上 下
208 / 364
高3

祭り(3)

しおりを挟む
 会場は想像よりも大きかった。まだ昼間だからか大人よりも小さな子が沢山いて、子ども達があちこち走り回るその雰囲気は純粋に楽しめる。
 そこから少し外れた、静かな場所に敷かれたシート。そこに彼らはいた。
 
 麻美と早川颯太。
 そして別の学校に通う、健吾けんご、圭介、隆。
 
「……はじめまして」
 緊張で声が上擦ったが、麻美と颯太のおかげもあって、亜姫はすんなり溶け込めた。
 
 想像に反して、彼らとの時間は快適だった。
 全員がすごく自然体だ。人に気負いや不快を与える要素が一切なく、それぞれがありのままで互いを受け入れ、それぞれの個性がうまく調和しあっている。
 それは、新たに混じった亜姫に対しても同じで。
 気がつけば、さっき初めて会ったことなど忘れてしまいそうなぐらいリラックスして過ごせていた。和泉が隣にいて、彼らとの距離をうまく保ってくれたことも大きかったかもしれない
 不安で潰れそうになっていた亜姫から、ようやく体の強張りが抜けた。
 
「な? 大丈夫だって言っただろ?」
 和泉はそう言って笑った。
 
 一度、屋台を覗きに行くか。誰からともなくそんな声が出て、皆でブラブラと出かける。
 
 和泉達の地元だけあって、歩けばあちこちで知り合いに会う。彼らが交わす挨拶を聞きながら歩いていると、
「和泉ー!」
 一際大きな声で和泉を呼ぶ女性の声。
 
 麻美が「なんで……」と呟いた声に疑問を感じる暇もなく、その声の主はやって来た。
 
「和泉! 元気?」
 皆の纏う空気が微妙に変化したのを感じつつ、亜姫は黙っていた。チラリと見上げてみれば、和泉はいつもと変わらない。
 爽やかな笑顔を向けた彼女は、前にいる健吾達を押しのけるようにして和泉の前へ来た。
 そして和泉に話しかけながら腕に触れようとして、その反対側へ立つ亜姫に視線を固定する。
 
 ドキン。
 亜姫の心臓が、大きく跳ねた。

 和泉と付き合う中で、人から妬まれたり酷いことを言われたり……いわゆる悪意を向けられる事は多々あった。
 でも。
 それとは全然違う……もっと強烈な何かを彼女の視線から感じた。
 背中がスウッと冷えていく。
 その理由は和泉のそばにいることだと察知して、亜姫は無意識に体を離そうとする。
 と、力強い腕にグイッと引き戻された。亜姫が見上げると、優しい瞳の和泉と目が合う。
 「ここにいろ」と言われているような気がして、余計な力が抜けた。
 
 その時、彼女に掴まれそうな腕を和泉が遠ざけた。
 そこに小さな疑問を持った。麻美達といる時には見られなかった仕草だ。
 
 何だろう? 違和感が……。
 
「ねぇ。その子、誰?」
 唐突な問いに、亜姫は思考を中断して彼女を見る。
 先ほど見た視線とは全然違う、爽やかな笑顔を向けてくる彼女と目が合った。そこにも、また違和感を感じた。
 
「彼女」
 和泉はそう言いながら、亜姫を更に抱き寄せる。
 
「へぇ! 可愛い子。名前は?」
 親しげに近づいてきた彼女と互いに自己紹介をする。
「私も和泉と同じ地元なの。これからよろしくね!」
 そう言うと、彼女はまた後でね! と爽やかに去って行った。最後まで、他の人とは一切関わることなく。
 
 その後ろ姿を見た麻美が、不快を隠さず言った。
「亜姫。祥子しょうことは仲良くしなくていいからね」
 
 麻美は好き嫌いが激しいと言っていたから、彼女とは仲が悪いのだろうか?
 そう思った亜姫は曖昧に頷き、移動を再開した。
 自分の中にある、違和感全てに蓋をして。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...