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高3
祭り(7)
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そうだ。なんでだ?
和泉にもその理由がわからない。
「祥子がカイのことを好きだったから?」
「いや、それ何年前の話だよ」
「でもあの時だってさ、ほら情報操作とかかなりエグかったじゃん。俺らに近づいてきたのだって」
「何の話?」
和泉が口を挟むと、全員が呆れた顔を向ける。
「お前なぁ……。マジでもう少し周りに興味持てって。祥子は昔……」
颯太が話すのを遮り、麻美が怒り気味に言う。
「祥子はカイが自分のもんだと思ってんだよ、未だに」
「はぁ? なんだそれ?」
「なんだじゃない!……まさか、祥子がカイを好きだって、本当に気づいてなかったの?」
麻美達の呆れ顔に、和泉は頷きを返す。
「……祥子に興味なんてねーし。まぁ、知ってたとしてもどーでもよかったけど」
「よくない。それが原因であんな行動に出たんでしょ! カイのそばにいる亜姫が気に入らなくて、こうして傷つけようとしてるじゃない!」
キレた麻美を宥めながら、隆が再び疑問を口にする。
「だとして。じゃあ、亜姫は何で祥子達を庇ったの?」
「祥子達が、カイの友達だからだよ」
麻美の言葉に、全員が意味不明だという反応を見せた。
正確に言えば、和泉の友達だと思っていたから。
自分のせいで和泉達が揉めるようなことになったら駄目だと思ったから。
麻美は亜姫から聞いて知っていた、祭りに参加する不安を。
自分が入ることで、今までの空気を壊しちゃうんじゃないかと……自分が邪魔しちゃうかもと、すごく気にしていたから。
「なんで?」
皆の疑問には、和泉が答えた。
「毎年恒例の行事で、皆がこの日をすごく楽しんでるって話をしたからだ……」
亜姫は、確かに参加することを躊躇していた。
皆の時間を台無しにしないか気を遣ったのであろうことは容易に想像できる。
「さっき、祥子はいかにも仲良さそうなフリして近づいてきたじゃん。何年も会話してなかったのに突然あんな態度、不自然。
私達のことは完全に無視してたし。あれは明らかに最初から亜姫を連れ出すつもりでわざと声かけてきたんだよ。そーいうこと、祥子は平気でするやつでしょ」
「亜姫のことも前から調べてたのかもな。
もしかすると、亜姫が同じことされたっていうのもわざとかも。祥子って目的のためには手段選ばないから侮れない」
「でも、あんなことされて亜姫自身こんな状態になってるのに……そこまでして祥子を庇ったりするか?」
「庇うよ。だって亜姫だもん」
そう言い切る麻美の言葉を、皆は理解出来ない。
だが、和泉には分かる。
亜姫だから。
この一言に尽きる。
和泉達にからかわれたりして言い返す時は別だが、亜姫は絶対に人を悪く言わない。人を責めるぐらいなら自分を責める。常に人の気持ちに思いを馳せ、人のいいところを探そうとする。石橋の時も、それで酷い目にあった。それでも、恐れはしても石橋を悪く言うことはない。
今日もそうだ。きっとこれからも祥子を悪く言う日は来ないだろう。
「私が初めて会った時、あんなに酷いことをしたのにずっと私のことを気遣ってた。亜姫は傷ついてボロボロだったのに。
私が亜姫を騙してたと分かった時も、勘違いでよかったと笑って、文句一つ言わなかった。
唯一亜姫が怒ったのは、カイを大切にしろって頼んできた時だけだよ。
見かけで判断するな、和泉の中身を見て大事にしてくれって。
どんな相手でも、自分よりその人の幸せを一番に考えて笑うの。亜姫は、そーいう子なんだよ」
麻美はそう言って涙ぐむ。
「そんな亜姫だから、私は大好きなんだもん。こんな目に合わされるような子じゃないよ……」
「……また、俺が原因なんだな」
和泉が呟く。
「亜姫が傷つくのは、いつも俺絡みだ。
クソみたいな生き方をして、本来俺が受けるはずの罰をいつも亜姫が受けて……全部、代わりに背負ってる。亜姫は何もしてないのに」
「じゃあ、手放せば?」
麻美が睨みながら言う。
「……無理だ。そんなこと、出来たらとっくにしてる。
そもそも、それが出来るなら最初から手を取ったりなんてしなかった。亜姫だけは……手放せない。それだけは出来ない」
「そうやって悩むことが、あんたの罰なんじゃないの?」
麻美はハッキリとそう言った。
「亜姫が傷ついてんのは、間違いなくカイのせいだよ。
私達、何度も言ってきたよね? もっとしっかりしろ、周りを見ろって。色んなこと、ちゃんと考えろって。人に対しても、物事に対しても。
なのに全部どーでもいい興味ないって、カイが放置してきたから!
