【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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高3

祭り(4)

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 屋台をブラブラ見て、それぞれが買いたい物を物色する。

「夜、混んでたら誰かに買ってきてもらおう」
 食べるものを決めておくよう亜姫へ言いながら、和泉は小腹が減ったと焼きそばを買う。今は、二人で焼き上がりを待っているところだ。
 
「待ってる間に、お手洗いへ行ってもいい?」
 それはちょうど目と鼻の先にあった。和泉はその前まで亜姫を送り、迎えに来るまでそこから出ないよう伝えると一旦店へ。
 
 そして再び戻ると。
 亜姫は消えていた。
 
 連絡もつかず、麻美を呼んで中まで見てもらったけれど、どこにもいない。念の為付近を探したけれど見当たらない。
 
 和泉が目を離したのはほんの数分だった。
 あの亜姫が一人で歩くなんて有り得ない。
 何か、良くないことが起きている。
 
 そう確信した和泉は、全員にすぐさま連絡をいれた。その時事件後にGPSアプリを設定したことを思い出し、すぐさま検索をかけた。
 
 
 
 ◇
 亜姫は和泉から連絡があるまで、この敷地から出ないで待つつもりだった。この人混みの中、混んでる女子トイレへ入ってくる男性はいないはずだから。 
 すると、そこへ祥子が入ってきた。
 
 会釈をする亜姫を見つけると、祥子はホッとしたように笑う。
「よかった、いた! 和泉に頼まれたの、トラブルがおきたから代わりに連れてきてって」
「えっ?」
 こっちだよ! と左腕を強く掴まれ、強引に引っ張られる。
「え、祥子さん? ちょっと、ま、待って。私、ここで待つように言われてて」
「うん、きっとそう言って和泉を待つはずだって聞いてる。だから、直接亜姫を連れてきてって頼まれたの」
 
 何か、おかしい。
 
 そう思う亜姫の考えを中断させるかのように、祥子は更に畳み掛けた。
「あれ? 亜姫はまだ聞かされてない? 私も麻美達と同じなの。今日は用事ができちゃって別の人といるんだけど、和泉とは昔から仲いいんだよ。だから安心して?
 亜姫、ひとりじゃ歩けないんでしょ? 和泉から、いつもそばに付いてるって聞いてる。だから手が離せない和泉の代わりにって頼まれたんだから。ほら、早く行かないと。こっちだよ。皆、そっちにいるから。急いで!」
 
 祥子は亜姫の左手を更に強く掴む。優しく笑いかける祥子は、他の人が知り得ない……一人では歩けないという事実を知っていた。
 
 自分が知らなかっただけで、祥子さんも幼馴染だったのか。さっきも普通に話していたし……。
 他の人といたのに、わざわざ迎えに来てくれたのなら申し訳ない。
 
 消えない違和感を、次々に積まれるそれらしい情報で上書きされてゆく。
 すぐ横にある脇道。祥子はグイグイとその中を進んでいく。そこはあまり使われないのか、人がいなかった。それに多少安堵したが、同時に不安もあった。
 考えが上手くまとまらないまま、祥子が矢継ぎ早に繰り出す言葉に翻弄されていく。祥子の強引さと力強さに、足を止めることすら出来なかった。
 
 
 …………どこだろう、ここ。まったく人けがない。
 
 会場から外れた神社の境内、だろうか。先程大きな建物の脇を通り過ぎたが、中に人がいる気配はなかった。
 今いる場所はそこから更に少し奥まった場所にあり、まだ陽があるにも関わらずかなり薄暗い。奥は林になっていて、どこを見渡しても人は見当たらなかった。
 
「人混みが怖いだろうから人が少ない道を通ろう」
「急いで歩けば誰かに捕まることもないよ」
 そう言われるがまま、強引に連れられて来た。だが、足を進めるうちに少しずつ違和感が増してきた。
 
 不安でたまらない。
 
 不測の事態が起きたとして。果たして和泉がこんなお願いをするだろうか?
 さっき初めて会った人に?
 その場合、頼むとしたら麻美にではないだろうか?
 では、なぜ和泉しか知らない情報を知っている? 麻美達にすら、自分の話はしていないのに。
 
 その情報を知らされるほど仲がいいのなら、何故祥子さんを紹介されてないのだろう?
 あの時、皆の雰囲気もおかしかった。
 
 ───そういえば、和泉はこう言っていた。
 「麻美以外の幼馴染は、全員男だ」と。
 
 祥子さんは、幼馴染ではない。
 皆のように和泉を「カイ」と呼ばない。
 そんな人に、和泉が伝言を頼むだろうか?
 よくよく考えてみれば、どこで発作を起こすかわからない自分を和泉が他の人に託すわけがない。
 
 一人で歩けない、和泉がそばについてる、人混みを怖がっている──それらの情報は、よく見ていればわかりそうなものだ。
 「その理由」を、彼女は一言も口に出していない。
 
 ようやく、明らかにおかしいと理解する。
 その場に立ち止まると、勢いよく手を引いて祥子の手を振り払った。
「ごめんなさい、ちょっと……和泉に電話しても、いいかな?」
 
 亜姫がそんな行動を取ったにも関わらず、祥子は驚くこともなくゆっくり振り返る。そして、不自然なほど優しい声で「どうしたの?」と尋ねてきた。
 
 心臓が大きな音を立てている。
 膨らみ出した違和感に嫌な汗が出る。
 
 祥子の返事を待たずに携帯を出そうとしたら、今度は驚くほど冷たい声が降ってきた。
「駄目だよ、電話なんかしたら」
 
 亜姫は祥子を見た。彼女の顔は、変わらず優しいままだ。
 だがそんな彼女から発せられたのは、先程の低くて冷たい声だった。
「あんたは、もう和泉と一緒にはいられないんだから」

 言われた瞬間、左手が後方へ強く引かれた。
 同時に、後ろから「捕まえた」とくすくす笑う男の声。
 
 亜姫の心臓が飛び出しそうなほど大きく跳ね、全身から一気に血の気が引いた。
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