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高3

開放(4)

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 和泉は寝ている亜姫の隣で、頬や頭を優しく撫でていた。
 しばらくすると、うっすらと亜姫の瞼が開く。だが目覚めには至らないようで、すぐに閉じる。
 先程からそれを繰り返している。
 
 亜姫は普段から理性が強い。「己を律する事に長けている」と言えば聞こえはいいが、要は甘え下手の強がりだ。頑固、意地っ張り、とも言える。
 
 そんな亜姫が無防備になる瞬間がある。
 それは、パニックを起こしたあとか……激しく泣いたあと。
 どちらも滅多にないが、そうなる時は自分のキャパを遥かに超えた時で、そもそもそんな状態になった時点でかなり理性が鈍るらしい。
 その後は疲れてしまうのか、いつも和泉の腕の中で深い眠りに落ちる。
 そうして目覚めた時には、理性が崩壊したままなのか……やたら素直で従順で極度の甘えん坊になる。
 本人は寝ぼけた様な状態で、あまり覚えてないようだ。だからこそ、その時見られる反応は嘘偽り無い亜姫の本音。
 
 普段聞き入れないような甘い言葉も、この時ばかりは全部素直に受け止めてくれる。そしてその時受け入れたことは、後々まで亜姫の心のどこかにちゃんと残されるようだ。
 
 だから。和泉はそれを利用した。
 
 いつもなら、自然に目覚めるまで寝かせておく。
 亜姫が拒否なんてしないとわかってはいても、確実に受け入れてくれたとわかってる時でなければ抱かない。
 それは、亜姫が100%望んだ時だけ受け入れてもらいたいという和泉のちっぽけなプライド……というのか、欲なのか希望なのか。とにかく、和泉はそこにこだわってきた。
 
 だが今回ばかりは亜姫が目覚める前、朦朧としてる時を狙った。覚醒しつつある状態で、亜姫に触れ始める。
 優しく、ゆっくりと。髪を撫で、頬を撫で、体を優しく撫で……囁くように何度も名を呼ぷ。
 それと共に言葉が染み込むよう、囁き続けた。
 
 夢とのはざま揺蕩たゆたう亜姫に、これでもかと言葉を染み込ませる。亜姫が不安に思うこと・嫌なこと……その全てを肯定するように、声をかけ続ける。
 快楽を求める動きはなく、ひたすら愛を伝える行為。
 それは、亜姫だけでなく和泉にも幸福感が染み渡るような心地良さをもたらした。
 
 全てを終えて、まだ覚醒しきらない亜姫に声をかける。すると寝ぼけたような返事が返ってきた。 

「亜姫、起きて。祭りに戻ろう」
「ん……ん……?……お祭り………?」
 祭りの途中だったろ? そう言うと、少しずつ覚醒してきたようだ。
 朧気に覚えてる今の行為と祭りという単語。その間で亜姫は混乱している。
 
 和泉は軽く笑い、「夢じゃないよ?」と唇を啄んだ。
 
 祭りの途中で逃げだした筈なのに一糸まとわぬ姿で和泉に抱きしめられている今の自分。ここ迄を思い出した亜姫が言葉を失う。
 
 畳み掛けるように和泉は囁く。
「亜姫、愛してる。……今日のこと、忘れるなよ?」
 すると、亜姫は真っ赤になりながら抱きついてきた。
 
 どうやら作戦成功。予想通り、染み込んだ様子。

「今の……夢じゃないってわかってる?」
 亜姫は小さく頷いた。
 和泉は、改めて優しく包みこむ。
「もう、離れたいなんて思うなよ」
「……ごめんなさい」
 消えそうな声とは裏腹に、亜姫は縋るようにひしと抱きついてくる。
「どうして逃げたりした? 倒れてるお前を見て、心臓が止まりそうだった」
「和泉の時間を沢山獲ってるのに、大事なものまで全部壊した気がして……。自分が嫌だった。見られたくなかった……」
 
 和泉の耳元で、すすり泣く声。
 
「バカだな、俺がそんなの気にするわけないだろ。無茶しすぎ」 
「だって、和泉にも嫌がられたと思って……。お願い、嫌いにならないで……」
 いまだ無防備な亜姫が、抱きついたまま甘えた声でグスグス泣く。こうなった亜姫はとんでもなく可愛い。
「また勝手に思い込んで暴走して。そうなる前にちゃんと話せって、いつも言ってるだろ?」
 笑いながら頭や耳にキスを落とす。 
「和泉、好き。……ずっとそばにいて」
 グズついたままそんなことを呟き、亜姫は自分から唇を寄せてくる。
 再度抱きたくなる気持ちを抑え込み、和泉はしばらく甘やかしていた。  
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