それを祥子に都合よく利用されてきたんだって分かってる? カイがしっかりしてれば、祥子だってあんなに好き勝手は出来なかった。祥子がああなってるのもカイのせいだよ!
今まではカイが何ひとつ興味を持たなかったから、かろうじて周りのバランスが保てたんだよ。
人から求められやすいって自覚を持ちなよ。カイがそれをちゃんと受け止めないから、行き場のない感情が全部亜姫に向かってるんだからね!
カイは祥子のものだって思わせてるその誤解を、まず責任もって完全に断ち切って。
亜姫がこれ以上傷つくなんて、絶対に許さない」
そう言った後、麻美は泣きながら和泉を怒鳴りつけた。
「亜姫を守りきれないのなら、別れてよ。そんな男は亜姫にふさわしくない。
そばにいたいんなら、どーでもいいとか適当なこと言うのはやめて、今すぐ変わりなよ!!」
その言葉に、和泉は素直に頷いた。
悪意ある噂の大元は、もしかしたら祥子なのだろうか。
ふとそう思い、皆にその話をしてみる。しかし、噂については知っていたけれど、祥子に繋がる証拠は出てこなかった。
和泉にもその理由がわからない。
「祥子がカイのことを好きだったから?」
「いや、それ何年前の話だよ」
「でもあの時だってさ、ほら情報操作とかかなりエグかったじゃん。俺らに近づいてきたのだって」
「何の話?」
和泉が口を挟むと、全員が呆れた顔を向ける。
「お前なぁ……。マジでもう少し周りに興味持てって。祥子は昔……」
颯太が話すのを遮り、麻美が怒り気味に言う。
「祥子はカイが自分のもんだと思ってんだよ、未だに」
「はぁ? なんだそれ?」
「なんだじゃない!……まさか、祥子がカイを好きだって、本当に気づいてなかったの?」
麻美達の呆れ顔に、和泉は頷きを返す。
「……祥子に興味なんてねーし。まぁ、知ってたとしてもどーでもよかったけど」
「よくない。それが原因であんな行動に出たんでしょ! カイのそばにいる亜姫が気に入らなくて、こうして傷つけようとしてるじゃない!」
キレた麻美を宥めながら、隆が再び疑問を口にする。
「だとして。じゃあ、亜姫は何で祥子達を庇ったの?」
「祥子達が、カイの友達だからだよ」
麻美の言葉に、全員が意味不明だという反応を見せた。
正確に言えば、和泉の友達だと思っていたから。
自分のせいで和泉達が揉めるようなことになったら駄目だと思ったから。
麻美は亜姫から聞いて知っていた、祭りに参加する不安を。
自分が入ることで、今までの空気を壊しちゃうんじゃないかと……自分が邪魔しちゃうかもと、すごく気にしていたから。
「なんで?」
皆の疑問には、和泉が答えた。
「毎年恒例の行事で、皆がこの日をすごく楽しんでるって話をしたからだ……」
亜姫は、確かに参加することを躊躇していた。
皆の時間を台無しにしないか気を遣ったのであろうことは容易に想像できる。
「さっき、祥子はいかにも仲良さそうなフリして近づいてきたじゃん。何年も会話してなかったのに突然あんな態度、不自然。
私達のことは完全に無視してたし。あれは明らかに最初から亜姫を連れ出すつもりでわざと声かけてきたんだよ。そーいうこと、祥子は平気でするやつでしょ」
「亜姫のことも前から調べてたのかもな。
もしかすると、亜姫が同じことされたっていうのもわざとかも。祥子って目的のためには手段選ばないから侮れない」
