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高3

亜姫の家で(6)

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「お前がどれだけ言おうが、今夜そういう事はしない」
「どうして……?」
「俺が今ここにいるのは、頼まれたからだって言ったろ? 俺の役目も言ったよな?」
「うん。でも………」
「亜姫。おばさん達がどんな気持ちでいたか……そーゆーの、考えたことはある?」
「え……?」
「あんなに早い時間に、二人揃ってお前を迎えに来たんだよ? いつも通りに笑ってるけど、どれだけ心配かけてたと思う?」
 
 「あ……」と漏らした亜姫の顔を見れば、今初めて思い至ったことがうかがえる。
 
「お前と同じだよ。亜姫に心配かけさせないようにって、わざと明るく振る舞ってるんだ。
 おばさん達も眠れないって言ってた。冗談めかしてたけど、本当だと思う。……二人共、時々目の下に酷いくまを作ってるもん。心配してる姿をお前に見せないようにしてるんだよ」
「そう、なんだ……」
 知らなかったと呟いた亜姫の頬を、和泉は軽くつねる。
「亜姫。親の顔、もっとちゃんと見ろよ。心配かけたくないって言うけどさ、面倒見てもらうのは当たり前だと思ってないか?
 お前も余裕ないんだろうけど……おばさん、お前が眠れなかった翌日なんてすごく辛そうだよ? お前が心配で寝てないんだよ、きっと」
 
 初めて知る事実。亜姫は哀しそうに眉を下げた。
 そこに、和泉は優しく笑いかける。
 
「……俺の為でもあるんだと思う」
 
 話しやすい位置に体の向きを変え、肘をついた上に頭をのせて、和泉は亜姫の傷にそっと触れた。
「これは、俺のせいだ。今日お前が大きな発作起こすことになったのも、俺のせい。
 おばさん達が仕事放り出さなきゃいけなかったのも、お前が深く傷ついたのも俺のせいだ。
 全部、俺のせいだとわかってるのに……それでも、お前の親は文句一つ言わない。思うところはあるだろうに、我慢してくれてるんだろうな。
 そのうえで、情けなく泣いた俺の気持ちまで拾ってくれたんだと思う。「眠れない、休もう」って言った俺達の為に、今日俺を家に呼んだんだ。
 さっきおじさんから聞かされたよ、冬夜にも許可を取ってあるって。
 お前は知ってた? おじさん達が冬夜と連絡取り合ってること」
 
 亜姫は驚きに目を見開いた。やはり知らなかったようだ。
 
「俺達、ずっと大人に守られてたんだよ。そうやって自由に動ける環境を作ってもらってたんだ。だから出来てただけなのに……そんなこと気付きもせず、俺は自分の力だけで上手くやれてると思ってた。
 でも実際は、自分の感情すらコントロール出来なくてお前をあんなに追い詰めて傷つけて……やっぱり、俺はまだガキなんだって思い知った。
 大人は俺らに見えないものも沢山見えてて、その上で色んな事をサラッとこなしてるんだよな。すごいよ。
 ………普通、言えないよ? 俺が女を雑に扱ってセックスばっかしてた奴だって知ってんのに、お前と同じ布団で寝ろなんて。
 俺が親父なら、絶対こんな男と一緒になんて寝かせない」
 ハハッ……と、和泉は自分の過去を蔑むように和泉は笑う。
「でも。俺になら頼めるって……言ってもらったんだ」
 
 和泉は真顔で亜姫を見据えた。
 
「嬉しかったよ、すごく。でも……おじさんが、どんな気持ちでそんなことを言ったと思う?
 お前の為だよ、亜姫。お前をゆっくり寝かせてやりたいって、休ませてやりたいって……それだけ強く願ったってことだろ?
 嫁入り前の大事な一人娘をこんな男に預けなきゃいけないなんて、気が気じゃないはずだよ。ゆっくり眠りたいなんて嘘に決まってるだろ。今だって、きっと眠れてねーよ。
 ……それでも、託してもらったんだ。わざわざ年下の冬夜に頭下げて許可を得てまで。
 俺はそれを無駄にしたくないし、裏切りたくない。その気持ちにちゃんと応えたい。
 昼、お前とここで過ごしている時も俺は同じ気持ちでいる」
 
 亜姫は小さく頷いた。理解してもらえたことにホッとして、和泉は微笑む。
 
「ほら、布団に入れ。お前がちゃんと休んでくれないと何しに来たのって話だし、風邪なんかひかせたらそれこそ顔向けできなくなる」
 和泉が寝る態勢に戻ると、亜姫もその胸元へ体を擦り寄せた。
 
「頼むから、今日だけは魘されるなよ……?」
 そう言いながら、和泉は亜姫の体を強く抱きこんだ。
「和泉も。今日は悪い夢、見ないでね……?」
 亜姫も、和泉の身体に腕を回す。
 
 そして小さな声でお休みを伝えると、そのまま眠りに落ちていった。
 
 
 規則的な寝息が聞こえたのを確認してそっと二人に近づき、布団を直しながらくすくすと笑う人影が2つあった。そのことを、和泉達はもちろん知らない。
 
 二人は寄り添ったまま、朝まで一度も起きなかった。
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