを優先したい。
……もう疲れてるだろ? 無理はしなくていい」
亜姫を労るように、和泉は優しく微笑む。
「俺は今、正直に伝えた。今度は亜姫の本音を聞きたい。
余計なことは考えるなよ?……どうしたい?
先に言っておくけど。今すぐ帰っても、このまま夜まで寝ると決めても、誰も気にしない。また次の機会を楽しみに待つだけだから」
「皆、嫌な思い……」
「してない」
「合わせる顔が」
「亜姫」
「…………お祭り、行きたい」
「うん」
「花火も見たい」
「うん」
「最後までいたい」
「うん」
「ジャガバターとあんず飴、食べたい」
「うん」
「皆と、もっと話がしたい」
「うん」
「また、発作起こすかもしれないけど……途中で帰る、かもしれない、けど……皆と、できるだけ一緒に過ごしたい」
「うん」
「今日、不安だったけど……皆に会えるの、楽しみにもしてたの……」
和泉は、返事の代わりに優しい顔で頭を撫でた。
「……皆に、ごめんなさい、する。……ちゃんと謝る」
再び泣き出しそうな亜姫に、和泉は触れるだけのキスをした。
亜姫は無性に甘えたくなった。
「……ギュー、して」
手を伸ばすと、和泉が体ごと包み込むように抱き起こす。
自分を包むいつもの温かさに安心して、亜姫は首筋に埋めた顔を部屋の入口へと向けた。
………人が………いる。
「……!」
亜姫は一気にパニックになった。
和泉にしがみついて、声にならない言葉を発すると、
「あぁ、健吾達? 最初からいたけど?」
と、軽い口調でとんでもない返事が返ってきた。
「さ……最初!? ど、どの最初!?」
「お前が逃げだして倒れたとこからだよ。言わなかったっけ、一緒に探しに行ったって」
「き、聞いてない……えっ、ずっと? ここに? 皆、いた……って……?」
朧げな記憶の中で、起きていた事を必死で整理する。パニックな上に情報が大渋滞で、頭が真っ白なんだか真っ黒なんだかわからないな……と、どーでもいいことを考えはじめた時、和泉が顔を覗き込んできた。
嫌な予感しかない、意地の悪い笑顔で。
「そう、ずっといたの。麻美と隆は荷物番で会場にいるけど。
お前が感情大爆発させた時も、子供みたいにわーんっ! て泣いてた時も、俺とベッドにいた時も」
にやりと笑いながら、和泉は何でもなさそうに言う。
「ぜーんぶ、聞かれちゃったからな。発作も逃げ出したのも見られてるし、もうお前に隠すものなんて残ってねーな」
ハハッと笑う和泉と一緒に、健吾達も笑う。
亜姫は、全身が真っ赤に染まったと思う程の羞恥心に襲われた。
いくら頭が回らなくても、何を聞かれたかぐらいはわかる。
何って……ナニ……い、いやそれだけじゃない……うろ覚えだけど、かなり泣き叫んでた記憶も……。
「や……やだ、バカ……や……か、帰る……!!」
亜姫は逃げ出そうと身をよじった……つもりだったが、すぐ和泉に抱き止められた。
「バカ、逃げんなっつったろ」
「や、やだ……やだぁっ!」
ここから離れようと抵抗する亜姫を、和泉は宥めようとする。
「説明する手間が省けて良かったと思えよ。大丈夫、あいつら口は堅いから」
「い、いや……そうじゃなくて……」
「大丈夫。安心しろ」
「あ……安心なんかできるわけないでしょう! 誰のせいでこんな……っ! なんであんな事したの? 離して!離してよっ!!」
「痛てっ、こら暴れんなって。誰のせいって……いや、お前のせいだろ。
抱いたのだって、あの方法でなきゃお前は聞く耳をもたなかったろ?」
そうだ、そもそも自分がやらかしたんだった……。
自分の行動を思い出して、亜姫は急に大人しくなる。
すると、和泉の後ろから健吾の声が飛んできた。
「いやいや、抱かなくても他に方法はあったんじゃないの? 完全にカイのせいだろーが」
この言葉に、亜姫はギッと和泉を睨み返した。
「最低! バカ! 変態!!……良かったなんて思うわけないじゃない!
迷惑かけて逃げ出して……皆で探しに来てくれてたのに、謝りもしないでこんな事してたなんて……」
怒っている途中から現実がはっきり見えてきて、自分がしでかしたことに泣けてきた。
「全部しょうがなかったんだって。皆わかってるよ、それぐらい」
しかし、また泣き出した亜姫はぶんぶんと首を振る。
「しょうがなくない。だって、一生懸命考えてたのに。和泉の大事な人からは、ふさわしい彼女だって認めてもらいたかったのに……。
今日だけは噂通りの女だとか、普通じゃないなんて、思われたくなかったのに。だから、色んな事を頑張りたかったのに。
でもこんなとこばっかり見せちゃったら、もう認めてもらえない。和泉のバカ、バカァッ!」
不安に思っていた全てが現実に起こり、その上自分でも見たくなかった醜い心情までみっともなく曝け出してしまったことに、さすがの亜姫もショックを隠せない。
亜姫は人前だということも忘れて、また感情を爆発させて泣きじゃくった。
「亜姫……そんなこと考えてたの……?」
和泉が驚きを見せた。
亜姫がそんなことを思い悩むなんて考えもしなかった。
和泉が衝撃に言葉を失くしてる間も、亜姫は胸の内を曝け出して和泉を罵倒し続ける。
何これ、可愛すぎるんだけど……。
和泉は嬉しさを隠しきれず、腕の中で暴れる亜姫を見ながら破顔する。
「わかったわかった。大丈夫だよ、もう大丈夫だから。
もう泣くなよ………もー、今日は涙腺も理性もぶっ壊れてんな」
和泉が笑いながら宥め、皆から隠すように亜姫を抱きしめた。
亜姫は感情をコントロールできず、ひたすら泣き続けている。と。
「亜姫、こっち向けよ」
健吾の声が聞こえた。
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