「でも、あんなことされて亜姫自身こんな状態になってるのに……そこまでして祥子を庇ったりするか?」
「庇うよ。だって亜姫だもん」
そう言い切る麻美の言葉を、皆は理解出来ない。
だが、和泉には分かる。
亜姫だから。
この一言に尽きる。
和泉達にからかわれたりして言い返す時は別だが、亜姫は絶対に人を悪く言わない。人を責めるぐらいなら自分を責める。常に人の気持ちに思いを馳せ、人のいいところを探そうとする。石橋の時も、それで酷い目にあった。それでも、恐れはしても石橋を悪く言うことはない。
今日もそうだ。きっとこれからも祥子を悪く言う日は来ないだろう。
「私が初めて会った時、あんなに酷いことをしたのにずっと私のことを気遣ってた。亜姫は傷ついてボロボロだったのに。
私が亜姫を騙してたと分かった時も、勘違いでよかったと笑って、文句一つ言わなかった。
唯一亜姫が怒ったのは、カイを大切にしろって頼んできた時だけだよ。
見かけで判断するな、和泉の中身を見て大事にしてくれって。
どんな相手でも、自分よりその人の幸せを一番に考えて笑うの。亜姫は、そーいう子なんだよ」
麻美はそう言って涙ぐむ。
「そんな亜姫だから、私は大好きなんだもん。こんな目に合わされるような子じゃないよ……」
「……また、俺が原因なんだな」
和泉が呟く。
「亜姫が傷つくのは、いつも俺絡みだ。
クソみたいな生き方をして、本来俺が受けるはずの罰をいつも亜姫が受けて……全部、代わりに背負ってる。亜姫は何もしてないのに」
「じゃあ、手放せば?」
麻美が睨みながら言う。
「……無理だ。そんなこと、出来たらとっくにしてる。
そもそも、それが出来るなら最初から手を取ったりなんてしなかった。亜姫だけは……手放せない。それだけは出来ない」
「そうやって悩むことが、あんたの罰なんじゃないの?」
麻美はハッキリとそう言った。
「亜姫が傷ついてんのは、間違いなくカイのせいだよ。
私達、何度も言ってきたよね? もっとしっかりしろ、周りを見ろって。色んなこと、ちゃんと考えろって。人に対しても、物事に対しても。
なのに全部どーでもいい興味ないって、カイが放置してきたから!
それを祥子に都合よく利用されてきたんだって分かってる? カイがしっかりしてれば、祥子だってあんなに好き勝手は出来なかった。祥子がああなってるのもカイのせいだよ!
今まではカイが何ひとつ興味を持たなかったから、かろうじて周りのバランスが保てたんだよ。
人から求められやすいって自覚を持ちなよ。カイがそれをちゃんと受け止めないから、行き場のない感情が全部亜姫に向かってるんだからね!
カイは祥子のものだって思わせてるその誤解を、まず責任もって完全に断ち切って。
亜姫がこれ以上傷つくなんて、絶対に許さない」
そう言った後、麻美は泣きながら和泉を怒鳴りつけた。
「亜姫を守りきれないのなら、別れてよ。そんな男は亜姫にふさわしくない。
そばにいたいんなら、どーでもいいとか適当なこと言うのはやめて、今すぐ変わりなよ!!」
その言葉に、和泉は素直に頷いた。
悪意ある噂の大元は、もしかしたら祥子なのだろうか。
ふとそう思い、皆にその話をしてみる。しかし、噂については知っていたけれど、祥子に繋がる証拠は出てこなかった。
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